4
「なら秘書課の事務をしろ」
「…はい?」
「秘書課にもそういう仕事はある。ちょうど良いことに、今の秘書達は事務的な仕事は苦手ときている。全部お前に任せる。それなら良いんだろう?」
…確かに秘書課の人達は、事務の仕事を好んでやるタイプには思えないけど…。
秘書課の中の、事務作業…。それなら妥協しても良いかもしれない。
普通の秘書のように、社長についていろいろな所に回ったり、たくさんの人と接することがないなら…。
「…わたし、対人は苦手ですよ?」
「これだけ俺に啖呵切れるんだから、ウソだと思いたいな」
「それとこれとは違います! 本当に事務作業をさせてくれるならまあ…良いですけど」
秘書課の事務作業なら、普通に事務にいるよりお給料も良くなる。
趣味人間のわたしにはありがたいことだ。
「そうか。なら決まりだな」
ポンッと手を叩き、課長を丁寧に下ろした社長は、わたしの目の前に歩いてきた。
うっ! 目の前に立たれると、迫力あるなぁ。
長身だけど細身で、整った顔立ちをしている。
なのに性格は豪快で強気。だけど人に好かれるタイプで、敵は多いけど味方も多い。
…まっ、女性関係も多いみたいだけど。
「それじゃ、よろしくな。ゆかり」
「えっ? …下の名前ですか?」
「俺は秘書を、下の名前で呼び捨てにするんだ。慣れろ」
「…分かりましたよ。これからよろしくお願いします」
わたしは腰を折り曲げ、お辞儀をした。
「ああ」
そして差し出された社長の大きな手。
おずおずと握った。
大きくて熱い手…。この手で欲しい物は何でも手に入れてきたんだろうなぁ。
まさにわたしとは住んでいる世界が違う。
仕事も事務だけなら、あんまり顔を合わせないだろうし…。
「じゃ、行くか」
「えっ?」
社長はわたしの手を掴んだまま、突然歩き出した。
「いっ行くってどこにですか?」
「買い物だ。その事務員の格好じゃ、秘書なんて勤まらないぞ」
「今日は大目に見てくださいよ! と言うよりお金あんまり持っていません!」
情けないことだが、会社に大金を持ってくることはあまりない。
「心配するな。秘書課配属祝いだ。俺が奢ってやる」
「それって会社のお金じゃないですか!」
「俺の給料から出るから、横領じゃない。経費で落とそうなんて考えていないから、心配するな」
それなら一安心…ではなくて!
「これからって、仕事はどうするんですか?」
事務でも秘書でも引き継がなければならないことが、山のようにあるというのに!
「最初の仕事は俺に付き合うことだ。分かったらとっとと行くぞ」
「えっ~?!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます