第25話夏の郊外演習 第4班との戦いとジーグルドのピンチ

 3班の所へ戻ると、皆疲労の表情を浮かべていた。

 連戦だったのだ。体力をかなり消耗したであろう。

 1班との試合の時に吹き飛ばされていたベネディクトに声をかける。



「ベネディクト、大丈夫?」


「あ、ああ。大丈夫。連戦で疲れているだけだよ。ユーリアの奇策があって良かった。今回はそこまで体力を消耗してないし、楽に勝てた。ありがとな」



 ベネディクトはそういうとユーリアの頭を撫でてくれた。ティナがからかいながら話しかけてくる。



「ユーリアがヤンの所に行った時は表情が暗かったし、今の戦いも若干憂さ晴らしで暴れてたけど、今は元気な笑顔に戻ったみたいだね。よかった、よかった」


「わたしの処置では甘いところがあったのでしょうか? やはりユーリアさんのようにテキパキできませんし……」



 ジーグルドが涙を浮かべながらこちらを見ていた。

 ジーグルドが的確な治療をしているのを見て、ヤンの元へ安心して行けたのだから、ジーグルドの処置が甘いという事はない。



「ジーグルドよくやってた。だから、ヤンの所行けた。大丈夫」



 ヤンは氷漬けの状態から回復させるためには、1年生の医術クラスの者では対応しきれないのだ。

 1班の医術クラスの子は、遠目で治療しているのを眺めるだけでオロオロしていた。

 ユーリアは頑張ったジーグルドの手を取り励ました。



「ジーグルドの治療は問題ないよ。

 ユーリアが1班との戦いの後、同じチームの俺が怪我したっていうのに様子も見ないで、敵チームの、しかも俺の肋骨折ったやつの所に行ったのが、気にくわないだけだよ」



 ベネディクトは腕を組んでそっぽを向き不機嫌な顔をしている。

 要は拗ねただけである。



「ヤン一大事。ベネディクト、ジーグルドいる大丈夫だった。でも、ごめん」



 ユーリアは俯いてしまう。ベネディクトは「そんな顔させたいわけじゃないんだけど」と言いながら、ユーリアの両頬に触れ自分の方へと視線を誘導する。



「少しは仲間を大事に思ってくれるといいなって思っただけだよ。ごめん。困らせるつもりはなかったんだ」



 ベネディクトは優しく笑いかけてくれる。和解したのを見てたのかドニがくる。



「仲直りしたようで良かったね。ユーリア僕の水魔法どうだった! 頑張ったでしょ!」



 ドニがベネディクトの手をユーリアの顔から外し、ユーリアの手を取る。



「頑張った。ドニ魔法復活」



 ドニに微笑みかけると、ドニもニコッと微笑んでくれる。ベネディクトがドニの手をサッと取り、別な話題をユーリアに振った。

 そんな様子を見てティナがアネットに話しかけた。



「あーあ、アネットうちの班大丈夫かな」


「え、次の4班との戦いですか? 相手はなかなか強者ですからね」


「違くないけど、違ーう! 鈍感がここにもいたよ。ジーグルド〜!」


「師匠は人望が厚いですからね、引く手数多です」


「何か違う〜。誰か一人くらい私と共感してくれる人欲し〜い!」



 ティナの叫びが聞こえる頃には1班対2班の戦いが始まるのであった。


 1班と2班の対抗戦は、ゾーイを防ぎきれなかった1班の負けであった。ヤンも本調子でないというのも大きいだろう。


 休憩を挟んでいよいよ4班との対抗戦である。



 *


「次はの戦いで最後となる相手は4班だ。気を引き締めていくぞっ!」


「おう!」


 ベネディクトの掛け声でフィールドへと向かう。

 先程ベネディクトに仲間を思えと言われたので、声を掛ける事にした。


「ベネディクト、初戦から大変だった。次、最後。頑張れ!」


 すると、ベネディクト驚いた表情のが「……ああ」と返してくれた。

 きっと最後の対抗戦を頑張ってくれると思う。



「はじめっ!」


 ルーカスの一声で対抗戦が始まった。


 先制攻撃をかけたのは第3班だ。


 魔術具を早速使った。次は黄魔石と緑魔石を使った土煙だ。

 これで相手の視界を塞ぐ。ここからはステンの力が発揮される。


 予定であった。


 視界が両者ともに悪い間に向こうが魔法を放ったのだ。


 土魔法と炎魔法、風魔法を術者全員で合わせて放ったのであろう。


 隕石のようにこちらの陣営のフィールドに降り注ぐ。


 視界が悪くても関係なく、手当たり次第だ。


 観覧席には防御壁が貼られているため、バチバチと岩を払いのけている。


 ジーグルドに念のため防御壁の魔術を渡していて良かったと思った。直撃は防げているだろう。


 土煙が辺り一体を埋め尽くす中、次第に視界が晴れる。ティナ、ドニは魔法で防御していたようで、ベネディクト、アネットは魔術具で恐らく防いでいた。

 ステンは前衛として敵チームと交戦しており、ジーグルドのいた辺りはフラッグから近い壁側だからか被害がひどく、瓦礫の山で安否が分からない。


