第3話魔術具作成の基礎試験

 周りを見渡すと男子が5人、女子が1人だった。

 他のコースの子と違い大人しそうだ。眼鏡率も高い。


「ねね、宣誓してた子だよね?」


 女の子が話しかけてくる。三つ編み眼鏡で前髪が目にかかっている。



「うん。ユーリアよろしく」


「宣誓って1年生の成績最優秀者がするって聞いたけど、錬金コースの子だったんだ。私ラウラよろしくね」



 顔を綻ばせて手を出してきたので握手する。


 そんな様子を見て、男の子たちがこちらへきた。



「共通の座学で優秀だからって、錬金術に長けてる事もないだろう? 俺は小さい頃から親父にいろいろ習ってきたんだ。カイだよろしく」



 ラウラに手を伸ばし、二人は握手する。



「僕もー。リュリュっていうのよろしくー。成績優秀者ってだけでも憧れだよ。錬金術には興味あるけど実際職につくってなると不安だよね」



 もう一人の男の子が笑顔でこちらに手を伸ばす。

 身長は低めでまだ幼さの残る子だ。



「カイは少し気が強いけど、根は優しい子だから仲良くしてね。たぶん成績優秀者がどんな子か気になってたけど、話しかけづらかったんだよ。だからカイとも握手!」



 4人の位置的に手をクロスさせて、握手する。ラウラとリュリュも握手している。


 カイは「余計な事言うな」とそっぽを向いてしまう。


 ラウラと視線を合わせるとクスッと彼女が笑い、リュリュは肩を諌める。


「本当、職人肌はおじさん譲りだね」


 そんな会話をしていると試験の準備が終わったのかシェルトが前に出る。



「席についてくれ、前に詰めるように。親交は後からゆっくり行ってくれ。今は早々にこの試験を終え、二つのコースの見学を重視したい」



 皆が適当な席に着くと、シェルトは問題用紙を配りながら説明を続ける。



「本来、魔術具の作成は日用品の作成から徐々に教えていくが、今期の学園では武器の作り方を優先して教えていくようになる。そのため各々の錬金術の知識、技術がどの程度か確認させてもらう」



 問題用紙には基本となる魔石の種類や魔力回路の構成、設計図の描き方や、魔力の制御方法などの解答を書き込むようだ。



「こちらの試験については全く解けなくても問題はない。すでに基本を習得している者を確認する試験だ」


 皆がサクサクと問題用紙をに解答を書き込んでいく。終わった順に提出する。



「それでは、訓練場に移動する」


 シェルトの後に続き教室を出た。




 *


 ラウラと二人、男の子たちの後に続いて早足でついていく。



「さっきの問題解けた? 最後の方の魔術具の設計図の間違い探し難しかったね。日用品はいいけど、武器や補助の魔術具は分からなかったよ」


「難しかった」



 一言で返したが、あれは問題としても不完全だと感じた。提示される条件が少なすぎてあまりいい解答ができなかったのである。



「あれしきの問題で悩むとは優秀者とはいえ、まだまだだな」



 少し振り返りラウラを見ながら、カイが会話に割って入ってくる。



「あの問題は武器を作った経験がないとなかなか答えられない。ラウラ焦ることはない、ここで学べばいい。助言く……」


「僕も難しかったなー。やっぱり経験って大事なんだねー。カイのうちに転がり込んで脇で作業見るくらいじゃなかなか身につかないね」



 リュリュがカイの言葉を遮りニコニコとしている。不満そうな表情を浮かべたカイは黙ってしまった。



「シェルト先輩のさっきの話だと試験より体術や魔術コースの試験を見ることが、優先って事だけど、なんでだろ? なるべくなら先輩達が魔術具作ってる実践的な授業を見学したほうがいいんじゃないかな」



 不思議そうに首を掲げながらリュリュが疑問を呟く。


「たぶん汎用じゃなくその人専用の作るため」


 ポツリと呟くと皆がこっちを見る。シェルトが振り返り「正解だ」と言った。



「汎用のものでも十分な出力は出るが、個人個人に合わせて作れば威力は段違いだ。個人の技能に合わせて補助の魔術具も使えばより能力は上がるからな。知識だけではなく相手のことを理解する事も学んで欲しいんだ。行くぞ」



 皆止まった足を再度進める。


「だから錬金コースが武術クラスってわけか」


 一人小声でユーリアは納得していた。






 * 


 訓練場へ到着すると何故かルーカス先生とイーヴァル先輩が手合わせをしていた。剣と剣で火花を散らしながら戦っている。



「これはどういう事だ」



 シェルトも驚き、近くにいた体術コースの子に声をかける。



「イーヴァル先輩がそのいろいろ仰りまして……ルーカス先生が実技を見せてやるという事で始まりました……」



 おそらくイーヴァルの失言が元凶と言えそうだ。子供達は一人を除いて二人のレベルに竦み上がっているようだ。



「あのルーカス先生に引けを取らないとは、イーヴァル先輩はすごい」



 赤髪のステンは尊敬の眼差しでイーヴァルを見つめている。

 すると、イーヴァルはシェルトが来た事に気がついたのか。

 ルーカスを弾き飛ばしこちらに手を振る。



「待ってたよー。錬金コースの試験もう終わったんだねー。これからはこっちの1年生の試験始めよっかー」


「甘いっ!!」



 ルーカスがイーヴァルに再度飛びかかるが、かっちりと受け止められる。



「先生今は僕より1年生。今度お相手しますから」


「ふん。……では、実技を始める。少々時間が押しているため体術コースは私とイーヴァルが。魔術コースはシェルト頼む。的当てだ大丈夫だろう?」


「当初は僕が魔術コースの監督だったんだけど、ごめんねー」


「問題ない」



 シェルトたちは一通り打ち合わせを終えてから準備に入る。


 訓練場を半分に区切って体術コースと魔術コースの実技試験が始まる。



「基本的な事は恐らく国で教わってきていると思う。実力を知りたいので今持てる力を見せてくれ」



 ルーカスが全員を見渡し告げると、剣の束に手をかけ、視線が鋭くなる。



「錬金コースは訓練場の端の防御壁の中で待機だ。簡易な魔術具だが、念のためだ」



 生徒たちはそれぞれの場所に移動し、順に力を出していく。

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