第27話アネットの武器作成

 ルーカスは神妙な面持ちで教室に残る生徒たちを見た。



「残されたお前たちには思うところがあるだろう。アネットたちはヤンに対して、4班は3班に対してだ。

 お前たちの活躍は戦場であれば褒められたものだろう。

 だが、今回は授業の一環で行われる言わば、模擬戦だ。

 人を殺すわけではないのだ。それは、わかるな?」



 ルーカスは不満そうなイーサクを見る。



「はい」


「イーサク、君の策は素晴らしい。実践的であり、魔獣や紛争など、敵を葬るのに長けている」


「ではなぜ怒られるのですか! 恐らくユーリアの奇策のアネットのレイピア。閃光弾からの足場を崩す沼化。それを破るには相手の策が行使される前にこちらは先制する必要性があったのです」



 イーサクは堪えていた言葉が漏れてしまう。勝利したのに周りから邪険にされるのが苦痛だったのだろう。



「イーサク私は言ったはずだ。今回は敵を葬るために戦ったのではない。生徒同士で連携の重要さを学び戦うことを目的とした授業の一環だ。

 今回の授業では敵だがクラスメイトだろう?

 殺傷能力の高い戦術は避けるべきだった。

 そして、模擬戦は勝ち負けの基準だけではない。

どう相手を責めるか、どう仲間と連携するか、相手も味方も分析し、導くのがリーダーというものだ。

勝ちだけに重きを置く必要はなかったのだ」


「私の策は失敗だったと……?」



 イーサクはルーカスを睨む。ルーカスはイーサクを見据えて話す。難しい所なのだ。ただ結果が悪かった。出力が強すぎて一方的すぎたのだ。挙句に後方支援の医術師に重症を負わせた。



「失敗ではない。相手の事も考え出力を少し抑えれば良かったのだ。

一緒に普段から授業をしていれば相手の力量は分かるだろう? まだ彼らは突発的な出来事に対応できない。

術者は自分の身しか守れないだろう。

 それに今回はフラッグを中心として土と火の塊を風魔法でぶつけた。後方にいる医術師に負担となる事は分かっていただろう?」


「フラッグと共に守れなかった3班の力不足です。私はそうとしか思えません。医術師も自分で防御すればよかったのです」



 ユーリアは怒った。しかし、まだ今回は怒らない。まだ人が多い。波立つ感情を抑えルーカスに微笑みかけた。


「ユーリア……まあいい。4班はイーサクの意見に同意でいいな。それであればそれでいい」



 4班の皆は意見をしなかった。



「ルーカス先生」



 ユーリアは挙手をする。目には目をだ。



「訓練場は本日お時間取れるのでしょうか?

イーサクさんはご自信があるのでしょうから、今度は私一人と4班で試合していただけませんか?

私が3班の受けた魔力量と同等の同じ魔法を使いますので、防いでいただくのはいかがでしょうか?」



 ルーカスが何をする気だと言いながらも許可を出すと、イーサクが慌てて言葉を発する。



「待て、あれだけの魔力を一人で賄うだと、それにあの攻撃を受けては甚大な被害が……」



 ユーリアはニヤリと笑う。



「イーサク様はご存知だったのですね。3班に甚大な被害が出ることを、それを勝利のためにその策を使ったんですね。それが分かれば私はいいです。

 アネット、4班は我々に甚大な被害が出ると分かりながらこちらに攻撃を仕掛けたそうです。故意に。ティナへ伝えましょう。イーサクは優秀な軍師だと。

 イーサクあなたの策は素晴らしいものでした。きっと軍からは相当の評価を受けるでしょう。

 損害も考えた上で、実際にその策を行使する実行力、軍だけでなく上級生や先生にも気に入られるでしょうね。これで将来は安泰です」



 アネットも美しく微笑む。ジーグルドにした事はよく思っていないらしい。イーサクは訳が分からなそうだが、自分の功績を褒められていると思ったのか微笑んでいる。



「そうですね、ティナに広まれば1週間もすれば学園全員に知れ渡りますわ。4班の皆さんの名前も付け加えましょう。優秀な成績を残されたのですから」



 イーサクを軍志向の者には優秀だと認められ、仲間意識の強い者には蔑んで見られるだろう。特にクラスメイトからは……。



「待ってくれ、イーサクは被害の規模まで予想の範囲内だと言っていたが、我々は違う。

医術師にあんな怪我をさせるつもりは無かったんだ。俺たちにもイーサクに任せていた責任はあるが、そんな非道な事はしていない。

分かっていればやっていない」



 4班の魔術コースのファビアンは言う、そして、責任がある事も認めた。許してあげようとユーリアは思った。イーサクはどう動くのか……。



「非道だと……私の策を認めたのはお前たちだろう。

魔力を叩き込めば、妙な策にはまらずに勝てると伝えれば、乗ってきたのはお前らだ。

戦いに被害が出ないと思っているのか?浅はかだ。

勝利するためには被害が出る。ヤンだって、氷漬けになっただろう?」



 イーサクの言っていることに間違いはないし、痛いところを突いてくる。ただ、あそこまでの事をする予定はなかったのだ。アネットも己の未熟さを含め、あの後ヤンに謝罪している。



