第8話朝のホームルームと公開告白?

 学園生活2日目の朝。初日からいろいろあって疲れも残るが、これからの生活への期待が大きく、心は踊る。


「初日から秘密が漏れて、少しは気が楽になりましたか? ルーカス先生は純粋にユーリア様の力になってくださりそうで安心です。

 教室に行ってから周りの反応が気になりますが、彼が味方である限り平穏な生活は送れるのではないでしょうか」


 テディが朝食後の毛づくろいをしつつ、こちらに話しかけてきた。

 ニヤニヤとした顔が止まらない。



「さあ、出発いたしますよ。2日目から遅刻では目立ってしまいます。表情も引き締めてくださいね」



 頰をパチっと自分ではたき、顔を引き締める。自分は黒子という気持ちで1日のスタートだ。

 テディは胸のペンダントで待機だ。




 *

 結局予鈴ギリギリの時間にホームルームの行われる教室に着く。

 視線は集めているが、誰にも何かを問われる事はなかった。



「ユーリアおはよー。昨日は大変だったね」


「ティナこそ大丈夫?」


「平気、平気ー。あのくらい故郷でザラだったし! そうそう、あの回復薬すんごいよかったよー自作なんてすごい。薬屋で高級品で売れるレベルだよ!」



 唯一声をかけてきたのはティナだ。魔力の使いすぎだったはずだが、元気そうで何よりである。

 そして、ユーリアは薬屋で売れるレベルという言葉に笑いが溢れそうだ。高く売れるなら売りたい。



「あれ、偶然の産物」


「そうなんだぁ。残念」



 予鈴がなりルーカス先生が教室へ入ってきた。授業までの時間が限られているため、口早に説明する。



「今日の連絡事項だ。まず今日は座学がメインだ。実技はない。

 教室移動の際は必ず上級生が来るので、移動の準備をしてこの教室で待っていること。

 予定通り進めば15時45分には全ての日程が終わる。16時00分にはこの教室で待機しているように。

 後、トゥイレまだ実技試験終わってなかったな。

 訓練場が使えるようになる明々後日の放課後時間を作るように。以上だ」



 日程の説明が終わるとルーカスは教室を出ようとした。するとステンが手を挙げ質問をする。




 *


「先生、昨日の件の説明を求めます。

 ユーリアに直接聞こうとも思いましたが、先生の事情聴取もあったのでしょうから、教師の視点から伺いたいです。

 訓練場の件と保健室でユーリアが治療を行った件についてお応えいただきたい」



 ユーリア、ドニに視線を送った後ルーカスを見る。ルーカスは溜息を吐きつつ、ステンに向き直る。



「分かった。昨日の件を説明する……。

 まずは訓練場の件だが、原因はドニの魔力の暴走にある。

 体の成長期に稀にある事だそうが、自分の魔力量に精神が追いついておらず、魔法が暴発することがあるらしい。

 治療院で診断してもらった結果1ヶ月は絶対安静で魔法は使えない」



 ルーカスはドニを見つめ、ドニはその視線に頷く。



「そして魔力の暴発後、防御壁が割れた事だが、本来であればあの程度の衝撃には耐えられるはずだし、壊れた場合予備の魔術具が発動する仕組みになっていたようだが、発動もしなかった。

 故障か誰かが意図的に破損させたのかは分かっていない」



 ドニの症状についてはおそらくヴィオラ先生と話し合い、魔力の塊の件は伏せられる事になったようだ。魔術具の件は一切聞いていない。今日になって報告されたのかもしれない。



「それから、おそらく君が一番気になっているのは、あの窮地を救った錬金コースの生徒が行った事だろうが、本人から聞いた話によると、咄嗟の判断で母の形見である魔力を吸収する魔術具を使い、ドニの暴走した魔力を吸い上げたらしい。

