焦げ臭いの種類

「そうね、何か焦げ臭いわ。」と妖女は言った。


 ' ドメスティック・フラワーズ ' は群体である。しかしその花、一輪一輪に意識がある。彼女達は"焦げ臭い"ということについて検討しあったのである。というのもドメスティック・フラワーズには嗅覚器官がないのである。"焦げ臭い"とはどういうことなのか? がわからないのである。


「妖女さま、焦げ臭いというのはどういうことなのでしょうか?」' ドメスティック・フラワーズ ' の一輪は意を決して聞いてみた。


「そうねぇ、うーん、焦げ臭いは焦げ臭いとしか言いようがないわねぇ......」


「焦げ臭いにも良い"焦げ臭い"と悪い"焦げ臭い"があるの。災害や戦禍で街が燃える匂いは悪い"焦げ臭い"。よく熟成されたチーズが焦げる匂いは良い"焦げ臭い"よ。」と妖女は言った。


「そうでございますか。"焦げ臭い"にもいろいろ種類があるのですね......私達は匂いというものが分からないものですから......」


「それはそうと、さっきこの辺りだけ曇天のようになっていたように見えたが、雨でも降ったのかしら?」


「はい。先程、空がとても暗くなりましたが、雨は降りませんでした。」と' ドメスティック・フラワーズ ' の一輪が答えた。


 曇天というのは〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉の表出のことであるが、ドメスティック・フラワーズは本当のことは言わなかった。妖女はこの家の主人ではあるが、彼女たちの主人というわけではないのである。よって別段、本当のことを言う必要性は彼女たちにはないのである。


 妖女は「そう」とだけ言った。


 妖女は家のドアを開けると、「さあさ、皆さんお入りくださいな」と言った。"焦げ臭い"匂いは家の中から漂ってくる。


「ところで妖女よ、あたいはあんたのこと何と呼べば良いのだ?」と〈幼女〉朝顔は聞いた。


「妖女でいいわよ。あたしは自分の名前を決して言うなと言われているし」と妖女は言った。


「名前を言うなとはどういうことだ?」


「さあ、あの方がそう言うの、ほんと困ったことなのだけど......」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る