第31話旅立ちの打ち合わせと臨時バイト
「シュペルノヴェイルの情報収集は生徒会の4年生が担う事になったんだけど……非戦闘員だけだと危ないから、僕とベティーナ、ルーカス先生とシェルトの4人2組でペアを組んで潜入するんだ」
ベティーナが別行動と言っていた意味が分かった。私達と別れて情報収集をするつもりだったのだろう。
「そっか、じゃあ私達と一緒に出発しましょうよー。海皆でいきましょー! 人数多い方が楽しいし」
ティナがグイグイ腕を引っ張っている。そこで口を開いたのはシェルトだ。
「遠征にも予算が決められているのだ。早めに行くことは出来ない」
冷静な判断だ。宿代や食事代など、滞在を早めるだけでかかるものが出てくる。
「ユーリアなんとかできない? ベネディクト達の分もあるんだよね?」
ユーリアは考える。宿代と、馬車代は浮くだろう。元々馬車は使う気は無かったのだ。
「宿代はうちに泊める。馬車代はかからない。食費は考えてもらう。バイト」
「馬車代ってまさか……」
ルーカスは何か思い出したようで、身震いした。
「この前の狼さん達に頼むんだよねー?」
ティナが当たり前のように言う。魔獣を使うとは言っていた。だが、南で魔獣が活発しているという事は陸路は面倒そうだ。
「ルーカス、ウルフィードの森とジャグール平原の魔物が活発してるの?」
「ああ、よくわかったな」
イルムヒルムを拠点としシュペルノヴェイルに情報収集に向かうという事は間に位置する2つの場所で問題があるのは推測がついた。
あそこの魔物は元から統一が取れにくいのだ。何か小競り合いに人間が巻き込まれている可能性が高い。
ちなみにウルフィードの森はワイドのテリトリーの一部である。何をしているのか……。
「そして、イルムヒルムの救援要請はシュペルノヴェイルには出ていないって事?」
ユーリアはルーカスに問う。イルムヒルムはシュペルノヴェイルに対し一方的に対抗心を持っているため、恐らくシュペルノヴェイルには救援要請をしていないのだ。
でなければ、わざわざこの学園都市にまで要請はかけない。
「こちらに救援要請が来たのであれば、シュペルノヴェイルには出ていないと見ている。その辺も含めた情報収集だ。何せイルムヒルムはあまり多くは伝えない国だろうから」
イルムヒルムは隠匿癖のある都市で、非友好的なため陛下も嫌悪していたのだ。
「となると、騎士団とは時間差でイルムヒルム入りして、森と平原を迂回するルート。時間かかる」
「ああ、本来10日程の日程を、多く見て片道2週間の予定だ」
迂回路で相当タイムロスしている。
「空からなら直線で休憩挟んで2日くらいでイルムヒルム。あと2日くらいでシュペルノヴェイル」
「今度は飛べるのー? すごーい狼さんだと思ってたから、空飛べるのはすごいや」
ティナ以外は皆唖然としている。狼と知り合いというだけでも意外だったのに、他にも知り合いがいるとは思っていなかったのだろう。
とりあえず、今日はテディが魔石にいるので、許可を取る。
「テディ。いい?」
「にゃー」
ペンダントから猫の声がして皆こちらを見ている。見せた事はなかったが追々、あちらに行ってから見せればいいだろうか。
「テディいい。ルーカスも行く?」
ルーカス達は視線を合わせ目で何か合図を送っている。先輩達はOKそうだ。
「ああ、シュペルノヴェイルで情報収集ができ始める日が早い方が我々としてはありがたい」
「うん。連絡取る」
「馬車の方は分かったが、この人数をお前の実家で面倒見てもらえるのか?」
「ん。別宅問題ない。家族そこにいない。管理人だけ。兄に連絡取る。寝具整えてもらう。2人くらいずつ同じ部屋になる」
ベネディクト達から「別宅って……」という声が聞こえたが、シュペルノヴェイルで一番古くからある治療院なのだ。
先祖代々の別宅くらいあるのだ。
「じゃあ、馬車連絡取る。これ確認。無理ならワイド呼ぶ」
