第4話魔法の実技試験と魔力の暴発

 体術コースについては制限時間を設け、ルーカスとイーヴァルが基本受け身になってたまに攻める動きをしているようだ。


 何人目かの生徒が終えると、ルーカスが「面白い」と呟く。


 相手は黒髪ポニーテールの美少女だ。爽快な金属音が続く。



「——てやっ、はっ!!」



 ルーカスの声が響くが、ポニーテール美少女は少し表情を変えるだけで、防御する。



「あんまり熱くなっちゃダメですよー。ルーカス先生」



 イーヴァルはステンの相手をしながらも、 ルーカスをなだめる。


 ルーカスは少しつまらなそうな顔をしながら、防御へ転じた。


「ふん。分かっているさ」



 二人は黙々と剣を交える。



「先輩、私の相手を真面目にしてください!」



 ステンは必死にイーヴァルの剣を受けながら、訴える。



「大丈夫だよ。僕はいつだって真剣だから」



 ウィンクしながら答えるが、挑発にしかならない。


 ステンの剣速が上がっていく中、訓練場に「ドゴン」と爆発音が響き渡る。


 周囲が音の元凶を見据える。




 *


「やっちった」



 ぺろっと舌を出しながら恥ずかしそうに頭をかくのはティナだった。


「やりすぎだ」とシェルトに頭を手にしていたメモ書きの束で小突かれる。



「実力っていうから訓練場破壊しない程度に派手な魔法って思ったら、失敗しちゃいました」



 可愛く言っているが、訓練場にはダメージが残っていた。



「実力があるのはわかった。下がれ。はぁ、面倒だ」



 シェルトはため息を吐きつつ、腰にあるポーチの中から魔術具を出す。


 光が周囲を包むと、地面が一瞬で元に戻った。

 そこに的を立て直している。



「訓練場の壁まで壊れなくてよかったか」



 ボツボツ呟きながら、次の生徒に準備するよう声をかける。



「魔法ってすごいね。それにあんな魔術具作ってみたい。一瞬ですよ。一瞬!」


「確かにすごいな……」



 ポツリとカイが声を漏らす。


 それからは順調に実技試験が終わっていく。


 最初に体術コースが終わった。


 ルーカスの相手をしていた生徒達には疲労の色が濃いように感じた。




 * 


「どれどれ、こっちは終わったけど魔術コースはどんな感じかなー」



 イーヴァルが弾んだ口調でシェルトのところにやってくる。



「あと二人でこちらも終わりだ。なんだかあの子達疲れてないか?」


「んー。初日とか関係なくガンガン攻めてく人がいるからかな。って痛い」



 ほのぼのと話すイーヴァルの頭には当然拳が降ってきた。



「ずいぶん、余裕があるようだし、こちらの1年生の試験は終わった。もう一勝負する」


「い、いいえ、大変疲れております。それに、魔術コースの子も見たいですしね」



 涙目のイーヴァルにさらに「これしきで疲れただと鍛錬が足りていないのではないか」とニヤッと悪意ある笑顔でルーカスは脅す。



「先生、イーヴァルに構うのは結構ですが、魔術コースの生徒が終わっていないのは事実ですので、教師の目としてこちらもご覧になってください」



 シェルトが助け舟を出し試験が再開される。



「ドニ。前へ」


「は、はい!」



 緊張しているのかオドオドしている男子が前へ出た。「大丈夫。大丈夫。」と自分に言い聞かせるようにもごもごと声を出している。



「始めっ!」


「は、はい!」



 ドニは号令にビクッとしながらも、手を前に出して魔法を発動させる。が、「プス〜」と少し風が吹いただけで終わってしまう。


 表情が一気に青ざめ、手を引っ込める彼の表情は泣きそうになっている。



「もう一度やってみて、緊張しなくていいから。ね?」



 イーヴァルが、優しく言葉をかけ「は、はい……」と震える手を再び前へ出す。



「はい、じゃあもう一回」


「はい!」



 震える手に力を入れたのが分かった瞬間。訓練場を包むような勢いの風が渦巻く。


 訓練場の中は荒れ狂い地面が剥がれ、防御壁にパチパチと石や土がぶつかるのが分かる。


 彼のそばにいたルーカスはドニを小脇に抱え防除魔法を展開し、イーヴァルはシェルトの魔術具によって守られているようだった。


 風と風がぶつかり合い周囲の状況が一変していく、こちらに展開していた防御壁にヒビが出来始めていた。




 * 



「誰か防御魔法を使えるものは?」



 体術コースの1年生のベネディクトが、その場にいる皆に問う。



「1人分くらいの壁なら張れるけど、全包囲は無理だし、皆を包むようには絶対無理だよ」



