帰郷とキメラと大失恋
第32話出立
夏休みが始まり3日後の早朝。ユーリアはテディと一緒に学園都市ヴァルヴィストの南門の前へと来ていた。
すでにメンバーは揃っているようだ。
「皆おはよう。最後?」
「ユーリアはいつもギリギリだよね」
ティナは昨日購入した花柄ワンピースだ。バカンスのために奮発していたのだ。
シェルトは収納魔法の魔術具を出し、皆の荷物をまとめてくれるようだ。
作り方は教えてくれなかった。
テディが誰だか分からないので、首を傾げているティナ達に紹介してもらう。
「皆さまお初にお目にかかる方もいらっしゃいますので、私はテディ、ユーリア様の下僕でございます。
皆様の事はユーリア様よりお伺いしておりますので、お時間もございますので、ご紹介いただかなくても結構です。
それでは門を出たところに今回のユーリア様の従者を待たせております」
テディが手を腰にして腕を出したので、腕を組む。
「この方ってユーリアが言っていたなんでもできる素敵紳士さん? そばにいると癒されるって言ってたけど、本当に素敵な方ね!」
「ティナ様ですね。ユーリア様のご親友のいつも主人がお世話になっております。
ユーリア様が私の事をそのようにご説明いただいてるとは感動でございます。癒しは恐らくまた別な意味かと思いますが……主人を癒す事は私の本望でございますからね」
テディが空いている手を胸の前にして軽く頭を下げる。ルーカスが歩み出る。
「今回は世話になる。獣の情報を集めるのは我々では不可能だ。頼んだぞ」
「承知しております。同じ学園の生徒が魔獣の諍いに巻き込まれる事に主人は心を痛めております。早々に解決できるよう力を尽くします。それでは参りますよ」
テディはユーリアをエスコートしながら門の外へと出た。
*
門の外にはやはり執事のような格好に、髪の赤い男性が胸に手を当て頭を下げていた。
「お待ちしておりました。この度ユーリア様よりご命令いただきまして、皆様をお連れするフェリクスと申します。よろしくお願いします」
「フェリクス!」
ユーリアは小走りにフェリクスに近づき抱きついた。フェリクスも抱きしめてくれる。
「ユーリア様にお呼びいただけで光栄です。お会いできるのをお待ちしておりましたよ」
「私も会いたかった」
「ユーリア!」
「待ってたの」
フェリクスの後ろから同じく赤い髪の5,6歳に見える女のコが2人顔をのぞかせた。
「ニノンにマノン! 今日も可愛い〜!」
ユーリアは2人の顔を見て喜ぶと、抱きつく。
双子のように顔が似ていて、見分けがつかないのでいつも髪型を変えているのだ。
こちらから見て右側にポニーテールを結んでいるのがニノンで、左側に結んでいるのがマノンだ。
「ユーリアは今日はボーイッシュ。いつもの可愛い格好見たい」
「また、髪の毛いじってー。可愛い髪型になりたい!」
2人はユーリアに戯れてくる。テディが先を急ぐため2人から引き離す。
ついつい、可愛いので話が長くなってしまうのだ。
2人は頰を膨らませて不満な事をアピールしているが、テディは気にしない。
フェリクスはその様子を微笑みながら見守ると、話を続ける。
「ユーリア様この先長い旅路になりますので、早く出立しましょう。
残りのものはあちらの森におりますので、森に入ってから本格的な移動を始めましょう」
フェリクスを先導として一行は森まで歩く。
道中はティナと一緒に双子ちゃんと話をしていく。
森に着くと、面倒な奴が声を掛けてきた。
「ユーリア待っていたぞ! 私に声を掛けないとはどういう事だ。将来の伴侶だろう」
待っていたのは顔の整った黒髪の青年である。
後ろに黒い鷲の様な鳥を4匹ほど連れている。
「皆様、自称ですので誤解なく。ユーリア様には現在は婚約者はおりませんし、このような青二才シモベにもなれません」
テディが青年を睨みつける。青年は少したじろぐが引く気はないようだ。
「ユーリアと私は話をしているのだ。この命ユーリアに救われたのだ、私が彼女の生涯を幸せにするのだ」
「カルアス黙って! 頭が痛い。私は誰とも結婚しない。先を急ぐの。力を貸してくれるなら感謝するけど、それと結婚を繋げるなら、帰って!」
ユーリアに怒られるとカルアスはしゅんと大人しくなってしまう。
テディは一瞥し、フェリクスもカルアスを睨みつけると、事情を説明する。
