異世界での初キャンプ飯 一品目

これから晩飯を作るんだが、ミコちゃんは起きたばかり。

それに予想でしかないが、ここ何日か食事をしていないと思う。ボサボサになった朱毛に何日も歩き回ったような形跡のある服の汚れ。

だから取り敢えず、一部レシピを変える事にした。

ひよこ豆のトマトスープはそのままで鶏のバター炒めを鶏の雑炊に変更。


先ずは俺は米を洗って飯盒はんごうで米を炊いておき、次にシングルコンロにコッヘルを乗せトマト缶を100グラムだけ入れてが沸騰させる。

で、俺は沸騰する前からひよこ豆、家で予めサイコロ目に切っておいた人参と細かく切ったキャベツを入れる。


「な…に…つくってりゅの?」


口足らず、舌足らずながら気になって聞いてきた。「りゅ」がまた可愛い。


「出来てからのお楽しみな」


「うん……わかった」


返事をするミコちゃんはじっとちょこんと椅子に座りながら只コッヘルを見つめている。


「ぼこぼこしてきたよ!」


「うん!そだね」


可愛いわぁ。沸騰するシーンが面白いのかキャッキャッとしてる元気が出て来たな。


沸騰したら弱火にしてキューブ型のコンソメを半分に割って入れ混ぜて水分量が減ってきたら残りのトマト缶を入れてもう一度沸騰させてひよこ豆と人参が煮崩れするくらいになるまで弱火で確り煮込む。


「おじちゃん、こんど…いいにおい…し、してきたの」


「おじ…ミコちゃん俺はまだお兄さんな」


些細な事かもしれんが一応言っておかないと。子どもの言うことは侮るなかれと心に刻んだ。


「もうすぐだからな。もう少し待てるか?」


「……がんばりゅ」


また「りゅ」。

良いなぁほんわかする。

親父とかも小さい頃の俺を見てこんな気持ちになってたのかもな。

今はもう聞けないけど、はは。

あ〜でも俺の場合は親戚のお兄さんかな。叔父さんではない。叔父さんでは。


「おじちゃん?どうか…ちた?」


「何でもないぞ〜」


おじちゃんなら良いか。どうせ今だけの事だ。


それにしてもミコちゃんは目を覚ましたのが今しがたなのに俺を警戒してないよな。

普通今いるここが何処なのか、両親が何処なのか、俺が何者かとか色々訳がわからなくて泣いてしまうそうだが。

でも、泣かなかった。逃げ出す様子も見せなかった。

……いや、まだ憶測でしかない。


さて、スープが出来た。

雑炊はご飯がまだだからな。

先にスープで腹を少し満たしてもらおう。

俺はスープを今使ってるコッヘルより少し小さめのやつに移しかえてミコちゃんに渡した。

勿論、熱いから両手持ちのコッヘル。


アラームはセットしてあるし俺も飯盒飯炊けるのを待ちながら一緒に食べるか。


「いただきます」

「……い、いただきましゅ」


うん、やはり口に合うかどうか気になってしまってスープには口をつけず、俺はミコちゃんに顔を向けていた。

それにまだ小さい手でちょっとした拍子で熱い部分に触れて小火傷しないかとか、少し不安になった。

子どもに対してこんな気持ちは初めてだな。忙しい時、はしゃいで無闇矢鱈と走り回る子どもと当たりそうになった時とかにイラッと来る記憶しかない。

親が確り見ていないからそうなるんだろうがな。


「おじちゃん…おいしいの!」


そう言ってごくごくとトマトスープを飲んでは具をスプーンで掬って無邪気に食べている。


「お腹の空きは少し開けとくんだぞ。まだ違うの作ってるからな。後、ゆっくり食べろ」


「うん!」


可愛い!素直な所よりも向けられる純粋な笑顔が可愛い。

俺何回言った?まあどうでもいいけど。


ミコちゃん口元に付いていたトマトスープを拭うと「ありがとう、おじちゃん」とまた笑顔を向けてくれた。

すっかり忘れてたが、


「ミコちゃん、お兄さんな」


「……えっと…おじちゃんのね、なまえ…しらないの」


それもそうか。確かに俺は聞いたけど教えてなかった。

失態、失態。


「俺は木野実、実が名前」


「みにょる?」


可愛い。時々舌足らずで言えてないところがやっぱり可愛い。


「み、の、る…な」


「み、の、る…ミノル!ミノルミノル!」


「ミコちゃん、ミノルさんだ」


「や、ミノルがいい」


ぷいっとそっぽを向いて言うところが子どもらしくて可愛いとは思う。

だが、こうした一般常識というのは初めが感じだからな。

初対面の人や一定の距離感のある人には敬称を付けた方がいい。いきなり距離感が近いと不快に思う人だっているからな。

うん。親御さん、今は良くても今後の為に少し教育させてもらいます。


今の俺の最大限での簡単な説明をするとミコちゃんは「むずし…くて、わからないの…なんとなく…わかったの」と言った、でも俺の事は呼び捨てが良いらしい。

何故だろうか。


兎に角理解はしてくれた。良く大人って子どもには『それはいけないことだから駄目』とかあやふやに説明するけど、子どもは意味が伝わらなくても理解できる。

だから、走り回ってぶつかりそうになった子どもにも危ないことを説明したら前を見て歩いてといった。

その後は不明だがな。

多分、俺達よりも理解はあるはずだ。だから俺はある程度は分かりやすくしてミコちゃんに説明した。


「ミノル!あっちからいいにおいしてきた」


飯に対しての嗅覚半端ないなミコちゃん。

それに興奮すると流暢になるのか。

まあ俺くらいの歳になっても好きなものには口が流暢になるのは変わらないからミコちゃんの事言えないけどさ。

時間を確認すると炊き上がり迄一秒前だった。あぶねぇ。

飯盒の蓋を開けるとブワッと一気に白米の香りが昇り食欲をそそった。

ミコちゃんは早く食べたいようで椅子を揺らしている。


雑炊もささっと作りますか。

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