第2話 ドラキュラさんは窓際族
「君が今日から数日間働く人?」
「はい、お願いします..」
今度は完全室内か、日差しによる妨害は無さそうだな。
「まぁ簡単な仕事だから、そう難しく考えずに」
「はい、わかりました」
「じゃあこれモップと、あとバケツ。
二階のフロアと各部屋廊下、基本的に全部はやるからお願いね。」
「はい...」
ホテルの清掃員か、なんたる地味か..
まぁ目立たないのは嫌いじゃないが。
「それなりに考えて職種を選んでいる様だな、不気味な奴だ」
まぁ言っても単純作業だ、見える床と部屋を磨く。
「本来部屋など見たくも無いが仕方が無い」
敷居はまぁまぁ高そうなホテルだ、言うほど散らかりはしないだろう。
「失礼致します..」
入った事が無い故尋ね方が解らんぞ。
「扉を開けるところまでは一緒だな」
...まぁまぁ散らかっている、というよりかなり荒れてるぞ。
「鬼が泊まったのか?」
もしやあいつ、あの狐が予め部屋を無残に汚しておいて仕事を増やしたのか
「やはりそうか
奴め、結局は外道だな!」
今朝のゴミをここに吐いたなゲスめが
「塵一つ残さんぞ策士の愚者よ..!」
「あっ」「..え?」
だれだこの青年は、妖の刺客か?
「すいませんっ!」「え、いや..」
部屋を使っていた客人か。
「..忘れ物しちゃって、掃除の邪魔ですよね?」
「い、いえ、そんな事は..。」
邪魔だ、去れ
「上下ジャージを着ていたな」
どこかの学校の指定っぽいな、修学旅行生か何かであろうか?
「..待てよ、就業時期を決めたの奴だったよな。」
結局奴の思うツボかっ!
「はぁ..」
やる気が失せた、向かいの部屋から掃除しよう。
「出来るだけ手の及んでない箇所から取り掛かるとしよう」
「失礼致します..!」
流石に全ての部屋にまでは届かな...
「くそ。」
ここもか、反対側もか?
向かい合う一室のみに施す訳も無いであろうし、他もこの仕様であろうか。
「なんだこの部屋は、ツレのウチではないか。」
何かヒントはないか、停泊人の素性を探る手掛かりが..。
「ベッドの上のこれは、ボールか」
ココナッツ型のボール。
ラグビーかアメフトの奴だ、て事は客はラガーマンか?
「これは調査が必要だ」
それなりの時間を要し調べ上げた結果
廊下を挟んだ左の列を成す部屋の持ち物は指定のカバンやガイドブック、右の列はボールや赤と白のシマシマシャツ、ヘッドギア的な四角い奴ばかりだった。
「間違いない、この階の利用客は半分は修学旅行生。もう半分はラグビー系集団の合宿だ..」
冗談のつもりか?
何だその汗と涙のダブルパンチは。
「集団と活発など..私と真逆の概念だ
洗脳と搾取だ!」
清掃ってそういう意味か?
〝捻くれた性根を改めろ〟的なそういう事なのか!?
「説法は聞かんぞっ!」
終わらせてやる、跡形も無く汚れを落とし元の部屋へとリセットするがいい
「モップ一つで刈り取ってくれる」
床も部屋も壁に至るまで何もかも一本の矛で磨き上げるぞ。
「部屋の掃除はホテルマンの仕事じゃないのか..清掃員なのか?」
まぁいい、何者かが適当に伝えてチョロまかしたのだろう。大人というのはそういうものだ、卑怯が服着て歩いているのと然程変わらん。あいにくここには誰も存在しない。
「夜行性のスタンドアローンタイプを舐めるなよ?」
そこからはまぁ捗った。
見えるゴミを拾い、汚れを磨き落とし
時間を忘れるように部屋を回って綺麗に整えた。
「やはり地味な作業は堪らんな..」
学生の頃も5、6番手くらいの女子が好きだった。
「裁縫部のおかっぱの子だ」
クラスのマドンナより余程の魅力を持っていた、何せ可愛い事に自覚が無いからな。
「今頃金髪でウェーブが掛かっていたりしてな..」
その時は、己の目蓋を縫い合わせよう
「あの頃のあだ名は何だったかな..」
あ思い出した〝低血圧〟だ。
知り合いが極端に少なかったからな、
体育の時間が地獄だったのだ。
「体育教師は平然と呪いの呪文を唱えてくるしな」
〝好きな奴と二人組組めー〟という。
「いないから一人でいるのが分からんのだ奴等は」
体育会系が基本嫌いだ、何だ奴等は。
サッカー部のエースはマネージャーとだけ付き合え!
「短パン球蹴り師め...」
卓球部と何が違う?
まだ帰宅部の救済地を担う奴等の方が利点があるぞ。
「メガネの奴を弄って強めに叩く奴、あれ別に面白くないぞ..」
強めに叩いて痛がるのを愉しんでいるが、後にマウントを取られるのはお前達だ。
「クラスの隅の色白メガネは本気で強いからな、終わりだ。」
未来でしっかりと吠え面をかくといい
「時間が余ったな..」
プラスな形でルサンチマンが働いた、残りの刻をどうするか。
「アンタ、掃除の人?
ここにもゴミがあるんだけど、拾っていってちょうだいよ」
なんだ客か、直接とは積極的だな。
「はい、わかりまし..」「あら!」
「……何?」おいおい。
「こんな所に..いたんだ?
...探したんだから。」
なぜあの老婆がここにいる!?
「失礼します!」
「あ、ちょっ..待ってよ!」
「待つわけがあるか..!」
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