第14話夏の郊外演習の班分け
一月が経つのは早く、衣替えが行われた。
日々勉学に追われ、友人とも交流を深め、平穏な日々を送っていった。
テディが稼ぎ頭となり懐事情も潤っている。カフェの他にも夜勤のある仕事を掛け持ちしている。
なんでも、空いた時間にお金も集まって、趣味も堪能できるので一石二鳥なんだとか……。
自分だけでなく、テディも充実した日々を送れているようで、何よりであった。
今日は夏の演習の説明が、ルーカス先生から行われる。
*
「入学初日に説明したが、1ヶ月後には夏の郊外演習が行われる。
日程としては初めの2日間は各コース基礎訓練をし、残り2日を実践の魔獣狩とし、最終日はチームで対抗戦を行ってからの帰還となる。チーム対抗戦については総当たり戦となり、それぞれのコースを4つのチームに分ける。
魔獣狩りもそのチームごとに分かれてやってもらうぞ。
錬金コースの者は郊外演習までに、各術者に合った武器を作成してもらうので、連携を密にとり、相手の実力を発揮できるよう責任を持って武器の調整をするように。
なお、今回の演習には医術クラスの1年生を一人ずつ各チームに同行させる事となっているので、この後顔合わせする」
「はい」
「この後チーム分けを発表するが、自己紹介の後チームのリーダーを選出し報告するように、チーム対抗戦の指示等を行ってもらうので、それを考慮するように。
さて、チーム分けだが……」
ユーリアのチームは体術コースがベネディクト、ステン、アネット。魔術コースがティナ、ドニ。
医術クラスがジーグルド。錬金コースがユーリアという班分けになった。
医術クラスの子もすでにこの教室に来ていたので、それぞれのチームに分かれて自己紹介する。
「ユーリア、よろしくね。一人だけど大丈夫? 5人分の武器を一人で作るって大変じゃない?」
ティナが心配そうに話しかけてくれる。武器の作成については先生や先輩に相談しながら、チェックを受け作るようになる。
相手の特性を考え、相手の意見も聞き、それを分析した上で武器と補助の魔術具を作る。
どちらかというと、作成よりも相手の意見を聞くという部分が難しい。それもあって錬金コースが、他の武闘派のコースとなるべく一緒に行動しているのだろうが……。
「大丈夫」
*
「じゃあ、一応自己紹介からしようか。私ティナ。魔術コースで得意な魔法は雷属性だよ。改めてよろしくね!」
ティナは最初の実技試験の時に、雷を降らせて周囲を驚かせていたので、すでに特性は知っている。
性格もある程度分かっているので、他の皆よりは魔術具の作成に時間はかからないだろう。次は赤髪ステンだ。
「僕が自己紹介しよう。私はステン。体術コースで今はイーヴァル先輩に追いつけるよう鍛錬中だ。魔力量も豊富であり、魔法と剣技両方得意で組み合わせて使う。よろしく」
向上心と対抗心。髪の毛の色のように燃える体質で、魔力持ちを鼻にかけている。戦闘している姿は見た事ないので、どのような戦闘をするか楽しみである。
「じゃ、次は僕。名前はドニ。皆も知っていると思うけど、魔術コース。ずっと治療をしていて魔法の鍛錬をしてないし、またほぼ一からのスタートなんだけど、皆の足を引っ張らないように頑張るね」
ドニは最近ようやく完治したので、これからまた一から魔法の修行だそうだ。塊がなくなったので、感覚が変わる可能性がある。
徐々に直して、自信を取り戻してほしいものである。
「オレはベネディクト。体術コースだ。よろしく」
あれから次の週にはまた朝一緒に登校するようになったベネディクト。態度はよそよそしいが、以前よりはマシだ。
本人曰く中身が変わらなければいい。と言っていた。実は素を出していないと聞いたら怒るだろうか。
「私はアネット。体術コース。身体強化が得意で他の魔法はほぼ使わないわ。剣技に力を入れて修練しています。皆様よろしくお願いします」
アネットはいつぞやの実技試験の時にルーカスが面白いと言っていた黒髪ポニーテール少女だ。
あの時もルーカスに食いつき剣を振るっていたので、なかなかに見所のある一人なのだと思う。
「皆さんとは、しょ、初対面だと思います。同じ1年生のジーグルドです。医術クラスでぼ、ぼっくは、その、戦場の後方で活躍できる治癒術師を目指しています。クラスは違いますが、皆さんの補助ができるようが、が、頑張ります!」