ユーリアはポシェットからペンダントより小さめの召喚魔石のストラップを1つ取り出した。
ベネディクト達クラスメイトにはまだ召喚魔石を見せていないため、驚きの声が上がっている。
「ティナそれって……」
「召喚魔石。母の形見の一つ」
母は召喚魔石を5つ持っていた。全て私が相続したが、そのうちの2つは使用しており、2つは兄に渡した。空の魔石は1つのみである。
母は召喚魔石の数だけ辛い別れをしてきたのであろう。
ユーリアは使用している召喚魔石に呼びかける。
距離が離れているので結構魔力と集中力がいるのだ。
「3日後迎えに来てくれる。大丈夫。兄にも準備伝えてくれる」
「今度は何を呼んだんだか……」
ルーカスは頭を抱え、イーヴァル以外は不思議そうに首を傾げている。イーヴァルが皆に説明してくれる。
「召喚魔石って珍しいよね。使い方よくは分からないんだけど、契約している魔獣と遠くにいても念じれば話ができるみたいだよ」
「召喚魔石は稀だし使用者の話などなかなか聞けない。ユーリア君の故郷に着いたらゆっくり話をしようじゃないか……2週間の日程を4日に短縮できるんだ。余裕はあるだろう」
シェルトが研究者の目になってこちらを見ている。何か根ほり葉ほり聞かれそうだ。
「ユーリア、俺たち旅の日程聞いてないんだけど……」
するとティナがポンと手を打つ。
「3週間は向こうに滞在するつもり、後はその日の気分で着の身着のまま遊ぶつもり! 予定は海と買い物だけだよ! 費用は食費と娯楽費のみ!
バイトで貯めたお金で南の国でバカンスだよ!」
「金が……」
ドニは反応しなかったが、ヤンとベネディクトは
金があまりないらしい。2人はバイトして生活費を稼いでいると言っていた。
「なんだ、ベネディクト金がないならこっちに絡むか? 生徒は費用のこともあるから上級生の5、6年生の体術クラスのみしか今回は参加させない。しかも、皆イルムヘルムにいる。
シュペルノヴェイルは少数精鋭で情報集めをするつもりだったからな。
ティナたちもいれば遊びながら情報を集める事は可能だろう。
どうだ?学園長に臨時招集の申し込みするか? 食費を持たなくていいなら情報に見合った金を出せるかもしれない」
「やる!」
2人は2つ返事で答えた。
「ティナたちも協力しなさい。2人だけでは心許ない。ユーリアは土地の利を、ティナは日頃の情報収集の腕の見せ場だ」
ルーカスに上手く使われているような気がするが、お金がもらえるならばやろう。
「ふん。お金出るならやる。テディ達にも魔獣側の動向探らせる。なんなら、ウルフィードの森は一部ワイドの管轄。あの狼に聞けば早い! テディに頼む」
「ユーリア、それ反則だと思う。普通魔獣に直接聞こうと思わないから……」
ティナ達にすごい目で見られた。お金のためならなんでも使う。
「ユーリア、それ、俺たち要らなくないか?」
ベネディクトの問いにユーリアは答える。
「魔獣、自分のテリトリー守るだけ。そこからもらった情報、どの魔獣が暴れ回っているかぐらい……。なぜ暴れているか原因分からなきゃ解決にはならない。人間側観察力ある。双方の情報の擦り合わせ大事。」
シェルトが深く頷く。
「確かに魔獣は種ごとに自衛はするだろうが、なぜ周りが騒いでいるのかまでは分からないだろう。そこに人間の情報をか……ユーリアがいるから取れる策だな……」
ルーカスがため息をつき、酒を飲む。
「ユーリア達に報酬を出すよう学園長に伝える。その心づもりでいなさい」
「あら、随分と楽しそうなお話をなされているのですね。ルーカス先生。ユーリアは本当に優秀ね」
おっとりとした口調で登場したのはベティーナだ。
「今日は打ち合わせだったのですが、シェルト全てこちらの事情を話したようね……」
「全てルーカス先生の判断だ。問題ない」
「そうですの。ルーカス先生はユーリア達を信頼されてるのですね」
