第13話 初めてのマッチング
「やーっと風邪がなおったぜ。お参りでも行くとしますか」
「孝之あんたねえ。病み上がりに無理するとろくなことになんないよ」
「あいかわらず小言が多いな母ちゃん。明後日にはもう仕事なんだから少しは遊ばせてくれっての」
「もう! お父さんも何か言ってください」
新聞を片手に朝飯を食べていた親父はこちらを向いた。
「……ん。まあなんだ。子供は風の子って言うしな」
「孝之はもう三十路です!!」
あいかわらずの夫婦漫才。仲がいいんだか悪いんだか。呆れて何も言う気にならねえ。
そんな親たちを横目にテレビを見ているとちょうど天気予報が始まる。やべ、この局だと現れるのは……。
『ウェザーニュースのお時間です。八代美月さーん出番ですよ』
『はーい。今日も皆さんおはようございまーす! 本日も元気に過ごしていきましょう』
司会のおっさんから視点が移り、天気予報の時間へ。そこで登場したゆるふわ人気お天気お姉さんが饒舌に喋っている。
はぁ……失恋した後の俺には八代の姿を見るだけで虚しい気持ちになっちまう。あっちは大金持ちの社長と結婚だからな。雲の上すぎて嫉妬もできない。
「この八代ってニュースキャスター最近、人気みたいね。あんたもこれくらい可愛い子を嫁にもらいなさいよ」
「だぁー、またその小言かよ。あっちは芸能人。俺は一般人。無理に決まってんだろ」
「わかんないじゃない。女ってのはね大きく分けて2種類あるの。相手に寄りかかりたい人と寄りかかってほしい人がいるんだから。
孝之は家事ができないダメ男なんだから、寄りかかってほしい相手なら案外うまく行くもんよ」
だせえご当地ゆるキャラエプロンをした母ちゃんは急にドヤ顔で語り始める。それを察したのか親父は新聞で顔を隠して我関せず状態。
逃げたなこの野郎。
母ちゃんはご近所さんと数時間当たり前のようにぴーちくぱーちく話しまくるからな。話を聞いてるだけで1日が終わってしまう。こうなったらさっさと話しをすり替えて逃げ出すしかねえな。
「わかったわかった。母ちゃんの意見はよーく、わかった。ちなみに母ちゃんはどっちタイプだったんだ?」
「それはもう決まってんじゃない。相手によりかかりたいタイプに決まってるでしょ。ねえ、お父さん」
「う、うむ。そうだな」
50を超えたおばさんが親父にしなだれかかる姿はなかなかに凶悪な光景だった。親父も正直、引いてるもんなあれ。
しかしまあ相手を頼りたいか、頼られたいかか。俺はどっちなんだろうな。それが最初っからわかったら苦労しねえか、はは。
なんだかんだ親はある程度の経験をしてから結婚したんだ。あながち間違ってない言葉として受け取っておこう。
それはそれとして、こっそり部屋から逃げ出すのは当然である。へへ、悪いな母ちゃん。日本人としてお参りは三が日の間に行きてえからよ。
「うー、さぶさぶ。全身、防寒装備で固めてもこれかよ」
冬空の快晴は気持ちいくらい青空で彩られていた。その代わりめちゃんこ寒いんだけどな。
ダウンとマフラー、手袋してもこれだから困る。
数10分歩いて神社に着くと少ないながらも出店が並んでいた。それと無料で配る甘酒には長蛇の列が。
こういう時に暖かい甘酒は格別なんだよな。よし、並ぼう。
周りは家族連れやお年寄りが多い。こっちは田舎だからか若いカップルなんて欠片もいやしない。どうりで街が過疎るわけだよ。
どうやら甘酒が足りないようで列は全然進まない。この暇な時間を有効活用するしかねえ。
柚葉に教えてもらった婚活アプリ。ケッコン(ガチ)を起動させる。
「あれ、通知が来てる」
なになに。今回、新しくGPSで近い相手とマッチングする機能を追加しました、だと。最近のアプリは本当にハイテクだな。
ここは俺の地元だし、知り合いとマッチングなんかしたらめちゃくちゃ気まずい可能性があるのが怖いが。
社会人になったら新しい出会いなんて一切なくなるから。こういうのにでも手を出さないと世の中の男女はマッチングしない世の中になってるんだろうな。
柚葉のオススメだしやってみてもいいか。
ポチっとな、と押すと。すぐにピコン、と近くにいる相手が表示された。どうやらお相手もこの神社に来ているらしい。
タップすると顔写真とニックネームが表示される。
「月宮ゆあ? アニメキャラの名前かっての。あ、でも顔は可愛いな。格好は変だけど」
ゴスロリってやつなのだろうか。白と黒のドレスはなかなかに着る人を選ぶ服だろうに。月宮ゆあって子は持ち前の可愛さと化粧やカラコンでむしろ似合っていると言えるくらいに可愛い。
年齢は25と若いし、趣味はアニメやコスプレって書いてあるからこういうのが好きな若者なんだろう。
おっさんの俺がマッチングのお誘いボタンを押したところで蹴られるのが関の山。そう思って別の相手を探そうとした時、月宮ゆあからマッチングのお誘いが来た。
「へ? マジかよ」
思わず驚きの声がもれちまうほど驚いてしまった。
せっかくのお誘いだし、アプリに慣れる意味でもマッチングしてみるか。
そう軽い気持ちで押したことを後で俺はめっちゃ後悔する。なぜならこのマッチングした地雷女との出会いが奇想天外摩訶不思議な方向に話が流れていくからだった。
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