第29話 卒業検定

 さぁ、やってまいりました卒業検定の日。運転免許の卒業検定なんて、普通自動二輪(普通自動二輪)から35年、普通自動車から30年振りとなります。


 いつの世も、試験というのは緊張するもんです(汗)。この日は平日ということもあり、二輪の卒業検定を受ける人は全部で5人で内訳は、普通二輪審査(普通二輪AT限定限定を解除する)が1名、普通二輪MTが1名、小型二輪が1名(女性)、そして大型二輪が2名となります。


 まずは全員別室に集められ、本日の受験番号が言い渡されます。大型二輪からの発表でしたが僕が1番・・・こりゃめっちゃ緊張するなぁと思ったら、試験自体は普通二輪審査→中型二輪→小型二輪→大型二輪ということで、トップバッターではなく後ろから2番目となりました。

 そして本日の課題回路もここで初めて言い渡されるのですが、試験回路は第2回路になりました。

 絵を貼れないので何とも説明が難しいのですが、ほとんど第1回路と変わらなく、二輪特有の科目の順も同じなので、若干安心しました。これが第3回路だと初っ端から科目が違うのと、似たような回路がないため第3回路以外であってほしいと思っていたので、まぁまぁの結果ですね。

 僕はラス前なので、コースに面したところにあるベンチで待つことにしました。が、なぜか全員僕の後に付いてきて、結果全員ベンチで待機。

 安全装備ということで、半袖で丁度いい位の温度ですが、長袖必須なのでGジャンを着ていた僕は、部屋の中が熱くて汗だくになりそうだったので外へ出ただけだったのですが、こりゃ試験中待機している4人が見ているという意識をすると、緊張に拍車が掛かりそうです(汗)。


 別室での説明が終わって、検定開始までの20分ほど、みな一様に緊張してるようで、受験生同士で会話をすることも無かったのですが、一番年長の普通二輪審査の人が125ccのスクーターで種子島へ行った話とか、実は今回が2回目の卒業検定とか話し始めたので幾分緊張が和らいで、何となく車種は違えど今日は頑張ろうという雰囲気になりました。良かった良かった。


 そんなこんなで時間となり、一番饒舌だったおじさんから受験スタート!

 小型二輪、普通二輪、大型二輪で若干科目が違いますが、中型二輪と大型二輪の差は、波状路があるか無いかだけ。

 一本橋の通過時間は中型二輪の方が3秒短い7秒以上という違いはありますが、急制動の速度も距離も全く同じです。

 ま、1人目の挑戦ですから本人も見てる方も緊張感が半端なかったと思いますが、僕は案外こういうのに緊張しない方なんです。

 他の人は1人目の走りを立ち上がって目で追ってますが、僕はベンチに腰かけたまま、他の教習車や近くの道を走るバイクなどを眺めてました(笑)。

 すると、見ていた3人がほぼ同時に


『『『あっ!』』』


って言ったので、慌てて皆の目線の先を見ると、検定員が乗った車から人が走っていくのが見えました。


『ん?何かありました?』

『うん、クランクで転んだみたい・・・』


 あちゃー、検定中に転倒は即中止のひとつです。しばらくして、発着点に戻ってきて、検定員と話をしたおじさんが僕たちのところにやってきました。


『いや~クランクで失敗したこと1度も無かったのに、緊張してしまったよ』


 そういうおじさんは、この検定が2度めどいうこともあり、思ったよりは落ち込んでいない様で


『よし、明日の教習予約して、明後日もう一度挑戦だ!』


と前向きな発言。


 それでも、他の人たちは初っ端から即中止を目の当たりにして、どう見ても緊張感が漲ってる顔・・・、まぁ普通そうですよねぇ(汗)。

 次は中型二輪の若いお兄さんですが、検定用のバイクは転倒した拍子に、右バックミラーが破損したようで、教官の一人が慌てて車庫から新しいミラーを持って検定車に走っていき修理してたので、ここで少しだけ時間が出来ました。

 この少しの時間が良かったのか、若いお兄さんは少しだけ緊張が解けたようで、検定自体は卒なく走れていたようですが、問題は次の小型二輪のお姉さん。


 僕は相変わらずキョロキョロあたりを見てたんですが、若いお兄さんが走り出すと急に立ち上がり、目で検定車を追っていました。

 っていうか、もうね、表情も身体も固まってて仁王立ち、ちょっと怖い顔になって瞬きすらしてないんですよ(汗)。

 このお姉さんもトップバッターのおじさんと同じく、今日が2回目の検定なので、普通に考えたら初めて検定受ける人より慣れてる分緊張しないんじゃ?と思っていたのですが、トップのおじさんの即中止を目の当たりにして、変な空気入っちゃってる感じ。こりゃあかんと思い、ちょっとだけ声を掛けてみることに