 そして、3班のフラッグは見事にない。


「フラッグ破壊! 勝者4班!」


 ルーカスにより、試合の勝者が告げられ、3班の試合は全て終わった。






 ユーリアは急いでフィールドに降りる。


 ジーグルドのいた辺りを探す。


 魔力を使い、ジーグルドの魔力反応を探す。



「ユーリア! ジーグルドは?」



 ベネディクト達が怪我をしながらもこちらへやってくる。ヴィオラとルーカスもこちらへやってくるようだ。



「今探してる。黙って」



 ユーリアは魔力反応を探す。焦りが出てくる。冷や汗が出てくる。


 ルーカスがこちらへとやってきた。



「ユーリア?」


「ダメなの。先生。見つけられない。ジーグルドの魔力が」



 ユーリアは焦りからか泣き顔だ。ルーカスは焦りを見せず、ユーリアの肩を掴み落ち着かせるように優しく言葉をかけてくれる。



「ユーリア、落ち着け。感情を乱せば見えるモノも見えなくなるだろう? ヴィオラ先生も魔力反応の確認を!」


「分かっているわ。皆さん静かにして。全速力でやるから安心して」



 ヴィオラは欠けていた眼鏡を外すと魔力を集中させる。目に光を宿し、体から薄く魔力を出し瓦礫全体に滑り込ませる。



「見つけたわ。微弱だけれど感じる。1番奥の壁際よ」


「ち、瓦礫を全部どけるにも魔法を使っちゃ下手に傷つける場合もあるか」



 ルーカスが舌打ちし、身体強化で瓦礫を一つ一つ除けはじめた。



「身体強化を使えるものは皆手伝え!」



 ルーカスの号令で他のチームや上級生が集まってきた。体が緊張で強張って動かなくなっているユーリアに、ヴィオラが優しく声をかけた。



「ユーリア、ジーグルドの救出は瓦礫を退けたからでないと始まらないわ。だから、ジーグルドの代わりに同じチームの皆を癒してあげて。怪我で救出の手伝いができないのを嘆いているように見えるわ」



 ヴィオラはそっと指を指す。歯を食いしばって救出作業を見ているベネディクトがいる。片腕を庇っている。行きたくても行けないのだ。


 ユーリアはベネディクトたちを順に治療していった。


 瓦礫が徐々に退けられていき、残り僅かになってきた。ヴィオラと共にそばに行き、ジーグルドが見えたら治療するつもりだ。


 大きな瓦礫を持ち上げた事で、ユーリアの渡していた防御壁の一部が見えた。恐らくこの付近にいるはずだ。

 慎重に瓦礫をルーカスたちが持ち上げていく。



「いたぞっ!」



 大きな声をルーカスが上げる。

 瓦礫が退けられた所に駆けつけると防御壁に頭や体は守られたようだが片腕と足を損傷しているジーグルドが横たわっていた。



「ジーグルド!」



 ユーリアは即座に駆けつけようとした次の瞬間。

 ジーグルドの横に積み上がっていた瓦礫が崩れ、体が覆われそうになった。



「いやっ!」



 ユーリアが叫ぶのと同時にその瓦礫は壁へ打ち付けられた。



「ユーリア! 風魔法で退けたよ。大丈夫」



 ドニが風魔法を使ってくれたらしい。こちらに駆けつけジーグルドを見つめる。



「ドニありがとう」



 ユーリアはドニを抱擁する。ドニは顔を真っ赤にするが「行ってあげて」と一言言った。



「うん」



 ユーリアは横の瓦礫も退けられ安全確認がされてから、ヴィオラとドニの元へと向かった。






「師匠……」



 ジーグルドは意識があるようで、力なく答えた。



「師匠から頂いた魔術具のお陰で、命を救われました。ありがとうございます」


「うん」


「自分で治癒魔法をかけようと思ったのですが魔力が、乱れて……」


「無理に喋らないで、今助けるから……」



 ユーリアの目から涙が溢れた。ジーグルドの目からも、一筋涙が流れる。



「師匠、ありがとうございました。あなたのおかげで自信を持って治療ができるようになりました」



 ユーリアはジーグルドの頰に手を触れ額に頭をつけ、魔力の流れを確認しようと体を近づけた瞬間、ジーグルドの動く片腕で引寄せられる。



「本当にあなたのおかげなんですよ。ユーリア……」



 耳元で囁かれ、耳にジーグルドの唇が触れる。そして、抱き締められていた腕の力が入らなくなった。



「ジーグルド!」



 ユーリアはジーグルドの名前を叫び、泣き崩れる。ヴィオラは膝をついてユーリアを抱き締める。



「あの、優秀なユーリアがここまで乱れるのは珍しいわね。大丈夫よ。彼はまだ……。

今から治療すれば間に合うわ。だから、焦らずにね。

大切な存在ならば、尚更冷静に治療しなくてはダメでしょ」



 ユーリアは軽く背中をさすられ、涙を止める。

 彼は母とは違うのだ。大丈夫そう言い聞かせる。



「ヴィオラ。ありがとう。もう、大丈夫。治療する。見守ってて」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る