第38話会議後のひと時とエドガーの情報
会議が終わったのでそれぞれ自由に話し始めた。
イーヴァルはシェルトの隣に向かい、先生と3人で今日の話しをまとめた紙を見直している。
テディも机の上に乗り、今後の話について聞くようだ。
ティナはベネディクトをユーリアの隣から追いやり、自分が座る。そして、コソッと話しかける。
「ユーリア。ルーカス先生とさ……あの後どうなったの?」
ティナは好奇心全開の問いをユーリアヘとぶつけてきた。
恐らく、演技で諜報活動するという事は分かってはいるがが、実際に見た事のないティナには衝撃的だったのだろう。
続きが知りたくてうずうずしているようだ。ユーリアは事実を淡々と述べる。
「新婚旅行でカフェ。衣装を借りてレストラン」
ベネディクトとドニ、ヤンはその言葉に食いつく。
「ルーカス先生、結婚してたの?」
「あの女の人は結婚相手だったのかよ。任務に女連れてくるとかあり得ないよな。それでユーリアが放置されてチンピラに絡まれたんだろ!」
ドニはルーカスが結婚したと勘違いし驚き、ヤンは女を連れてきた事に憤慨している。
「ユーリア、新婚旅行って……未成年だよな」
ベネディクトはルーカスの背中とユーリアを見比べ、昨日の情景を思い出しているようだ。
二人が結婚したと勘違いしている。
ルーカスは聞こえているが、あえて無視して、ベティーナとイーヴァルは2人でクスクス笑っている。シェルトは我関せずと黙々と紙を睨み続けている。
ティナはその様子を見て腹を抱えて笑い出した。
「ユーリア、面白すぎるよ。この状況。男子は放置しよ!」
ティナはベットに仰向けで倒れると、ユーリアを手招きする。
ユーリアもベットに横になる。
ティナが俯きに体を転がし、二人並んでコソコソと秘密の話をする。
もちろん男子にもルーカス達にも聞こえないようにだ。
「で、ユーリア。諜報活動どうだったの。露店であった時はかなり初々しいカップルだったじゃない? あのままカフェとかでも演技してたの?」
「あのままではないかな。新婚になるから恋が実ったお嬢様って感じに変えたの。設定聞く?」
「聞く聞く!」
二人の会話に混ぜてもらえない男子達は、必死に聞き耳を立てようとしているが、何も聞こえないので諦めたようだ。
ルーカスに話を聞こうにも、向こうは真面目に今後の方針について議論しているので、話かける事はできない。
男子三人顔を合わせてため息をついて、ルーカスを見るのであった。
ルーカスは視線が鬱陶しくなったのか、男子達を見やり、一旦イーヴァル達との話を中断した。
「ベネディクト、ヤン、ドニ。あれは諜報活動の一環だ。私は結婚などしていない。全て演技だ。
ユーリアを組織と関わらせないために単独で行動した隙に、逆にユーリアがチンピラに絡まれてしまったのだ。その点については不覚だった。
だが、お前らが想像しているようなやましい事は一切ない。
シェルト続きを話すぞ」
ルーカスはそれ以上説明はしないと背中で語り、ベネディクト達は一喝され、視線をルーカスから外し下を向く。
その様子を見ながら、再度ティナは爆笑する。
「面白すぎる。皆の誤解があ〜。変な方向に。クックック」
あまりにも笑われたベネディクトは怒ったのか、ティナを睨む。
「あの状況見たら、普通ビックリするだろ! それに今のユーリアの話じゃ……結婚してるみたいに……」
ベネディクトは始めは怒っていたが、自分で結婚と口にすると動揺したように言葉が詰まり始めた。
「だから、あれは設定なんだって……! 諜報活動で色んなところに潜り込むためには、そういう設定が大事なんだよ! 夫婦役の方が得やすい情報だってあるし、普通の学生じゃ入れない場所もあるでしょう!」
「シュペルノベイルの宰相と陛下の右腕、イルムヒルムにいる。レストラン入らなきゃ分からなかった」
ティナとユーリアの言葉にベネディクトは真顔に戻ると、何かを考えるように頷き始めた。
だが、首を横に振り自分の中の考えを否定している。
「諜報活動に大事なのは分かったけど、あそこまでする必要ないだろ。アーンとか、ペロッとか……本当のカップルじゃないか!」
ベネディクトは顔を真っ赤にさせて話をしている。
「別にあの程度普通。ルーカス距離感保ってた」
「ルーカス先生何したの? 私たちといた時はネックレスに口づけしてたよね……あれフェリクス様にやってほしい!」
ティナは割って入り、自分の願望を告げる。相当フェリクスが好みのようだ。
「ルーカスのお菓子一口もらって、ポテトもらった。フェリクスもやってくれると思う」
ティナは妄想に入り、顔を真っ赤にさせながら乙女の表情をしている。
ベネディクトはあの程度という言葉に引っかかりがあるようで悶々としているようだ。
