第24話夏の郊外演習 1班2班編

「これより、3班の定例作戦会議を行う」 



 ベネディクトの仕切りによる決戦前夜の会議が始まる。

 消灯までの時間各チームで行うようだ。

 チーム対抗戦のフラッグを奪うか、破壊。もしくは全員を戦闘不能、フィールド外に弾き飛ばすかだ。

 だが、この中で一番楽なのが、フラッグの破壊なので、皆その方法を考える。



「1班は恐らくパワータイプの体術コースのヤンが主力となってくるだろう。アイツを抑えないと脅威だ。

 こちらとしては二人掛かりで奴を抑え、後の4人を3人で対峙するのがベストだと思うが意見はあるか?」


「私にやらせていただけませんか?」



 アネットが挙手をする。自信ありげな表情だ。



「ユーリアに作ってもらったこの武器、なかなかに優れものなのです。使い方もユーリアに指導してもらっていたけど、最近やっと馴染んできたんです。今ならヤンに負ける気がしません」


「授業では実力を隠していたという事か」



 ステンがジロリとアネットを見た。一緒の授業をしているからこそ相手の力量が分かるのだ。



「いつも全力のステンとは違いますわ」


「では、アネットにヤンは任せるとして後はフラッグを誰が取るかだな……。

 次に2班だが、体術コースはゾーイが曲者だ。今度はスピードタイプだ。彼女のスピードはなかなかに厄介だぞ。彼女の事も止めなくてはならない。リーダーは魔術コースのメラニーだったな。詳細わかるか?」


