第9話4人の親睦会と1日の終わり

 ホームルームが終わると、4人はティナとベネディクトを先頭に教室を出た。


 ティナとベネディクトは、昨日のユーリアの英雄譚について熱く語り合っているようだ。


 そんな中、ドニと2人でカフェまでの道中を歩く。ドニはニコニコしながらユーリアに自分の生い立ちを語り出す。



「僕ね、故郷で小さい時から期待されてたんだ。同年代に比べて魔力量も多かったし、両親からもいっぱい褒められたから、辛い鍛錬も頑張ったんだ。

 けど、10歳になったある日、魔力の調節がうまくできなくなったんだ」


「そう」


「最初は成長期だからしょうがないって魔法の先生も言ってたんだけど、1年も経つとみんな掌を返したように、冷めた目で僕を見るようになったんだ。

 魔力の暴走も大きくなるし、それで両親と先生にこの学園に入学するよう言われたんだ。

 自分が危険な存在であることもその時に聞かされた」



 ユーリアは「うん」と相槌を打つと、クイっクイっとドニの服の袖を引っ張る。

ドニの表情が昨日の怯えた表情に戻っていたからだ。


ドニは俯いていた顔を少し戻すと、ユーリアに視線を合わせニコリとした。



「正直、まだ怖い。治療が終わってもまともに魔法が使えるかわからない。糠喜びかもしれない」



 絶頂とどん底を既に経験しているドニは、悩む所が多いようだ。



「けど、魔力暴走の原因が分かってほっとしているんだ。ユーリアには感謝しきれないよ。ルーカス先生の言っていたように自分の努力でなんとかしてみるよ」



 笑顔でドニは言い切ると、ユーリアの手を袖から外し手を握った。歩みは進めたままだ。



「いろいろ話したかったからティナにも感謝だ。有名人のユーリアに話しかけるの結構勇気が必要だったんだよ!」


「そうなんだ。有名人?」


「自覚がないんだ……昨日の件で学園内はいろいろ噂が出てるみたいだよ。僕も含めてだけど……。ティナの方が詳しいかも」



 ドニは空いている方の手でティナを指差す。

「そろそろ、お店に着いちゃうな」というと手を離し立ち止まる。



「僕はユーリアの味方だから、そばにいるよ。いっぱい学園生活を楽しもうね」



 今日一番の笑顔を見せた気がする。ティナは振り返るとニヤニヤしながら2人に話しかけた。



「問題児2人がイチャついてる所悪いんだけど、お店に着いたから入るよ!」


「問題児って……イチャついてなんかないよ! さ、行こう」



 ドニは顔を赤らめながらユーリアの後ろに立ち、両肩を押す。ユーリアは首を傾げながら店へと入っていった。


 カフェというよりかはファミレスのような気さくな店だ。



「ふふ、ここ学生にはお優しい値段のお店みたいで、結構人気あるんだって!」



 ティナの情報収集能力はすごい。まだ学園生活2日目というのにいろいろな情報を持っているようだ。


 ホームルーム直後のせいかまだ生徒たちはまばらだが、ある程度の活気がある。

 店員によってテーブル席へ招かれると、それぞれ注文をする。



「私はメロンクリームソーダ、ユーリアは?」



 んー。と顎に手を当て悩みこむユーリア。その様子を面白がるようにベネディクトが頬杖をつきながら見つめる。



「お、意外と優柔不断なのな。何で迷ってるんだ」


「コーヒーか、んー。アイス乗ってるのも美味しそう」



 真剣に悩む姿にますます面白がる。ベネディクトはメニュー表をトンと叩く。



「なら、コーヒーフロートでいいだろ。ドニも決まったか?」


「ああ」



 少し不機嫌に返事をするドニにまたもやニヤニヤした笑顔のティナがいた。

ベネディクトが注文するとすぐに商品が運ばれてきた。





「それでは、親睦会開始ー! かんぱ〜い!」



 ティナの号令により親睦会は開始された。

 自己紹介から始まり、自分の故郷の話などの話が続く。

 ユーリアもテディが設定した話を皆に伝える。



「優秀なのも苦労があんだな……俺はお前の友達だー! 一緒に青春しようぜー!」



 ベネディクトは目を潤ませ、鼻をすすりながらユーリアの手を取る。

 ドニはその手を払いのけ、「じゃあ、今度は僕の話ね」というと先程ユーリアに話した内容を話す。

 おお〜、と、ベネディクトは再度涙し、ドニの手を取った。



「お前も俺の友達だー! 一緒に強くなって故郷のやつ驚かせてやろうな!」



 ベネディクトの熱さに嫌気がさしてきたのか、ティナは話題を切り替えた。



「そういえば、2人は初日から有名人よー。今日のお昼にはいろいろな話が出てたわ」


「俺も聞いたぜ! というか、いろんな先輩から話を聞かせろって絡まれた」



 ティナの話にベネディクトは大きく頷く。ティナはクリームソーダを食べながら話を続ける。



「訓練場を大破させる魔力を持った破壊神とか、未発表の魔術具を行使し、医術の心得も持つ万能才女とか……」


「破壊神か……外歩きづらいな」


「私も有名になりたかったわー。魔力切れに近い状態まで活躍したってのに、全く話に出てこない。実技だってド派手なやったつもりだったのにー!」



 ティナは不満そうに頰膨らませ、ソーダを飲む。ベネディクトはその姿を見て笑っている。



「十分ティナは頑張ってたよ。クラスメイトからはこいつらと同様一目置かれてるぜ。

 ドニは置かれてる目が違うけどな……先輩や先生から目をつけられてるみたいだしな」