彼は上がってるのか、素なのかモジモジとしている。恐らく素なんだと思う。
「ユーリア、錬金コース。武器作りより便利な物作る方が心踊る。よろしく」
全員の自己紹介が終わり、リーダーを決めなくてはならないのに、ステンはこちらを睨みつけている。
「魔力を持っていない錬金術師に、私の望む物が作れるのか……日用品作りがいいとこだろうに……」
ある意味いい笑顔でこちらを見てくる。挑発的な態度だ。だが、おどおどとしたジーグルドは口をパクパクさせている。
ステンの敵意に驚いてしまったのか、はじめての接触でこの威圧では竦み上がってしまうだろう。
「ジーグルド大丈夫? ステンは阿保だから気にしなくていいよ。ジーグルドは後方の治癒術師って事は魔力持ちなんだね?」
阿呆とは失敬なという言葉が聞こえた気がする。
ティナはそんなの御構い無しだ。
「は、はい。僕は一応魔力持ちなんですが、その前線で戦う力はないようで、治癒魔法には適正があるんです。なので……後方でもいいので魔力持ちとして頑張ろうと思っています!」
「ほう、なかなかの心持ちだと思うぞ」
ステンは上から目線である。どうやらジーグルドの事を認めたようだ。ジーグルドはユーリアにチラチラと視線を向ける。
何か話したい事かあるのか。
さっきから腕組みしていたベネディクトが痺れを切らし、リーダー決めについて話し始める。
*
「おい。そろそろリーダー決めようぜ。他の班は決まったところがあるみたいだ」
他の班のうち2班は既に先生のところに報告済みだ。アネットが挙手をする。
「私はこの班でリーダーに向いているのはベネディクトだと思います。ステンはあれですし、ティナさんとドニさんは戦いの場で後方からの火力として集中していただきたいですし……
私は戦闘に立つと少し我を忘れてしまいますから。ジーグルドさんとユーリアさんは戦法には疎いでしょうから、そうなるとベネディクトしか適任はいません。
それにあの時も率先して指示を出していたでしょう?
あの魔力が暴走した中で冷静に的確な指示のおかげで、皆軽傷で済んだのですから」
ニコリとアネットが笑顔で言うと、渋々といった感じでベネディクトが頷く。
「みんなに異論がなければ、いい」
ステン以外は皆すんなり受け入れる。ステンの遠回しな同意は無視だ。
「では、リーダーは俺という事でルーカス先生に報告してくる」
ベネディクトは席を立つと、ルーカス先生の元へと戻った。ティナはドニと魔法のリハビリについて話し合い、アネットはステンの自慢話を軽くあしらいながらも自分の話をしているようだ。
ジーグルドとユーリアは周りに置いてから、静かに座っていた。ジーグルドはモジモジしながらもか細い声で話しかけてくる。
*
「あ、あのユーリア、聞きたいことあるんだけど……」
「うん」
「ユーリアは魔力隠蔽してるよね? なんでその……隠しているの?」
見破られた。ルーカスやヴィオラも治癒魔法を見せてから驚いていたので、気づいていなかったと思う。
イーヴァルは気づいていそうな感じだったが、追求は受けていない。
「都合が悪いから」
「魔力持ちだって分かれば、あんなに馬鹿にされないのに……」
「よく気づいた。初めて言われた」
「んーと、その患者さんの魔力をなるべく感じられるようになりたいから、普段から意識して見ているんだ」
少し照れた様子になりながら、頭をポリポリ掻く。
「私の隠蔽に気づくくらいなら、優秀。流れも分かる?」
「流れ?」
恐らく意識していないのだろう。1年生だ。まだまだ実践が乏しく、分かっていない。
隠蔽に気づくためには、魔力の量だけでなく人の魔力回路も見れなくては気づかない。
「ジーグルド。実践足りない。けど、実践を経験したらすごい」
「えへへ。そうかなー?」
完璧にジーグルドが照れた時に後ろから先生が声をかけてきた。50歳代くらいの男の人だ。
「やあ、ジーグルド。このチームには慣れそうかい?」
「エクムント先生。はい、皆さん面白そうな方たちです」
「それは良かった。君がユーリアだね」
エクムントはユーリアを検分するかのような目で見る。
「話を少し聞いていたが、ジーグルドは目が良い。それに、優秀で知識もある。
だが、実践が足りないのか控え目なところがあってね。
そこをなんとか克服すれば、より良い医術師に成れよう。