「イーサク様のお考えは分かりました。班の他の者は噂をこちらで広めるに値しないですね。

 イーサク様のお名前だけであなた様の功績を広めますわ。

 被害の規模を予想してまでの完膚なきまでに相手を攻め落とす策。見事に完敗いたしました。

 ルーカス先生3班の代表としてイーサク様の策に感銘を受けました。

 これ以上叱らないでいただきたい。先生がこれ以上おっしゃっても意味がないでしょう」



 ルーカスは頭を抱えイーサクを見る。



「イーサク弁解は今だけだぞ? 今回の件が大々的に広まっていいのか?」


「ええ、成績優秀なユーリアがこれ程までに絶賛してくれているのです。彼女が私を認め、尚且つ上層部にも話が流れるというのであれば問題ありません」



 イーサクは自分の出世の事にしか頭がないようだ。

 昔のステンに似ている。

 ルーカスは深い溜息を吐き、4班全員をみる。



「策としてはいい案だった。これからの批判がどうなるかは自分たちのした事だ。受け止めるように。その批判から多くを学べるよう心に刻め、イーサクいいな?」



 満面の笑みのイーサクと暗い顔の4班メンバーだった。



「大変有意義な時間でした。ルーカス先生」


「4班はもういい。ゆっくり休め。

 それでは、アネットとユーリアを残して解散だ」



 4班は皆教室を出る。当然イーサクとは皆距離を取っている。

 イーサクは恐らく自分が目立つ事に、皆が妬んでいると勘違いしている。



「アネット、ユーリア、4班の件は穏便に頼む。

一部の先生と上級生からは俺が情報を流す。

もちろん、策士としてはなかなかいい筋をいっている。

後は人道的な部分が身につかねばいい指揮官にはなれない。

 今後の教育としても一度鼻を折らねばならない事は分かっている。

 だから、イーサクにも改心の機会を与えるためにも、広めるのは一年生の武術クラスのみで皆にはこの事も伝えてくれ、ティナは情報操作もお手の物そうだしな」



 ルーカスは頭を下げた。ユーリアはもうすでにチーム内で亀裂が生じているので少し満足はしていたが、改心の余地はあるのであれば、見守っていくとする。アネットも同意のようだ。



「後、アネットのレイピアの件だが、しばらく授業の間は封印だ。氷の部分を削り青魔石の効力のみ発揮するようにしばらくはする事。アネットも本意ではないだろう?」



 アネットは深く頷き了承する。クラスメイトを傷つけるのは本意ではないのだ。授業には必要ない。



「分かりましたわ。私の実力が上がって制御が出来るまでは使用しません」


「アネット。新しい武器作る!」



 ユーリアも了承した。



「では、トピアス先生のところにこの後行くように、話はつけてある。それから遅くなるだろうから、二人のことは送っていく。

 俺の仕事が終わり次第、錬金術の実習室に向かうので、そこで待っているように。

 アネットも武器作りが見れるいい機会だ。どういう風に作られているか学ぶように」


「はい」






 ルーカスと共に実習室にへと向かった。数人の上級生と共に研究に明け暮れているトピアスがいた。


 ルーカスが教室を出るとトピアスたちはアネットを質問攻めだ。

 どういう風に魔力が引き出されたか、自分ではどの程度の力を使う予定だったかなど根掘り葉掘りだ。

 研究者の熱に初めて当てられたようで、アネットはしどろもどろになりながらもきちんと答えている。

 アネットのこういう姿はあまり見ないので新鮮だった。



「あの武器を封印とは少し惜しいですね……ユーリア研究は続けましょう」



 トピアスは密かに研究を続けるといい。アネットの新しい武器を作成するのを手伝ってくれる。

水攻めが出来る武器だ。凍らせるわけではないので殺傷能力はないだろう。

水の刃を飛ばす事も可能だが、水の塊くらいにしておく事にした。


 トピアスは面白いと言いながら、話になってくれる。


 アネットは魔術具の作成の仕方を見て驚いている。



「ここまで緻密な設計図と完成図を作成した上で作成していたのですね。さらに上の完成形まで設計図を作成してしまうとは、ユーリア流石です」


「ふふふ。魔術具奥が深い。作るの楽しい」



 ユーリアは笑うと、アネットに話しかけた。

 トピアスはその光景を微笑ましく見ている。



「ユーリアさんは本当に魔術具の作成の才能があるのです。ただいつも作成するものは魔力回路が複雑なので、補助をするこちらも大変なのですが、研究心をくすぐる作品ばかりなのです」


「私は身体強化の魔法を使いながら他の魔法をイメージするのが苦手なので、ユーリアの武器には助けられています。剣に沿って魔力を這わせるだけで、変化のついた攻撃が出来るのですから」



 トピアスとアネットに褒められ、ユーリアは照れくさくなった。



「二人とも褒めすぎ」



 二人は笑うと声を合わせて「事実ですから」と言ってまた、笑っていた。


 アネットの新しい武器は出来上がり、剣に水を纏わせる事と水の玉を出す事のできる2種類の魔力回路を登録したレイピアが出来上がった。


 ルーカス先生が実習室に迎えに来た。


 先生にお願いして訓練場を開けてもらい、軽くアネットと個人戦をしてもらった。


 ルーカス先生もこの武器を気に入ったようで太鼓判を押してくれる。



「面白い、殺傷能力もないし、これくらいなら授業に使えるだろう。アネットよく今日の今日で使いこなせるな」


「前使っていたものとさほど変わりませんから」



 ニコッとアネットは笑い。徐ろに的に向けてレイピアを振った。

 水の塊が出てピシャンと的にぶつける。



「いや、前の武器は飛び技使ってないだろ……お前の戦闘センスはなかなかだ。まだまだ先が楽しみだな」


「これはこれはいいものを見せていただきました。すぐに武器の原型を作ったユーリアさんも流石ですが、アネットさんも確かに見所がありそうですね。ユーリアさんについていける貴方なら本当に伸び代がありそうです」



 ルーカスもトピアスもアネットを褒めた。アネットは頬を赤らめ「頑張ります」と一言答えたのだった。


 トピアスに見送られ、ルーカス、ユーリア、アネットの3人で帰路に着く。

 最初にアネットを女子寮へと送り、次にユーリアを送る。

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