「私が答えるわ。メラニーは土魔法が得意なの。もしかすると最短コースに足場を作り、ゾーイに取らせる可能性があるわ。どうにかゾーイを止めなきゃだわ」



 ユーリアが用意していた魔術具を2つ手に取る。そっと差し出す。



「なら、魔術具2つベネディクトあげる」


「これは……。そうか面白い。この作戦でいく」



 ベネディクトは何を言いたいのか分かってくれたようで、私の作戦にかけてくれるようだ。



「では最後に4班だが、魔術コースのイーサクがリーダーだ」


「イーサクは厄介だよ。頭が切れる。何か奇策で来ると思うよ」



 ドニは嫌そうに言う。イーサクは腹黒い男で有名なのだ。なるべくなら敵になりたくないタイプだ。



「奇策か……対応し切れるか」



 皆が悩んでいるが、ユーリアがまた魔術具をベネディクトに渡す。



「これあげる。ドニの後はステン出番」



 ステンが「私か?」と分かっていないようだったのでヒントを出す。



「土魔法」


「あ、あれか。確かにまだ練習段階だ。この魔術具を使えば、目くらましが出来るから、効果は高くなるだろう」



 ステンは理解したのか、ニタニタと笑っている。自分が活躍する場面を想像しているのであろう。



「なんか、ほとんどユーリアが暗躍してないか?」



 ベネディクトがいうとティナも笑う。



「ユーリアすごいねー。こんなに簡単にいろいろ思いついちゃうなんて、ほとんど授業は一緒にしていないのに、敵の能力潰すなんて……」


「私考える。やるの皆。応援する」


「ありがとう。ユーリアー!」



 感謝されるとティナに抱きつかれた。

 皆、練習を頑張ったのだ。少しは力になりたい。


 この後も話し合い、詳細を詰めていった。

 消灯時間となり部屋に戻り早めに寝た。明日は皆を見守るのだ。


 当日の朝戦う順番が張り出されていた。ルーカスがくじ引きで適当に決めたらしい。





 初戦は2班と4班だった。

 他の班が戦っている時は、施設の訓練場をフルに使うので、皆観覧席で戦いを見るようになる。


 4班のイーサクの策は陰湿でスゴイ。見事にゾーイのスピードを潰し、圧勝した。



 次はいよいよ、1班と3班との戦いである。

 ユーリアは皆に「頑張れ」と声を掛ける。

 皆笑顔で答えてくれた。

 ジーグルドは戦闘経験がないにも関わらず、後方での医術支援のためフィールド近くにいなくてはならない。

 緊張しているようで、笑顔がぎこちない。



「ジーグルド、大丈夫。皆強いから」


「師匠……僕も後方支援頑張ります」


「何かあったら使う」



 こっそりと防御用の魔術具を渡した。


 ルーカスがフィールドの外から号令を出す。



「では、第1班と第3班の対抗戦を始める。はじめっ!」



 パンっと弱めの爆発魔法が空へと打ち出された。いよいよ、対抗戦の始まりだ。


 予定ではアネットがヤンと当たる訳だったのだが、アネットは風魔法で妨害を受け瞬時に動けなかった。ヤンはベネディクトの元へとやってきた。


 まずは司令塔から潰す作戦らしい。

 力技で太刀打ちも出来ずどんどんと追いやられていく。

 全体的に防衛線が下がりつつある。


 ステンも他の術者で手一杯で、応援に駆けつける事は出来ない。

 ティナもドニも一緒だ。敵の魔法攻撃に対し、防御を張るので手一杯である。


 最終的にバランスを崩したベネディクトの腹を大剣で殴られフィールド外へ飛ばされてしまった。


 すぐさまジーグルドが駆けつけ治療を行っているのが見えた。


 風魔法を退けたアネットがヤンの元へと向かう。


 ヤンの大剣とアネットのレイピアでは明らかにレイピアが不利だ。アネットは諦めずにレイピアの魔石を発動させ水で剣の勢いを流す。



「無駄だ。アネットの剣はいつも見てるからな」



 ヤンが大振りに上から真っ直ぐ大剣を叩きこむ。

 真下に向かう力は流せない。


「……」


 アネットが何か小さく呟くと、刀身が僅かに光ったが水で濡れているようにしか見えない。


 大剣が振り落とされる瞬間に、アネットは少し刀身を傾ける。すると、少しだけ振り落とされる方向が代わり、アネットの横に深く突き刺さる。


 その瞬間アネットのレイピアの冷気からかヤンが氷漬けになった。

 ユーリアは効力を少し甘く見積もっていたらしい。アネットも予想より魔力を魔石に取られたようで、魔石を解除した。今は身体強化の魔法のみ使用している。

 ヤンは恐らく存命である。



「申し訳ありません」



 そう言いながら、敵の陣へと駆ける。ステンを応援しに行き、相手の戦力を少しずつ割いていった。



「フラッグ破壊! 勝者3班!」



 ルーカスの声により、3班の勝利が決まった。





 ユーリアは急いでアネットの元へ向かい、体調を気遣ったが、「ヤンの様子を見てきてあげて下さい」と言われたので、ヤンのもとへ行った。


 フィールドには引率で来ていたヴィオラとルーカスがいた。



「また、スゴイ武器を作ったもんだ。やり過ぎだぞ……アネットも制御しきれてなかったのだろう?」



 ルーカスにそう言われ、ユーリアは苦い顔になる。先生たちとは相談して作成したが、予想以上の威力になってしまったらしい。



「失敗。魔石アネットの魔力吸いすぎた」



 ユーリアは反省の色を見せる。



「分ったならいい。知識を活かし作成する事は構わないことだが、きちんと威力を自分の目で確認する事。

練習の時に込める力と実戦で無意識に込める力は違う。

そういう事も考えた制御も授業で使用する物には気を使うように。素晴らしい武器を作ったのには違いない」



 ルーカスは優しく頭を撫でてくれた。ヴィオラが少し驚いたように見ながら、クスクスと笑う。



「あら、随分と見ない間にだいぶ親しくなったようね。ルーカス先生。それよりもこの氷どうにかしてして下さる?」


「あ、ああ」



 ルーカスはハッとしたように手を引っ込めて、魔法を使おうとするがユーリアが止める。



「私がやる。責任取る」



 火魔法で徐々に温めていく。ヤンが出てきた。意識はあるようでガチガチに震えている。

 周囲を火魔法と風魔法を組み合わせ温風を作り、温めてやりながら、怪我の具合をみる。

 軽い凍傷があったので治癒魔法で癒す。



「あとはお風呂と温かい飲み物飲めば大丈夫。体異常ない。ヴィオラ任せて。医術なら大丈夫。

 次の試合ある。ヴィオラいた方がいい」



 ユーリアはそういうと、身体強化でヤンを抱き上げようと、ヤンの肩に触れた。するとルーカスが慌てたようにヤンを抱き上げる。



「あのな、ユーリア、男が女に運ばれるのは屈辱だ。休憩時間もあるし、俺が運ぶ。

 後風呂に入れるなら男を連れて行け。お前が入れる訳には行かないだろう?」


「大丈夫。ヤン今患者」


「だからヤンが後から大変な事になるんだよ。ヴィオラ、医術クラスの上級生の男を一人貸せ」



 ヴィオラはルーカスの焦りようにクスクス笑いながら、一人上級生を連れて来てくれた。





 ルーカスは風呂までヤンを連れて行くと、「絶対にお前は入るなよ」と行って訓練場へ踵を返す。

 ユーリアは仕方なく、風呂に入れる時の時間や注意点を教え、温かい飲み物を準備する事にした。


 ヤンは上級生とともにお風呂から食堂へとやって来る。

 戻ってきたヤンはすっかり元気になっているようだ。



「ヤン大丈夫?」


「へっちゃらだ。それにしてもユーリアよく仕込んだな。あれ魔法じゃなくてレイピアの方に仕込んでただろ? アネットの腕も確かだが、水だけじゃなく冷気を発するなんてスゴイ武器作ったじゃないか」