 残念ながら魔術具は限界を超え大破したようで研究は出来ない。

 残骸も見せてもらったので間違いない」



 ルーカスの言葉に錬金コースの者たちが肩をがっくり落としているのが分かる。

 手元に残っているなら見てみたかったのであろう。



「後は治療の件か、実家が治療院であるため実務の経験もあるらしい、ヴィオラ先生によると本来医術クラスに欲しい人材らしい。

 本人が断ったためクラスの移動はない。

 そういえば、この都市の治療院で働かないかスカウトされていたな。とにかく、並の成績優秀者ではないらしい。以上だが何か質問はあるか?」



 ルーカスはステンを軽く睨みつけ有無を言わせない。ステンはまだ不満そうな顔をしている。



「いえ、ご説明ありがとうございました」



 ステンは大人しく席に着く。



「いいか、ユーリアを敵視しているようだが、こいつも全てにおいて秀でているわけではない。

 そして、今秀でている部分は決して不正ではない。

 環境的なものもあるかもしれないが、学ぶ努力をしたのはユーリアだ。

 努力もしないものに悪く言われる筋合いはない。

 魔力を持って生まれたアドバンテージをうまく活かせるかは、自分自身の努力によるものだと俺は感じている。以上だ」



 ルーカスは反論を許さない言葉を残し教室から去っていく。ステンは唇を噛み締めていた。


 ホームルームが終わると各授業が始まる。今日は一般科目のみだ。算数に語学、歴史に地理などだ。

 一日すぎるのはあっという間だった。




 *


 帰りのホームルームまでの待機の間、ティナのお喋りを聞いていると、ドニがこちらの方へやってきた。



「ユーリア、昨日のことで話があるんだけど……」


「うん」


「お、じゃトイレでも行ってこよっと」



 ティナが気を利かせたのか席を外す。ドニはティナが教室を出たのを確認すると口を開いた。



「あのね、昨日はいろいろ言っちゃってごめんなさい」


「うん。気にしてないよ」


「よかった。ちゃんと僕の口から伝えたかったんだけど、治るって!

 放課後通ったり休みの日も入院したりしなきゃいけないんだけど、1ヶ月魔力を使わないでいれば、完治できるって」



 ユーリアはドニの手を取った。

 昨日まで自分が消されるかもしれない、と嘆いていた少年が立ち直ったのが心から嬉しかったのだ。



「よかった」



 ドニは首まで顔を真っ赤にさせながらも話す。



「本当にユーリアのおかげで僕の人生は救われるかもしれないんだ。ありがとう」



 ドニは手を外し感謝の思いを熱弁する。



「それでねルーカス先生から少し聞いたんだけど、僕ユーリアに救ってもらったから、今度は僕が助けたいんだ……。そのあの……」



 ドニは顔を真っ赤にさせたまま今度はユーリアの手を取る。



「あのね、ぼ、僕。……ユーリアとお、お、お……」


「お友達になりたいんだね。友達は多い方が楽しいもんねー。じゃ、今日の放課後どっかにお茶しに行こうよー」



 口籠るドニを尻目に、ティナが早々に戻ってきて、ドニの手を取った。

 そんな話を聞いていたのか、どこからかベネディクトがやってきた。



「お、楽しそうだなー。俺も友達になってくれよ。あの時はヒヤっとしたけど、あの状態でみんなの前に立つ度胸カッコいいよなー。ユーリアの話、聞いてみたいぜ」


「うん。じゃあホームルーム終わったらお茶しに行こ!」


「うん。楽しみ」



 ティナの勢いに口をパクパクさせていたドニだが、お茶に行けるのは楽しみなようだ。

 ユーリアはポツリと「友達」と呟く。



「そうだよ。友達だよ、みんなで親睦を深めよう」



 ティナは4人の誰よりも楽しそうだった。ドニは誰にも聞こえない小さな声でポツリと「本当は2人で行きたかったけど……」と呟いた。


 ルーカスが教室に来て4人は各々の席へと戻った。

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