ユーリア、ドニの件は君が絡んでいるとみたがいかがかな。君は他の生徒を治療していたのだろう?」
ジーグルドが不安そうに二人の顔を見比べる中、ユーリアは沈黙を貫く。エクムントはそれを肯定と見て話を続ける。
恐らく、エクムントは魔力を持っている話を聞いているし、自らの目でも確認しているだろう。
「そう、怖い顔をしないで。
我々も彼を育てようとは思っているが、なかなか一人の生徒だけ手厚く指導するのが難しい現状だ。
彼の能力を伸ばす手助けを少しでもしてくれるとありがたい」
ユーリアの頭を軽く撫で去っていく。彼の背にジーグルドは一礼した。
*
「ユーリア? 大丈夫?」
顔が強張っていたままなのを心配して、ジーグルドが様子を見ている。
医術師としての知識を当てにされてしまった。
だが、彼の実力はまだまだ伸びると思う。これが発揮できないのはもったいない。
「ジーグルド、教える? 私に教えられる事なら」
「ユーリアは医術師の事、分かるの?」
「少しなら分かる」
先生に話掛けられた事で少し周囲から視線が集まっていたので、控え目な話をした。
武術クラスの子には魔力を用いない治療をする姿は見られているので、このくらいの会話なら構わないだろう。
「あ、ありがとう。僕も先生とか先輩だとちょっと緊張しちゃって……本を読むだけなら良いんだけど……同い年の子ならきっと大丈夫!」
「うん。放課後」
「分かった。時間が取れる時、後で教えてね」
ジーグルドは話を早々に切り上げてしまった。ベネディクトとドニがこちらをジトッとした目で見ていたのだ。
「秘密の特訓ですか? なんだか楽しそうなので僕も一緒にいいですか?」
「俺も付き合ってやっていいぞー!」
二人は身を乗り出してこちらの話に乗ってきた。そんなに実験台になりたいのだろうか。
「ドニじゃ。危ない。魔力不安定。ベネディクト分かりにくい。ティナもいいけど。ルーカス実験台一番」
「あ、あの先生を実験台って……そこまでは大丈夫です」
オロオロとしたジーグルドは首を目一杯横に振る。
「大丈夫。弱みある」
得意げに言うと、拳骨が降ってきた。
*
「弱みだと、俺に何をさせる気だ? ユーリアさん?」
ルーカスが怒っている空気が伝わった。急いで頭を回転させ適した解答を捻り出す。
「ルーカス、ストレスいっぱい。放課後付き合う。ドニ魔力不安定。相手。ベネディクトもやる。怪我したら癒す。ジーグルドの腕良くなる」
そう言うことかと一言いうと、ニヤッと笑いルーカスは応戦してきた。
「ま、ドニは授業以外の時間に、一度教師の前で魔法を使うのは予定していた。どうだユーリア防御の魔術具作りしてくれないか? 訓練場全体に薄く貼るタイプの?
そして、当日お前は間違いなく作動するか、確認の為にも見届けに来てくればいい。
なるべく早く状態は確認したかったからな。
先生複数人の都合となると……うまく日程調整出来ないもんだ」
魔術具の作成をトピアス先生に頼むのと、当日ドニの魔力回路の流れを確認するのをヴィオラ先生に頼むのと、私一人いれば事足りるという事だ。
ジーグルドのためにもドニのためにもいいので、ルーカスが実験台になるなら構わない。
「ルーカス実験台」
「いいだろう」
ルーカスの都合もあるので3日後に行う事となった。ベネディクトは勝手に話が決まっていくのを聞いていた。
「ベネディクトとドニだけズルイ。私も」
「私もルーカス先生にもう一度手合わせいただきたいです」
「僕も実験とやらに付き合ってやってもいいぞ」
結局3日後の放課後にはチーム皆でルーカスの監督の元、自主練をするという事になった。
周囲のチームがずるいというと、ルーカスは説明する。
もともと、チーム対抗戦の練習を、訓練場の空いている時に自分たちで予約を取り、何回か練習する予定だったが、それが早まった形だそうだ。
最初の一回のみ教師が監視する予定で、ルーカス先生には予定通りの展開だったようだ。
「お前たちのチームは力はあるが難ありチームだ。せいぜいまとまれるよう頑張るんだな」
気になる一言を言ってルーカスは去っていく。
予鈴がなり、今日の午前の授業は終わりだ。
今日のお昼は親睦を深めるためにもチームで食べる事にした。話した事がない子の話も聞けていつもより楽しい気がした。
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