アハナシバの呪文

 ネコトラは少女の方を向き、吼えた。


 "にゃお~ん!"


 にゃお~んでは分からないと思うが、かなりの怒気を含んだ咆哮であった。食事の邪魔をされたから怒っているのである。


 怒りにまかせて尻尾を振り回すと、少女は跳躍してよけた。上空100メートル地点までジャンプすると彼女は呪文を唱えた。呪文とは呪いである。


 「mke t wl griya」


 それは超古代・アハナシバ人の言葉である。以前にも書いたが、アハナシバ人と言えば、ドゴリコ王家がアハナシバ人の末裔である。

 少女が呪文を唱えると、世界一面すべてが灰色になった。森の木々も空も。少女自身も灰色になり、見えなくなった。

 彼女の気配は消えた。逃げたのであろうか?

 ネコトラも ' ネコ ' の眷属である。いざ闘いとなれば、世界を崩壊させかねない力を持っている。少女はひとまず闘いをさけたのであろう。


 ネコトラはスライムの少年を見ると、助手席側のドアをパカーンと開け、入るように促した。

 少年は一生懸命ジャンプして助手席に座った。

 運転席には子猫が寝ていた。見た目は普通の猫であるが、この子猫はネコトラの息子である。


 少年はネコトラのふさふさした毛を触ってみた。猫というものを見るのが初めてだったので、当然、触るのも初めてだった。


「やわらかくて、ふさふさしてる。あ、さっきは助けてくれてありがとうございます......僕はアウグス・スラ・ゴドリノです。あの、あなたのお名前は?」

「"にゃお"」

「ニャオ? あなたのお名前はニャオですね!」


 少年とネコトラが会話を交わしていると、運転席の子猫はうるさそうに寝返りをうった。

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