ヤンとドニは置いてけぼりの会話について行けていない。
先生と三人の話が終わったのかテディがこちらにやってくる。
「何やら楽しそうなお話が聞こえておりますね」
ティナはテディにロックオンすると、キュッと抱きつく。そして、頭を撫で始めた。
「テディさん。フェリクス様ってアーンとかしてくれるかな……私やって欲しい!」
喉を鳴らしながら、ユーリアを一度見る。ユーリアは頷くと今度はティナを見つめながら答えた。
「そうですね、少々フェリクスは堅物ですが、ティナ様に可愛くお願いされれば、その程度了承すると思いますよ」
テディの言葉に嬉しくなったのか。ティナはベットから起き上がり、テディを抱っこする。
「そうかなー。うふふ。フェリクス様に会えるのが楽しみ!」
ティナは膝の上でテディを撫で続け、妄想に耽っていた。
*
その頃のイルムヒルムの宿の一室では、二日酔いで眠るエドガーの姿があった。
今日は夜からまた他国との会談があるため、ずっと部屋にいたのだ。
ジョエルはエドガーの寝ている布団の縁に腰をかけ、日が落ちてきた空を見つめながら、話しかけた。
「エドガー起きてるんでしょ? 良かったわね。弟子が元気で……」
エドガーは重たい目を開け、焦点の合わない目を擦り、天井を見つめる。
「元気すぎて困る……。もう少し大人しくしてもらいたいところだ……。ところで、ユーリア達の服は返してきてくれたか?」
早朝に出立するため、ユーリアから返却を頼まれていたのだ。師匠使いが荒い弟子で困ったものだ。
「ええ、指示通りにすでに返却済みですわ」
ユーリアから地図を渡されていたため、迷う事なく、貸衣装屋には行けた。
返却の時に店員が不思議そうな目でジョエルを見たので、主人が体調を崩したので、自分が来たと伝えれば、今度は様子を聞かれた。
しばらく部屋には沈黙が流れた。
エドガーは話すか話さないか迷っているようだ。
ジョエルとは長い付き合いなのだ、すぐお見通しである。
「エドガー、何か話したい事があって?」
ジョエルが少し視線をエドガーに移し話しかけると、エドガーはため息をつき、重い口を開いた。
「ジョエル、アイツが目をつけられている組織は厄介だぞ。昨日会ったやつも目がヤバかった。狂信者だ。
自分の組織が行うことは正しいと思ってやがる。
アイツらは赤魔石を集めて何をしようとしていると思う?」
「赤魔石?」
ジョエルは視線をエドガーから外し、はてと考えている。だが、赤魔石だけで行えることなど限られている。
「黒魔石なら分かるけど、赤魔石を必死に集める意味がわからないわ」
「だよな……アイツらは阿保だ。どれほど犠牲が出ても構わんらしい」
「犠牲……まさか魔力持ちを複数捧げて……」
ジョエルの顔が青ざめてしまった。視線をエドガーに戻すと、エドガーはいつの間にかにジョエルを見ていたようで、二人の目が合った。
そして、エドガーは目を瞑り、再度天井を見る。
「魔獣の召喚というよりも精製だ。しかも想定している規模が違う。
いくつ命が必要だと思っているんだ……それよりも情報の出所が分からん。我が国では漏らすものはいない。
ただ単に信仰心からあの言葉が出たのか、魔獣側の誰かが組織に漏らしたのか分からん」
憤りながら拳を握りしめるエドガーを見つめながら、ジョエルは震える腕を抑えて、必死に声をだす。
「精製は失敗に終わる。ただの召喚魔石と赤魔石だけでは核にはならない。不完全な魔獣が出来上がり最悪、人間も魔獣も滅ぶ……」
「そこまで分かっていないから阿呆だと言っているんだ。ただ赤魔石と召喚魔石を集めればいいと話していた。そうすれば偉大な神がこの世界に君臨すると……どこの誰がそんな話を作ったのか」
エドガーはため息をつき、ユーリアが朝まで寝ていた枕を見つめる。
「アイツには厄介事がまとわりつく。払ってやりたいのに俺の側からは離れていく」
一度、天井に向けて拳を突き出し、一気に腕の力を抜き拳を下げた。そして、ジョエルに視線を向ける。ジョエルはその視線を受け止めると、首を縦に振り、力強い目でルーカスを見て、それから戯けた。
「彼女にはもうこれ以上の不幸はいらないのに……私も情報を集めるわ。ふふふ。自由に生きたいのは母親譲りなのでしょうね」
「師匠に似てるなぁ。母と娘ってそんなもんなのかなぁ」
エドガーはまた布団に潜り二度寝をするのであった。ジョエルはポツリと呟く。
「その親子に惚れた男なら分かるでしょうに……」
夕日が綺麗に辺りを染め、もうすぐ夜の闇がやってくる。
ジョエルは時間ギリギリまでエドガーをそっとしておく事にした。
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