「こちらはカルアスです。ユーリア様にお仕えしているわけではないのですが、一方的に慕っており、情報を集めてはこのように押しかけてくるのです。今回は我々の種族も数を裂けなかったため、カルアスの助けも受ける事になりました。
ですので、この度は2つの種族で皆様をシュペルノヴェイルまでお連れします」
そういうと、フェリクスは誰が誰を運ぶかを選び始める。
ティナがこそっとユーリアに話掛けてくる。
「私フェリクスさん希望。ユーリアお願い……」
「んー、分かった適当に私が割り振る」
フェリクスにティナを、スカートなので魔獣型でなく人型で運べるものがいいのだ。
カルアスはベティーナを、理由は同じだ。
マノン、二ノンはドニ、ベネディクトを。
成人しているものに加え、年の割に大きめなヤンはカルアスのお供にお願いする事になった。
*
「それでは、出発致しましょう」
テディの一声で、魔獣たちは各々の形態を変える。
フェリクスは赤い翼を生やし、カルアスは黒い翼をを出した。
ニノンとマノンは所々に所々に黒い羽根が混じった、赤い鳥の姿へと変える。まだフワフワの羽毛で丸く見える。
カルアスのお供は姿を大きくし、人が乗れる程の大きさとなった。
「これに乗るのか……」
声を上げたのはベネディクトだ。どうやら可愛らしい鳥に乗るのに抵抗があるらしい。
「ニノンは力持ちだから大丈夫なのー。ベネディクトまだチビだから余裕だしー!」
ベネディクトはしぶしぶニノンの元へ行き、ドニはマノンに挨拶をする。
「僕はドニ。マノンちゃんかな? フワフワで可愛いね」
「ドニー! 分かる? 昨日一生懸命水浴びしたり、毛づくろいしたの!」
マノンは褒められたのが嬉しいのか、ぴょんぴょん跳ねてドニに擦りつく。
「ニノンも一緒に水浴びしたし、毛づくろいしたよ! ニノンも褒めてー!」
ベネディクトは、ニノンの頭を撫でてやりながら、棒読みで「可愛いぞ」と言った。
「ベネディクトは、女心分からないんだね。そういう男の子はモテないよ。ニノン、ドニがいいー。マノン変わってー」
「ユーリア様から言われてるんだから、文句言っちゃダメなんだよ。ベネディクトはまだ子供なんだからしょうがないじゃない。大目に見なさいよ。ね、ドニー!」
先程まで5,6歳だった2人に言われ、ベネディクトは唖然としている。ドニもなんとも言えない表情になっている。
「ニノン、マノン。ユーリア様のご学友に失礼ですよ、ベネディクト様はいろいろな事をこれから経験されて、紳士になっていくのです。女性に対しては何事も経験則です」
素敵紳士テディが、ニノンとマノンを窘めた。2人は「はぁーい」と言いながら、向き合ってクスクス笑っている。
「ベネディクト、経験不足だって」
「彼女いないんだー」
「ニノン。マノン。ベネディクトはいい人なんだから、これ以上いじめないの」
「「はぁーい」」
ユーリアにも叱責された事で、2人は静かになった。
「それでは空の旅と行きましょう!」
フェリクスはティナを抱き上げ、空へと先行する。
追随してニノンマノンが後を追う。
カルアスはベティーナを抱き上げる。
「綺麗な女性をお連れする事ができ、恐悦至極でございます」
「あら、この度はお世話になりますね」
おっとりした表情で抱き上げられるベティーナは微笑んだ。カルアスも笑顔で飛び立つ。
お供4羽がルーカス、イーヴァル、シェルト、ヤンを乗せ、飛び立った。
テディがユーリアの手を取り抱き上げた。
「それでは参りましょうか。ユーリア様」
*
テディは羽根を出すわけでもなく、浮遊する。そのまま一気に先頭のフェリクスの隣へと向かった。
「ティナー! 空の旅大丈夫?」
「ユーリア、とても快適……」
フェリクスに抱きしめられたままのティナの顔はニヤケている。相当フェリクスの顔が好みらしく、幸せそうだ。
「皆まだ魔獣に乗るの慣れてないから、スピードに気をつけてね。慣れてきたら、スピードアップしよう」
ユーリアが、テディとフェリクスに注意をした。
皆はじめは顔が引きつっていたが、慣れてくると景色を見れるようになったようで、空の旅を楽しんでくれているようだ。
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