第三章三幕 神の秘密
「体術教えてくれる相手か。それなら知ってるぜい」
「本当か鈴木」
「だから俺の名前はフレイムタンだ!」
「はいはいわかった今度から気をつけるよ」
「……ち、なんでこいつらが」
あれから二人は懲りずに挑み続け、最後にはシモーヌの一声でこうしてダイニングキッチンまでやってきた。
普段長方形のテーブルの縦方向に十樹とイヴが向かい合うように座っており、シモーヌは横にいるのが定位置だ。因みに十樹は入り口側で、イヴは「私は神だから」と言って奥の上座の方にいたりするのだが、今は横方向のシモーヌの向かいに鈴木とサイスが仲良く肩を合わせて座っていた。
「お茶、なくなりましたら言ってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
「まるで彼女は女神のようだ……」
既に男二人を骨抜きにしている辺り流石である。自分も他人事ではなかっただけに、親近感を覚えた。
「あぁそう、じゃお祈りも済んだでしょ。帰った帰った」
本当の女神と言えばチンピラじみた言い方で追い返そうとしている辺り、どっちが女神なのかわかったものではない。
「それがブラザーに報せることがあったわけだな」
「今日は我々ファンキーズの戦闘報告に来たのさ」
「戦闘報告って、二回戦あったのか!?」
思わず立ち上がってしまった。
チーム名は激しくどうでもよかったが、まだ十樹には次の戦いの報せがないだけに驚きを隠せない。
「おぅそうだぜい。昨日の昼に戦った。相手の名前はトゥーレ・ソリヤ。見た目年齢だと中高生くらいか」
「フレイムは新必殺技の
「いやいいさサイス、今度勝てるようになれば」
「そうだったなフレイムっ」
鈴木とサイスは何やら互いにテンションでも上がってしまったのか、肩を叩きあい、最後には互いに肩を組んでいた。
シモーヌは笑顔で見ているが、イヴは辟易した顔でだらけており、十樹も顔が引きつりそうになる。が、一つ気になることが思い浮かび問いかけた。
「ところでなんで技名なんてつけるんだ?」
少なくとも十樹は技名なんてつけていない。それ以前に技らしいものを作れていないのも原因だろうが、つけようとも思っていないだけに疑問だった。何か技の威力が向上するのだろうかと。
「格好いいからだ!」
しかし実際は違うのか、力強く明後日の方向で教えてくれた。
「は?」
「だから格好いいからだ。そうは思わないか? 技を放つんだぞ。そりゃあそれに見合った技名を言わないのは嘘と言うもんさ」
「いやだから……」
「言っても無駄無駄。言ったでしょ。馬鹿だって」
イヴはやってられないと、手首から先を振っていた。それは思考放棄を意味しているとも取れるし、この二人を追い出す素振りにも見えた。
どちらにせよ、終始歩み寄るつもりはないようだ。
「ふん、最高位レベルの神だからってフレイムの崇高な考えがわからないようだな」
「よせやい。俺はただ人として当たり前のことを言っただけさ」
「はぁ、神が人間を崇めるとか世も末だわ。流石雑草」
「地球の神は力の強さの割に器は小さぃだだだだだだだだだだだだ」
「ほざけ最下級」
いきなりサイスが痛みを訴えだしたが、何処をどうやられているのか十樹にはわからない。ただ尋常ではない痛みのようで、受けてもいない十樹も身悶えしそうになった。
「またこの女神は。サイスを開放しろ!」
「そいつがじゃれ合いに来るから相手してやっているだけよ。しかもそいつ若干喜んでるから」
「どこが────」
言われてみれば確かに頬は紅く染まり、痛みこそ訴えているものの、なんだかんだで悪くなさそうな顔をしていた。
鈴木もサイスの顔から察したのか二の句が続けられず、困惑している。
「イヴその辺にしといてやれよ。そもそもそんなことしてるといる時間が長引くだけじゃないか?」
「それもそうね」
イヴはやっと開放したのか、身悶えていたサイスは呼吸が荒いままテーブルへ突っ伏し、体をビクンビクンと震わせていた。
「お前らの力の差ってかなりあるのか?」
「見てのとおりよ。こいつじゃ私に抵抗なんてできるわけない。私の管理化にある神の一つなんだから」
「どういうことだ?」
「こいつは地球の中にいる神の一つ。そして私は地球の神。地球にいる神は全て私より下よ。おまけで言うなら地球は若いながらも成長が著しいことから、神格として高位にいることになる。それが私」
「あぁ、それもなんだけど、ひょっとしてこの世界に来ている神と人って地球から来ているのか?」
一番気になったのはそこだ。
てっきりイヴは鈴木のこともサイスのことも、神の力で把握しているのかと思ったが、初めから知っているのなら話は別だ。誰が来ているかも、どのような神がついているかもわかるのではなかろうか。
「大半はそうよ。名前の通りそこの鈴木晶も日本出身だし」
「フレイムタンだ」
「あぁ?」
「ぁ、ぃや……」
イヴにガンを飛ばされ萎縮したのかそれともそちらが素か、十樹の時とは打って変わって全力で訂正しに来ることはなかった。
「他のところから来たりもするけど、基本は地球が多いわ。でも今日言った通り私は分霊。こっちに来る際にその辺の情報をスッパリ切り落とされているから、神や転生した人間のことは目や耳にしなきゃ思い出せないのよ」
「そんなに凄いんだな、唯一神って」
「正式には
「それなんだけど実際全力出したらどれくらいできるんだ? サイスもだけど」
痛みがやっと引いたのか、頭を起こしたサイスは自分もかと指を指し、少し考える素振りをしてから口を開く。
「そうだなぁ。地球を植物で埋めるくらい? あーでも頑張れば月とか火星にもできるかも。あっちの神が許したらだけど」
「まぁあんたはそんなもんね。私はもっと凄いわよ。あんた『無』はわかる?」
「『無』? 何もないというか宇宙としてすら成り立っていない空間のことか?」
「えぇその通り。私はそこに銀河が創れるくらいね」
「…………………………………………………………………………は?」
今なんと言っただろうかこの女神は。
──銀河? 銀河ってあの銀河か?
