第12話魔術具作成の授業の始まり、そうだ、洗濯機を作ろう

 そして、いよいよコースに分かれた授業が行われる。

 今日行われるのは念願の魔術具作成の授業だ。

 基本的な事は故郷で習ってはいたが、実際に作った経験はあまりないのだ。

 

先生の補助をするのはシェルトのようだ。教室まで迎えに来て錬金術の実習室までを案内する。


 自由席のようでラウラとカイとリュリュが同じテーブルへとやってくる。

 カイが来るのは恐らくラウラがこちらへ来たからだろう。



「久しぶり、今日から魔術具作成の授業楽しみだね」


「いろいろ派手に動いていたようだな。あの魔術具破片でもいいから残ってないのか? もしくは設計図が残っていたりしないのか?」



 ラウラとの再会の喜びがカイによって薄まっていく。設計図はないし、魔術具すら存在しない。

 カイの質問に答える事を断念する。



「ラウラ、久しぶり。楽しみ」


「相変わらず、カイはユーリアに構うね。ま、今回はあんな事があったからずっと気になってたんだよね。声かけるタイミング無かったんだよね」



 リュリュは説明をしているが、確かに先週は専門コースの授業が無かったため、ティナたちとしか行動していなかった。



「構うなんて、別にユーリアに興味がある訳じゃなくて、あくまで魔術具に興味があったんだ」



 ユーリアは無表情で「御愁傷様」と告げる。言葉の意味が分かったのか分からないのか、カイは「そうか」と悲しむ。



「しょうがないわよ。お母さんの形見の魔術具だったのに残念だったわね」



 ガラガラっと扉の開く音が聞こえると、30代後半くらいの男性とシェルトが実習室へ入ってきた。



「1年生の皆さん、はじめまして。今日から錬金コースの錬金術を担当するトピアスと申します。

今日は錬金術の基本から順に教えていきたいと思います。シェルト資料を……」



 シェルトは先生の指示に従いテーブルに資料を置くと今日使う教材も配っていく。



「では、授業を始めます。この映像をご覧ください」



 プロジェクターのような魔術具が使われ、暗転した実習室のスクリーンに魔石の説明が表示される。ユーリア以外の生徒はおおっ、と驚きの声を上げている。



「ユーリア・クィントン はこれくらいの魔術具では驚かないという事か……」



 と、トピアス先生は深く考えるように顎に手をやりなぞる。

 実際ユーリアは故郷の国の会議で見たことがあった。

 逆に周りの生徒たちが驚いたことに、違和感を感じたくらいであった。



「えー、では魔石の特性から説明したいと思います。

 魔石は魔力を蓄え放出が可能であり、魔力の蓄えがある状態であれば、魔力持ち以外でも扱えます。


 種類としては、赤魔石は火の属性、青魔石は水の属性、黄魔石は土の属性、緑魔石は風の属性、紫魔石は雷の属性、白魔石は金属の属性、黒魔石は闇の属性となっています。


 他にも特殊な魔石として透明な召喚魔石もありますが、今覚えるのは7つの魔石です。魔獣から取られる魔石は7つと覚えてください」



 透明な、魔石は魔獣からとれるものではない。魔力持ちの人間が亡くなった時にできるものだ。


 どの属性にも属していないため、魔獣を召喚し依代にすることが出来るのだ。


 召喚された魔獣は術者の魔力を喰らうので、魔力持ちしか使用することはできない。

 事がことなので1年生の授業では詳しく教えない。



「魔術具は一つの魔石を使う分には魔力回路も単純で魔力のロスも少ないですが、複数使えば使うほど魔力のロスが大きくなり消費する魔力量が膨大となります。

 ただし、複数使えばその分応用も効くので、使用目的や使用者の魔力の有無などを考えた上で設計をし作成する事になります。

 魔力回路についてはこの前の試験である程度解けているようなので、実際に作ってみながら説明していこうと思います。

 まずは各自日常生活の中で何か欲しいものがないか考え、どの魔石を使用すれば可能となるか考えてみて下さい」



 生徒たちは各々考える。ユーリアも紙とペンを取り、何が欲しいか考える。

 ドライヤー、ストレートアイロン、電動歯ブラシ……。いろいろある。

 しかし一番ほしくて今ないものがある。

 他の生徒が悩んでいる中、スラスラと概要、外装を書き出す。

 ラウラがその手を覗き込み、驚いている。



「ユーリアは早いね。私なかなか思いつかない」


「これ。面倒くさがり有利」


「確かにそうだな。今生活が出来ているのに、さらに何か新しく作れと言われても困る」



 ふっと鼻で笑いながらカイがユーリアにケチをつける。リュリュは何を作るから悩みながらも、クスクスと笑う。



「自活始めて一週間じゃ何も思いつかないよね。実家ではずっと大人が手を尽くしてくれていたんだから、不便を僕たちは知らないからね」



 サクサクと魔力回路まで描き、見直しをしていると生徒たちの様子を見ていたシェルトがやってきた。



「これはなんだ? 青魔石を使い水を張り、白魔石で形状を安定させる。しかも緑魔石で水に流れを作りその流れも変動させる……」



 魔力自動洗濯機である。ユーリアは日常生活で一番面倒だと思ったのは、洗濯なのであった。



「衣類の洗濯機。洗濯面倒、ピッとすれば洗濯終わり。脱水機能付き」


「それは面白い発想ですね。洗濯で空いた時間で研究もできますね。服がいくらあっても足りませんから」



 トピアスがどこからかやって来て、発想を褒めてくれる。



「シェルト、彼女の案を少しずつ直して下さい。その後私も確認します。案は素晴らしいですが、回路、魔石の使用に無駄があるように感じますよ」


「分かりました。ユーリアもう少し詳しく見せてくれ、こちらのテーブルへ」



 シェルトは生徒がいないテーブルを指差し、席に座るよう促し私のイメージを聞いていく。

 魔石の量が減らせないか稼働時間はどうするか聞かれる。

 脱水は省略された。

 トピアスの所へ持っていくと脱水機能は再び戻された。

 トピアスはニコニコとすると魔石を3つ持ってきて魔術具を作るよう言われる。


「今回は鍛冶屋に頼む時間がありませんので、白魔石を使いましょう。回路はこんな感じで作成にとりかかってください」


 他の生徒がまだ何を作るかも決まってない中、魔術具作成用のテーブルに移動し、シェルトの指示の元、作成する。今回は簡易版なので雑巾一枚洗える規模のものだ。


 手順を教えられ、作成していく。

 完成すると魔石がついた銀のバケツだ。


 トピアスが汚れた雑巾のような薄手の布と中が見えるようにとガラスの板を持って来たので試運転をしてみる。

 ガラスの板は中が見えて、尚且つ水が周囲に飛び散らないようにとの事だ。


 周囲には生徒たちも集まり、皆に見られての実演となった。


 魔石が光り出すと水に満たされてグルグル布が回る。一度水が排水口から流れまた水で満たされると再度布がグルグル回り、水が再び排出され今度は風でグルグルと布が回る。


 全ての魔石の光が消えるとそこにはある程度絞られた雑巾が出来上がっていた。


 簡易版なので短時間しか稼働していなかったが、ある程度汚れは落ちているようだった。


 洗濯機は問題ないので次は乾燥機を作成しようと思うのであった。

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