到着 まずはギルド その三
しまった!
アナさんは自己紹介してくれたのに俺はしていなかった。
本当なら聴取されてるときにするべきだったのに。 俺はマイバイクを押すのを一端止めアナさんを呼ぶ。
「あのアナさん!」
「え…はい」
呼ばれた瞬間少し首を傾げ、呼ばれた事に不思議に思う表情をして、更にピコピコと狐耳が動いた。すげぇ…って、じゃない、そうじゃない。
「すいません。挨拶をしていませんでした」
俺はスタンドを掛けてミコちゃんを下ろす。
ミコちゃんは下ろした瞬間俺のズボンの裾をぎゅっと握って俺とアナさんをキョロキョロと見ている。
本当に可愛いなあ。
コホン。そして、俺は深く頭を下げて誠心誠意謝罪をした。
「あの…えっと…頭をあげてください……」
ほら見ろ。名前わからなくて困ってるじゃねぇか何をやっている。
そうですよ俺ですよ!
とにかくこれ以上困らせてはと、俺は早々に頭を上げ、姿勢を正して自己紹介をした。
「では…コホン。初めまして
この世界に来る前は立派な会社員だったのだ挨拶を毅然としておくのは当然だ。
なら忘れるなよって話だがな。
「ミノル…ナタおねえちゃん、おかちぃの」
ミコちゃんに言われて頭を上げて見てみると挨拶をしたのは良いが突然毅然とした態度で接されたからかアナさんは呆けてしまってた。
とにかく呼び掛けないと。
「あの、アナさーん。もしもぉし」
「は、え?…すすすすすいません。えっとキノミさん、美味しそうな名前ですね」
「いえミノルです。木野実」
「すいません…ミノルさん。えっと改めて私も挨拶させていただきますね。
私はアナタスタシアと申します。ご覧の通り教会のシスターをしておりまして、教会内にある保護施設の施設長を請け負っています」
「御丁寧にどうも。此方こそ本当に」
態とではなく呆然としていたから間違えたのは理解しているんだけど。
昔、小中とそう言われて色々とあってから思わず淡白な言い方になってしまう。
呼び方だけだと思うだろ。色々あったんだよ。
けどそれとこれは別。謝罪をさせてどうする。
こういう時はキャンプして楽しい気分にして気を晴らすが一番、なんだが。まだギルドで買い取りをしてもらわないといけないからな。
心はレッツゴーキャンプなんだけど、行くさきはギルドかぁ。
この時アナさんが挨拶で胸が寄せられて凄いことになっていたらしい事に俺は謝罪に一杯で見逃していた。
俺は別に良いんだけどな。
「とにかく、ギルドに案内してもらって良いですかアナさん」
「はい、分かりました。本当に申し訳ありません。名前を間違えるなんて」
「いえ此方が忘れたのが原因ですから」
「いえ私が」
「いえ俺が」
「私は」
「俺が」
「うーん。ふたり…ぐるぐる、してりゅの」
危ない。ミコちゃんに言われなかったら、無限ループに陥っていたところだ。
「ミコちゃんありがとな」
「…うん」
俺はミコちゃんの頭を優しく撫でる。
ミコちゃんは頬を赤く、小さな両手をぎゅっとさせ、嬉しそうにする。
「流石」
「え?何か言いました」
「いえ…別に何も」
今ポツリと何かアナさんが言ったような気がしたが、空耳か?
でも今日初対面の人の空耳ってあるのか?
もし空耳じゃなかったら「流石」って何だ?
「ミノル、はやく…いくの」
「おぉ、ごめんな待たせて。じゃあ確り座っておくんだぞ。アナさんじゃあギルドまで案内お願いします」
「お任せください」
やっと戻ってこれたんだ、同じ教会で暮らす子達に会いたいよな。
俺達はギルドを再度目指して歩き出す。それにしても当然の反応なんだけどな。バイクに街の皆の視線が集まっているのがひしひしと伝わってくる。気になって俺は無意識にチラチラと目をやっている。
気にしたら余計気になる。真っ直ぐ前を見るんだ。
集中だ集中。
たく、キャンプ旅の為に願った異世界だけど街だってみたいよ。
だって昔の中世ヨーロッパ風なんだって同僚がめちゃくちゃ語ってた。借りた小説も確かにそれだったし。
転移に興味あったしそれは達成したから。出来たら今度はくらい希望で街並み見れることを待ってたのに視線が集まりすぎて余裕で見れない。
早くキャンプしたい〜…じゃなかった。ギルドに着いてくれ〜。
「ミノルさん。ずっと気になってたのですが。ミコちゃんを乗せているその乗り物は何なのですか?」
ここでその質問ですかぁ。
思わず体勢を崩すところだった。危ない。崩れたらミコちゃんが落ちていた。
隠す必要はあるんだけど、何日もミコちゃんを探し回る程優しい人だし、アナさんならそんなホイホイと言い振らす事しないだろうと信じて俺は転生の事は抜きにしてバイクの事を話すことにした。
一応オフレコ。伏せてもらう事を了承してもらってだ。
「俺の住んでた国はここからずっと東にある島国なんです。多分」
「多分?ですか?」
「ずっと東側を渡ってきましたから」
とりあえずそういう事にしておく。日本が東側って事は間違いじゃないからな。
「なるほど…となると凄いですね島国にも拘わらずそれほどの魔道具を作る技術があるなんて。いえ、違いますね島国だからこそ生きるための知恵を身に付れらたのでしょう…」
「えっと…」
「ミノル」
「ん?どうしたミコちゃん」
「…えっと、ね…ナタおねえちゃん…たまに…ああなりゅの」
成る程。
考察し始めると止まらなくなって自分の世界に入り込んでしまうと。
ん?俺の説明いるか?
魔道具って何だ?
ん〜…ああ、そういえば同僚君が仕事中に何か言ってたな。何かを原動力として使う道具だっけ?何かそのあと部長に怒られててそっちの方が印象強くて良く覚えてね。
まあそのままなら小説だと魔力でってことになるよな。
つまりガソリンとか電気か。
うんうん、こっちだと魔道具になるのねバイクは。
こんなことならちゃんと同僚君の話も聞いておくんだった。
小説はキャンプの時に読むくらいだったし。
仕事中は仕事5割、キャンプの事を考えること5割だったからな。
「ミノ…さん、ミノルさん!」
「はい!あ、アナさん。考察は終わりました?」
「はい。すいません。気になると…本当にいつもこうで。でもミノルさんも先程まで同じでしたよ」
愚の音もでない。
「…ふたり…いっちょ?なの」
「そうだなぁ一緒かもなぁ」
なんて言いながらミコちゃんを持ち上げる。所謂、たかいたかーいだ。
ミコちゃんは怖がることなく「もっとたかくなのぉ」と寧ろ更なる高みを望んでいる。
大物になる予感。
だが、これ以上は175センチとはいえ、上がることはない。
背伸びすれば?馬鹿を言えバランス崩してミコちゃん大怪我したらどうするんだよ。
「よしギルドにささっと行って教会行こうか。じゃあアナさんお願いします」
「…はい、お任せください」
おん?デジャヴ?
というかアナさん顔赤いな。どうした?
そして、俺、ミコちゃん、アナさんはギルドへと向かうために二度目の歩みを踏み出した。
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