森の向こうへ

 父さんが死んだことに未だ実感は無いのだけれど......


 少年は彼らの一族が箱庭と呼んでいる森を走っていた。' 不思議な少女 ' に会うために『森の向こうの小屋』へ向かっているのであった。


 この森にも魑魅魍魎が湧くようになった。濃紺の光を放つ"魚の骨"の姿をしたものが薄暗い森を飛び交っている。これは最下級の魑魅魍魎であり特段の害はない。ただ気味が悪いだけであるのだが......


「命を食べたい」

「生きた命を食べたい」

「新鮮な命を食べたい......」


 光を放つ"魚の骨"たちが発している思念である。実際に生き物を、いや死体であってもだが、食べることはないのだが......彼らは永遠に満たされぬ食欲をかかえ漂い続けている。


 それにしてもこの森は、かつては安全な場所であった。なぜ魍魎などが湧くようになったのだろうか。


 父さんは勇敢だった。少年はまた父親のことを思い出していた。

 いつか、僕も父さんのようになりたい......


 彼が物思いにふけっていると、


 ドーン! ドゥーン!

 ドゥーン! ドゥーン!

 ドーン! ドゥーン! ドゥーン!


 という打楽器を叩くような重低音が森に響いた。その音響と共に現れたのは数体の骸骨と、骸骨の後ろには"少女"と"黒い衣を纏った者"が控えていた。

 骸骨はまぎれもなく人間の骸骨の姿であり妖魔であった。


 骸骨達は躊躇なく少年に襲いかかってきた。


「う、うゎぁ~~~」


 いつか、僕も父さんのようになりたい......

 しかし今の彼は骸骨にすら立ち向かうことができず、ただうずくまってしまった。


 "にゃお~ん、にゃおお~ん、にゃ~"


 どこからやって来たのか、少年を助けたのはネコトラであった。ネコトラは骸骨を突き飛ばすと、散らばった骨をバリバリと音をたてながら食べ始めた。


「ネコトラよ、わらわの邪魔をするのかえ?」骸骨の後ろにいた少女が口を開いた。


 しかし、ネコトラは聞いていなかった。骸骨の骨を食べるのに夢中になっていたのだ。


 ネコトラがなぜこのの少年を助けたのか? それは彼が"ユリウス・スラ・ゴドリノ"の息子だからである。


 つまりサツマイモの息子なわけだが、この少年を助けたのは、ネコトラとしてもかつてサツマイモを轢いてしまったことを多少なり申し訳なく思っていたのかもしれない。


「ネコトラめ、わらわの邪魔をするのかえ?」少女はむきになって、もう一度言った。



◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



(ここまでたどり着くのにとても時間がかかった上、唐突ですがプロローグのスライムの少年がやっと再登場しました)


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