 ドニは俯きスプーンでクルクルとコーヒーをかき混ぜ始めた。



「目をつけられるのは怖いな。事実と全く異なってる訳でもないし。真実はただの魔力の暴走なのに……」


「暴走でもあれだけの魔法、魔力が多くなきゃできないじゃない。悲観することじゃないよ! ま、私もあれが最大級じゃないし、今度こそドニが治ったら勝つのよ!」



 ティナの目が燃えている。ドニをライバル視しているようだ。ベネディクトは苦笑しつつドニの困った様子に助け舟を出す。



「勝ち負けじゃない気もするが、よかったなドニ。ライバルは人を成長させるぞ!仲のいい魔術師仲間ができてよかったじゃないか」


「ライバルって僕はまだまだなのに。仲もいいか……」



 ドニはチラッと、先程からコヒーフロートを黙々と食べ、アイスの甘みとコーヒーの苦味を堪能していたユーリアを見た。



「ふふふ。仲良くしましょうね。魔法の研究も頑張るわよー!

そういえば、私次の休みに日用品を買い出しに行きたいんだけど、男手があると助かるんだよねー?

ユーリアも買い出しするんでしょ」



 ティナはドニの視線に気づき、笑みを強めながら次の休みの日の提案をする。休み時間の間にティナとは次の休みの予定を話していたのだ。



「俺は予定ないから、手伝うぞー。ユーリアは軟弱そうだから荷物持ちにならないもんな」


「ぼ、僕も次の休みならお昼までは大丈夫! ユーリアに荷物持ちなんてさせないよ」


「あんまり、無理するなよ。絶対安静って先生に言われてたじゃないか」


「大丈夫だよ。魔力使わなければいいって言われてるもん」


「じゃ、4人でまた出かけましょうね、次は朝一からお昼まで買い出しって言うことでかしら。あっという間に夜だわ。楽しい時間が過ぎるのは早いわ」



 ベネディクトとドニの問答が続き、次の休みの予定が決まるとその場はお開きとなった。それぞれ寮の方向へと帰る。ティナとドニは女子寮と男子寮へ向かう。

 ユーリアとベネディクトは別の寮で同じ方面だったため一緒に帰った。





「いやー。食った食った。あそこ飯もうまいんだな」



 話が尽きる事もなく、長時間滞在していたため夕食も済ませていたのだ。



「お腹いっぱい」


「ユーリア少食だよな。ケーキとコーヒーだけで腹いっぱいって成長できないぞ。筋肉もつかないし」



 ユーリアの細腕をニギニギと掴む。筋肉は感じられない。身長は若干だがベネディクトの方が上だった。



「甘いものさえあれば、生きていける」



 満面の笑みでユーリアは語り、ベネディクトは呆れ顔で前を向く。他愛もない会話をしていると寮が目の前だ。



「ここ。お別れ」



 ユーリアは立ち止まるとベネディクトを見る。



「あれ、お前もこの寮なの? 俺ここの3階。お前は?」


「3階」


「階まで同じだったんだ。気づかなかった」


「まだ2日目だからね」 


「そうだな。改めてよろしくな、ユーリア」



 2人は握手を交わし、部屋に戻ると隣の部屋同士である事が判明した。これから良好なご近所付き合いが始まりそうだ。





 お風呂に入って汗を流すと、白猫の姿をしたテディを撫でる。



「テディ、今日は楽しかったよ。お友達も増えた」


「それはそれは、よかったですねー。好意を持った方が周りに増えれば、ユーリア様も楽しく学園生活を送れますね」


「うん。これからもいっぱい友達増やして、また皆でワイワイお茶したりとかご飯食べたりするんだー!」



 テディは人型になりベットの横へ立つと、笑みを浮かべてユーリアに話しかけた。



「それはそれは喜ばしい事です。私もお世話をする手間が省けますね。ユーリア様そんなに髪が濡れているとお風邪を召されます。こちらにお座りください」


「うん……」



 ユーリアの髪を手慣れた手つきでタオルドライして櫛ですく。「少し寂しくなりますね……」とユーリアに聞こえないくらいの大きさで呟いていた。



「何か言った?」



 ユーリアは振り返ると、首を傾げてテディの目を見つめる。



「いいえ、なんでもありませんよ。ユーリア様の毛並みはいつもフワフワとしていて、肌触りがいいなと申していたんです」


「ふふ、テディが毎日お手入れしてくれるからだね」


「お褒め頂きありがとうございます」



 お互いに笑みをこぼし、ユーリアが前を向くと再びテディは櫛をすき始める。



「テディ、今度の休みごめんね。一緒にお出かけできなくて。お友達との買い物が終わったら夕食一緒に食べに行こ」



 テディは困ったように笑いながら「私は食事を摂らなくても平気なのですけれども……」と言った。



「いいの、味は分かるんだから、テディにも美味しいもの食べて欲しいし、一緒に楽しみたいの」


「かしこまりました」



 胸の前に手を置き了承した。



「それではごゆっくりお休みください。所用が終わりましたら、ご一緒します」


「うん。おやすみ」



 ユーリアはベットに入るとすぐに寝てしまう。テディは後片付けと明日の準備を終えると、猫の姿になってユーリアのベットへと潜り込む。



「あなたはいつも欲しい言葉を下さる」



 ユーリアの額に頬ずりすると枕の横で眠るのであった。

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