 魔術師たちは皆同意する。


 ここにいる生徒が優秀とはいえ、まだまだ修練途上の者たちが出来ることではないのだ。


 亀裂が増し、壁はもう持ちそうにない。



「とりあえず、使えるものは防御魔法を使え、使えない者は使える者のそばに行き少しでも影響を少なくするしかない」



 ベネディクトの見解は正しいが、目の前の惨状を見るに被害は抑えられない。


 なぎ倒された木がこちらに飛んでくるのを見てユーリアは呟く。



「テディ、おやついる?」


「ニャ〜」


「——了解」



 挑戦的に壁を見つめつつ微笑む、手を胸元に触れた。


 木が防御壁にぶつかったことで、全体に大きなヒビが入り、小さな石がぶつかる衝撃でさえいよいよ耐えきれなそうだ。



「防御魔法を展開。使えない者は使える者の後方に待機!」



 ベネディクトの指示により皆防御体制に入る。

 ユーリアは皆の前に進みでるとベネディクトから叱責がくる。



「君は魔法がつかえるのか? それとも魔術具があるのか? 前へ出るのは危険だ!」



 挑戦的な笑みを浮かべたまま、ユーリアは後ろへ下がることはしなかった。



「ティナ、私の近くに。そして、私の前に壁を」



 ティナは小走りに近づいてくると「全く急だし私防御魔法使えるって言ってないんだけど」と苦笑する。



「何を企んでるの? なんだかニヤニヤしてるみたいだけど」



 ティナも怯むことなくニコニコと微笑みながら防御魔法を展開する。



「ティナの魔法見てたら、ここの誰よりも魔力があるのは分かる。優秀なのも」


「それはそれは、成績優秀者様に褒められるとは光栄の極みですね」



 冗談混じりにも真剣に魔力を注ぎ込み壁を大きく強化している。


 挑戦的な表情になっているのはティナも同じだ。



「何をバカな……何をするつもりだ」



 少し距離があるため声を荒げたシェルトがこちらを睨む。


 先生と先輩は自分たちの防御壁を展開しているため下手に動けないのだ。



「何もしないよりかは、ユーリアに任せてみたほうがよさそうだもんね? 任せるわよ」



 面白そうだしという言葉も聞こえたが気にしない。任されるのであればこのまま続けるのみだ。



「壊れる!!」




 * 


 大きめの石がこちらに飛んでくると、防御壁がガラスが割れたような音を立て砕けた。ユーリアは胸元からネックレスを取り出す。



「——テディおやつ!!」



 ネックレスについた魔石が輝くと、周囲の風が止み始める。


 その間にもティナによって張られた壁にパチパチとぶつかる音な聞こえる。



「へぇー、すごいね。魔術具? 魔力を吸収してるみたいだね」


「うん。魔力は吸い出したけど風は……」



 ドニの放った魔力はユーリアによって既に吸い付くされているが、風は魔力の制御から外れ渦巻いている。



「風の方向変える。ティナ魔力の残りは?」


「ぼちぼちかな……」



 ティナの額には脂汗が出始めている。


 壁を大きく張っているせいか、魔力の減りが激しいようだ。



「風、ここからあの渦巻いてるところに向けて上空に流せる?」



 苦しい表情の中ティナは頷く。



「なんとか、出力量は足りるか分かんない。防御魔法解除するけど、守りは大丈夫?」



 ユーリアはウエストポーチから魔術具を出し展開させる。

 土の防御壁だ。



「心許ないけど、少しの間なら大丈夫」


「十分じゃない、もっと早く出して欲しかったくらいよ。」



 ティナは防御魔法を解除し、額の汗を拭った。



「威力が弱まらないとすぐ壊れてた。ティナのお陰」


「ふふ、そう? じゃ行くよ」



 ティナは再度両手を前へ出すと魔力を込め始める。

 風が彼女の手から出始め、一気に渦巻く風の中心へ向かい、空へ押し流す。


 あっという間に訓練場の風はなくなった。


 ティナはその場にへたり込み「実技試験の時もっと手を抜いておけばよかったよ」と力なく笑う。




 * 


 ユーリアはウエストポーチに再度手をかけ、薬を渡す。



「これ魔力回復する」


「回復薬って高価なものいいの?」


「自作。必要ないからいい」



 不思議そうに首を傾げながら薬に手を伸ばしてきた。



「魔力使わなきゃ必要ないのは分かるけど、なんで作ったの?」


「興味」



 淡々したユーリアと興味深々なティナ2人の会話が聞こえてくる中、周囲は状況の把握に戸惑っている。

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