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などと考えていたら、あっという間に春が来た。


課長を送り出し、少し心寂しくなりながらも新たな季節を迎えた。


春は人事異動が発表される季節。


まあわたしには無縁だけど、知っておくことは必要だ。


広いフロアにはすでに多くの人が集まっていた。


みんなザワザワと、不安そうな顔をしている。


何かとんでもない人事異動があったんだろうか?


輪の中に入ろうとすると、顔見知りの女性社員がわたしを見つけ、駆け寄ってきた。


「藤壺さん! あなた一体、どうしちゃったの?」


「えっ? 何が?」


「何がじゃないわよ! 見てないの?」


彼女は人事異動の紙を指さす。


「見てない…と言うより、見えない」


わたしの身長は、普通の女性とほぼ同じ。


しかし3メートル先にあり、人の頭と背が邪魔をして、文字は全く見えない。


かろうじて、掲示板に何か紙が張ってあるのが分かるぐらいだ。


「んもう! こっちよ!」


彼女に腕を捕まれ、移動した。


そして彼女は人だかりに向かって、声を張り上げた。


「ちょっとどいて! 藤壺さんが見えないじゃない!」


うえっ!?


彼女の出した声に驚き、全員がこっちを見た!


「藤壺…って、あのコが…」


「…そうなんだ」


しかし何故か視線がおかしい。


声を出した彼女ではなく、わたしを見て、みんな変な顔をしている。


「さっ、見て!」


彼女に言われ、わたしは前に歩いた。


そして人事異動の紙を見て………絶句した。


そこには、こう書かれていた。


【人事異動 事務→秘書 藤壺ゆかり】


「えっ…秘書? 人事異動? …わたしが?」


思わず自分を指さし、彼女の顔を見ると、険しい顔で頷かれた。


「そう。藤壺さん、あなたは今日から秘書課に転属です」


「えっ…へっ……はああああ!?」


秘書課は最上階の社長室の隣にある。


エレベーターに乗り込み、すぐさま秘書課の扉を叩いた。


「失礼します!」


返事が返ってくる前に、わたしは扉を開けた。


中にはグラビアアイドルびっくりの、美女ぞろいがっ…!


眩しさに目を奪われながらも、わたしは近くにいた1人の女性に声をかけた。


「事務の藤壺ゆかりです! あの、人事異動のことでお話が…」


「あら、あなたが藤壺さん? 可愛い♪」


途端に「きゃー!」とはしゃいだ声が部屋に響いた。


「かっ可愛いって…」


「あっ、話は秘書課の課長としてくれる? 今、社長室にいるから」


「はっ!?」


社長室で話をしろってこと?


…下手すれば、クビ?


「さあさ、社長も課長も待っているわよ」


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