おっとりと話す口調とは裏腹に少し険のある目でルーカスを見つめる。ベティーナは諜報活動として向かうことをあまり口外したくなかったのであろう。ましてや、巻き込むつもりなどなかったのだと思う。
「ユーリアに魔獣側の動向も聞けるなら話は早いだろう? それにシュペルノヴェイルの中では別行動になる。問題ない」
「ルーカス先生は本当、結果を急ぐばかりで、1年生を巻き込むのはお止めください。
彼らに都市外での諜報活動は早すぎます。
ユーリアの魔獣側の動向を聞いた報酬を弾めば、無理な諜報活動はさせずにすみます。
ユーリア魔獣側の動向だけ頼むわ。ティナ達は諜報活動はしないこと。慣れない子供がやると身を滅ぼします。あなた達は予定通りバカンスを楽しみなさい。
ルーカス先生それでよろしいですね?」
「ああ」
ベネディクト達の金は消えたが、食事分は報酬で賄うことにすることを告げた。
娯楽費だけは自分でなんとかしてもらう。
「娯楽費だけならなんとかなるぜ」
ヤンとベネディクトは笑顔で顔を見合わせていた。
「私達はまだ話がありますので、場所を変えて話し合うわ。明日のお出かけ楽しみにしているわね。ルーカス先生参りましょう」
少し反省気味のルーカス先生に3日後の招集時間を伝え、先生達は店を後にした。
「バカンス、バカンスー。ユーリア。楽しみ過ぎてきっと眠れない」
「大丈夫。ティナ。明日のためにも体をゆっくり休めて、明日は買い物に行くんでしょ?」
「そうだった。ご飯食べたら帰ろ!」
ティナはずっと隣のテーブルにいたのでパスタが半端だったので、急いで食べ始めた。
「にしても魔獣が暴れてるのに海とか大丈夫なのか? バカンスとか大丈夫なのか?」
ヤンが疑問を口に述べる。
「シュペルノヴェイルの領地。並大抵の魔獣じゃ入れない。魔術具や、魔法。学園より優秀」
シュペルノヴェイルの守りは徹底しているのだ。許可ない魔獣も人間も入れない。国全体に魔術具で結界のような物を展開しているからだと聞いたことがある。
国の機密事項なので詳細までは知らない。
「そんなすごい国に住んでたんだなー。通りでシュペルノヴェイルって上級生にも出身の奴いないだろ?
国の名前は有名なのに、そこからの学生がいないから、なんでかなって思ってたんだけど……。
そういう事か、自国にいた方が学べるって事なんだな」
ベネディクトが深々と頷き、ドニ達も相槌を打っている。
「なんで、ユーリアはここに来たんだ?」
ヤンの言葉に、ユーリアは答えられない。柵が多すぎて何を説明していいか分からない。
「男ねっ! 男に言い寄られて困りすぎてこっちに来たんでしょ!」
ティナが興味津々で身を乗り出して聞いてくる。男子達も気になるようだ。
「婚約者はいる。けど断ってきた。男が1番の原因違う。柵から逃げ出したかった。少しは自分のやりたい事自由にやりたかった」
「ユーリアはお嬢様っぽいもんね。なんとなくわかるな。優秀だからこそ周りからの重圧って重いもんね」
ドニは同じようなことを経験してきたのだろう。周囲に勝手に期待されて、勝手に裏切られる。
優秀だからこその重圧もあった。この中では一番気持ちが分かってくれるだろう。
「婚約者ってイケメンなの? どうなの。ドキドキな物語があったの?」
ドニの話がなかったようにティナはどんどん食いついてくる。
「ん。婚約者10歳上。名前知らない。小さい頃会ったらしいけど、誰だか分からない。文通くらいしかしてない。」
「文通って、きゃー! 可愛い。もっと聞かせて!」
ティナが食いつくが、もうデザートも終わっているし、明日もあるので帰りたい。
「特にドキドキない。聞きたいならバカンスに」
「気になるけど、分かった。ユーリアの話はバカンスの時に聞くよ……」
ティナの猛攻が終わったことで、お開きになる。
明日は可愛い水着を買いに行くのだとティナと意気込んで、3日後にドニ達とは会うことを確認した。
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