 少し罪悪感を感じるユーリアに、何も気にせずヤンは感嘆の言葉を発した。



「でも、出力が高すぎた。私の確認、甘かった。

 ごめん。危ない目にあった」



 するとヤンが豪快に笑った。



「敵に攻撃するのは当たり前だろ。俺なんてベネディクトの肋骨何本やったか、わかんねぇよ。

 戦いに出るなら怪我くらいする事はわかりきってる。

 逆に氷漬けになってた分、体力は有り余ってる。

 だから、そんなに気にすんな。きちんとアネットの助けになる武器を作って役目を果たしたんだろ」



 ユーリアはヤンの言葉に救われた気がした。ヤンは一気にお茶を飲み干す。


「行くぞ。今ならまだ3班の試合に間に合うだろ」とユーリアの背中を叩いた。


「うん」





 笑顔を取り戻したユーリアはヤンのそばに寄り添いながら訓練場へと向かった。

 ヤンの出番まではそばにいるつもりだ。

 付き添っていてくれた上級生に礼を言い。

 ヤンとともに観覧席へと向かう。


 次は2班対3班だ。

 ベネディクトは治療が終わっているようで、もうすでにフィールドにいた。


 ユーリアたちはギリギリで間に合ったらしい。


「はじめっ!」というルーカスの声が聞こえた。


「ゾーイは手強いぞ。3班の作戦はどういうのなんだ?」


 ウキウキとヤンに話しかけられるが、実際にはどんな動きになってくるか分からない。



「見てて」



 今回は3班が先制攻撃をしたらしい。

 皆はパッと顔をサングラスのような薄い膜で覆う魔術具を使うと土で防御壁を陣と陣の間に貼る。

 向こう側に水魔法で辺りを水浸しにする。


 そこへ閃光の魔術具を放ったようだ。

 辺りに凄まじい光が起きる。雷魔法を使った物なのであわよくば感電するが、相手は感電まではしていないようだ。土壁が風魔法によってすぐに壊された。


 道ができた事でゾーイがこちらにやってきた。



「これしきの光で私を足止めできると思うなよ。っと、なんだこれは?」


「こっちもそれだけで止まるとは思っていない」



ドニは余裕のある声で告げる。

 足場をドニの水魔法で泥沼のようにしていたのだ。ゾーイは腰まで泥に浸かってしまったいた。



「——何だと、動けないっ!」



 ゾーイは必死に脱出を試みるが、なかなか抜けない。


 後は数の利を活かし、ベネディクトが何故か攻め込んだおかげで、フラッグを破壊し勝利した。

 リーダー自ら前線に立つなんて、よっぽどヤンにやられた事がプライドを傷つけたのだろうか。





「速攻には速攻をか……イイ手だ」



 ヤンが作戦を褒める。ユーリアは嬉しくて微笑む。



「皆頑張った」



 作戦はだいたいの事しか示していないし、実際に戦った皆の力である。


「本当いいチームになったな。ユーリア、キレると喋って怖いもんな」


「そんな事ないよ」


「ステンの事自分は女だって、怒ってただろ? あんだけ自分の考え曲げないステンを丸め込めるのはなかなかだぜ。ま、ベネディクトはご愁傷様だけどな。

 あの後大変だったらしいぞ。ルーカス先生からなぜ寝巻き姿を見たのか詳細聞かれたらしいし、男子部屋ではまた別の話でいろいろと……」


 ユーリアは首を傾げると、何故ベネディクトがそこまで聞かれるかよく分からない。

 正直女子と認めないステンを皆に怒ってほしい。


「ベネディクト? けどステン悪い」


「そりゃ、女子の寝巻き姿見たってなったら大問題だよ」


「大問題?」


 重要さを分かっていないユーリアを見て、ヤンは大笑いする。


「ドニもベネディクトも大変な訳だ。ユーリア先生、俺はチームのところに戻っても大丈夫でしょうか」


 ヤンは笑いつつも戯けて聞いてくる。元気もあるようだし、怪我部分は治癒魔法で癒してある。

 無理は禁物だが、問題ないであろう。


「元気? 無理ダメ。がんばって! 不調あったら私のところに来る。無理しない。いい?」


 ヤンは「ああ、世話になった」と言って去っていった。


 次は1班対2班である。


 ユーリアは自分のチームへと戻った。

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