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秘書課の人達に笑顔で見送られ、社長専用のエレベーターで地下の駐車場まで来た。
そしてテレビでしか見たことのない高級車の助手席に押し込まれた。
「えっ、あの、社長…。ほっ本気ですか?」
「当たり前だ。ここまで来て冗談で済む訳ないだろう。分かったらとっととシートベルトしろ」
「あっ、はい」
思わずシートベルトをしてしまい、つい『分かった』ことを暗示してしまった。
すぐさま反論しようとしたけれど、車が動き出してしまい、わたしは呆然とした。
…何? この状況。
いやっ! 確認すべきことがある!
「社長! もしかして、今年定年退職した事務の課長から、何か言われました?」
「察しが良いなぁ、お前」
社長はすぐに返答した。
「やっぱり…! 辞める間際、わたしが事務にいることを惜しんでいたのでまさかとは思いましたが…」
「あのジーさんな、親父の親友なんだよ」
「…はい?」
あの地味な課長が、社長のお父様の親友?
我が耳を疑ってしまう…。
「元々別の会社で事務をしててな。リストラされたんで俺が引き取った。んで、退職する前に食事をしたんだがな。その時にお前のことを頼まれた」
課長…余計なことを(涙)。
「『事務にいるにはもったいない子がいる。お前の所で面倒を見てやれ』ってな」
「だからいきなり秘書課に…。でも無理やり過ぎますよ!」
「そんなことはない。お前の優秀さは気付いていないだろうが、社内で結構話題になっている。反対するヤツもいなかったしな」
がくっ…。ウワサなんて、地下一階の事務に届くことなんてほとんど無い。
「まっ、こうなったら諦めろ。給料は奮発してやるから」
「…そうですか」
と言うしかなかった。逃げ道は完璧に絶たれてしまっているのだから…。
そして連れて来られたのは、有名ブティックショップ。
またもや社長に手を掴まれ、中に入る。
「いらっしゃいませ。源氏さま」
源氏
げんじ
光
ひかる
。社長の本名だ。
礼儀正しく、女性店員が頭を下げる。
「コイツのスーツを頼む。数は10着ぐらいで」
「ぶっ★」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」
「ホレ、行って来い」
「…はい」
もう抵抗することに疲れてしまった…。
店内の奥にある更衣室に入った。店員も一緒で、服を脱いでサイズを測られた。
…とてもじゃないけど、秘書課の人間の3サイズじゃないな。
「それでは少々お待ちください」
「もう服を着ても?」
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