想像していたスケールを余裕で超越し、銀河がゲシュタルト崩壊しかけていた。
どういうことだと何とかしてサイスへ視線を送ると、残念そうに頷いていた。
「マジで?」
「ふふん、これでまた私の実力がわかったようね。因みにだけどこの次元を創ったのも私よ」
「なんでだ。ここってえっと、時界神だっけ? が作ったんじゃなかったのか」
「細かいところまで創ったのが時界神だったってだけ。基盤は私。懐かしいわね、何億年前だったかしら。一度私家出してね、地球を一回離れたのよ。んで自分だけの銀河がほしいなぁっと思って創ったはいいけど、それ以上やると消すぞって時界神に脅かされて泣く泣く戻ったのよ」
「やることなすことダイナミックすぎるだろ……」
「神なんてそんなもんよ。人間の尺度で考えてるあんたが馬鹿なだけ。それにしてもここに来るだなんて思いもしなかったわ」
「来たことなかったのか?」
実に意外だった。
イヴの言う通りの力があるのならば、一度くらいならば飛んでこれそうなものだが、やっていないことが実に不思議である。
「私は参加する理由がないのよ」
「君の悪癖だな。どうせ説明していなかったんだろ」
「うるさい黙れ」
指をくんと上げると同時にサイスの首が弾かれたように跳ね上がり、首の位置が戻ると顎を抑えていた。
「なんて暴力的なんだ……まぁいい。転生した人に神がついてきている理由って知っている?」
「そういや聞いたことないな。なんでだ」
「神と言っても僕。ううん、俺とそこの女神のように位が違うけど、この世界で名を馳せたり特定の結果を出すと神にも還元されて位が上がるんだ。因みに特定の結果には前にいた魔王みたいなのを倒すことや、今だとメインは
「へぇ、そんなシステムなんだな」
不思議には思っていたのだ。イヴの本来の力を正確に知らなくても、わざわざ一緒にいる理由はないだろうにと。直ぐにほっぽり出さず、ずっといるのはそういうことかと頷く。
「最も私には関係ないシステムよ」
「なんでだ? 位が上がるならイヴにも関係あるだろ」
「ないのよ。ほぼカンストしてる神はどう足掻いてもその先にはいけないの」
「……二人はわかるか?」
シモーヌや鈴木へ話を振るが、両者ともに首を横へふる。勿論十樹もわからないため補足をしてもらった。
「ったく理解力なさすぎない。いい、あんたにもわかるように言うなら位はレベル。力はパラメーター。私のレベルはもう最高。んでパラメーターはまだカンストできてない状態なだけ。わかった」
「あぁそういうことか。時間をかければ神は位を、レベルを上げられるけど一気にレベルを上げてくれるのがこの世界ってことか。でも上限はあるからレベルがマックスであるイヴには関係ないと」
「そういうことよ────あー疲れた。これ以上は面倒すぎて相手してらんないわ」
イヴは立ち上がり自室へと向かおうと出かけたところで、サイスの口が開かれる。
「伝えるのを忘れるところだった。俺たちが相手をした能闘士の神はカグヤだったよ」
「……今なんて言った?」
聞き捨てならないのか、イヴは歩みを止めて振り向いた。
「カグヤ。月の女神カグヤが同じブロックにいる」
「そっかあのクソアマが同じブロックだったなんて運命も面白いもんね」
直ぐに顔を背けたことから表情こそ見えなかったが、声は今までで一番冷ややかだっただけに、因縁浅からぬ関係なようだ。
触らぬ神に祟りなしとはいうが、少なくとも十樹はイヴをパートナーのように思えてきているところのため、聞かずにはおれなかった。
「かぐやってあのかぐや姫のことか」
「あんたの言うかぐやは私の知っているカグヤを題材に考えられたものよ。詳しいことは今度。今は一人になりたいわ」
そう言い残し、イヴは自室へと戻っていった。
数日共に過ごしてきたが、あのような反応を示すイヴは初めて目にし、かなり意外だった。
サイスは何か知っている節だったが、守秘義務に反するのか何も教えてくれず、この日はこのままお開きとなる。
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