『ねぇ、おねえさん?』

『あ、あ、はいっ!』


 ようやく検定車から目を逸らしてくれました(笑)。


『お姉さんは、もう乗るバイク買われてるんですかぁ?』

『いえ、まだバイクは買ってないです』

『だとすると僕と同じで、今日合格してもすぐにはバイク乗れないんですよね?』

『そうですねぇ』

『だったら、今日合格すると暫くバイクに乗れないんだから、楽しんで乗らないと勿体ないよ(笑)』

『へっ?』

『いや、僕は中型で乗れるバイクも持っていないし、大型取ってもバイク買ってもらえるか分からないから、もしかすると今日が最後のバイク体験になるかもしれないんだよ(笑)』

『そんな・・・』

『だからさ、検定は緊張するけど、楽しんでおかないと勿体なくてさ(笑)』

『そうですね、バイクの乗るのが楽しいから免許取るんですものね(笑)』

『そうそう、もし楽しんで落ちたとしても、もう1時間乗れるんだと思えば、僕はそれも有りかと思ってるんだよねぇ、検定代掛かっちゃうけど(汗)』

『それ、良いですね(笑)』


 やっと表情が戻ってきて、笑顔も出来るようになりました。たぶん、少しは緊張が取れたんじゃないかと思います。

 小型二輪のお姉さんは元気よく、125ccのバイクで検定を始めたようです。そういえば、教習中に1度も小型バイクを見かけたことありませんでしたが、見た目は色も形も大型のNC750Lに似ています。


 さて、無難にお姉さんが戻ってきて、いよいよ僕の番です。教官の1人が小型バイクを駐車エリアに移動させ、今度は大型車を発着位置に移動させてます。

 準備が出来たようなので、検定員を乗せた自動車のところへ行き、受験番号、名前、生年月日、あとは眼鏡等の条件の有無を伝えます。


『眼鏡等の条件は無いです』

『えっと、〇〇さん、左目の視力は・・・』

『はい、弱視で計測不能ですが、視野はありますので問題ありません』

『そうですか、では検定を始めましょう!』


 まさか、検定で視力のことを今更聞かれるとは思わなかったよと思いながら乗車位置へ、一応検定員に向かって頭を下げ、これから始めるという意思表示をします。



 ま、ぶっちゃけ緊張してないと言えばウソになりますが、それよりも


『たった12時間乗るだけなのに、コロナの影響で3ヶ月も掛かったなぁ』


とか


『これで合格したら、今度はいつバイクに乗れるのかなぁ』


などと考えながらコースを進み、自分では危なげなく走った感で発着点にあっと言う間に戻ってきた感じ。最後にスタンドを掛け検定終了です。

(すいません、見どころ無くて(笑))

 すぐに検定員のところへ行き話を聞きます。あっ、合否は全員終わった後で発表があるので、ここで聞くのは検定コースでの走りについてですね。


『〇〇さん、よーく練習しましたね!』


(あ、いや、延長も付かなかったし、なんなら第2段階はかなり放置気味でしたけどね?)


『技術面は全く問題無かったです』

『あざっす!』

『ただ強いていうと、交差点などでの安全確認がもう少し早い方が良いですね』

『わかりました!』

『以上です』

『ありがとうございました』


 検定を終わった僕は、ともかく暑かったのですぐにプロテクターを外しに、一度建物の中に入りました。ちゃちゃっと外して、汗蒸れ防止用のヘルメットインナーも脱ぎ、汗をぬぐいながらまたベンチに戻ると、程なく最後の検定の方も戻ってきたところでした。ヘルメットを脱ぎながらことらへ戻ってきたその方に声を掛けます


『どうでした?』

『もしかしたら、一本橋が10秒切ってたかもしれないけど、他は問題無いと思います』

『タイムは減点だけですから、きっと大丈夫ですよ!』


 一通り検定が終わったことで、皆で建物の中に入り、あとは発表を待つだけです。

 まぁこの時点で、1名だけ不合格なのは確定しているので、実質的には4人が合否の発表を待っています。

 待っている間、普通二輪審査のおじさんが、教官と次回の補習(卒業検定に落ちると1時間補習を受ける必要があるらしい)と、明後日の卒業検定の予約をして先に帰っていきました。

 ほどなく検定員がやってきて待機していた4人の名前を言っては、合否の結果を伝えてくれますが、結果残り4人は全員合格でした。

 本当かどうかは分かりませんが、検定コースの途中で発着点へ戻される、いわゆる一発中止でない限り、普通に発着点へ戻ってきた人はほとんど合格だとか・・・?

 大型二輪の2人は、すでに普通二輪免許を持っていたためか、そのまま受付で清算を行い、卒業証書を受け取れます。

 普通二輪と小型二輪の人は、今回が初の二輪免許らしく、卒業証書をもらう前に簡単な学科があるそうで、ここでお別れ。

 僕は4月入校のサービスで、補習が付いても追加金なしのサービス対象なのですが、結局補習なしで卒業ですから清算金もなく、少しして卒業証書を受け取ることが出来ました。

 これを持って運転免許試験場で手続きを終えると、晴れて大型二輪を乗る資格を得ることが出来ます。

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