〔ドゴリコ王国における伝承〕
ドゴリコ王国の伝承〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉(1)
ストーンサークルは、ドゴリコ王国から歩いて30分程度のところにある。そこは見渡す限りの草原で、そこに幾つかの石柱が円環状に立っている。
草原にはさわさわとした風が吹いていた。寂しい場所ではあったが、草原の草達は優しくさらさらと風の通ったあとをつくっている。
しかしながら、その日に限ってはその草原に通常のものと異なる風が吹いた。
' 異なる風 ' は ' より高次元の者 ' が通った跡である。' より高次元の者 ' は善き者であるか、それとも悪しき者であるか。分からない。本来は善悪を超越した存在なのだろう。
しかしながら、人間の判断基準で言えば ' それ ' は ' 悪しき者 ' と言えた。その者のうちの ' なにか ' がこの三次元空間に姿を表出させた。仮にひとまず ' 訪問者 ' と呼ぼう。
その ' 訪問者 ' は醜い姿をしていた。動物の内臓の内側のような色をしていたし、それが蠕動運動のように蠢いていた。蠕動運動は単に移動のためのものだろうか、それとも何かを排出しようとしているのだろうか......
' 訪問者 ' は非常に巨大であり、草原の空を埋め尽くした。そのため草原は一瞬にして闇となった。闇の中でも、その暗闇の中で ' 訪問者 ' が妖しく蠢いていていることが感じられる。感覚器官に直接伝わってくる感触である。
もしそこに人間がいたら吐き気を催していたであろう。その感触は、人間には生理的に絶対に受け入れることのできないものであるからである。
であるもののと言うべきか、であるからと言うべきか分からないが......そういった ' 悪しき者 ' の存在は、数は少ないものの人間界においていくつか言い伝えられている。
ドゴリコ王国は古い王国であるため、比較的多く、書物としてその伝承が残っていた。ドゴリコ王国の伝承においては、この ' 訪問者 ' は〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉と呼ばれている。
〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉とは、ドゴリコ王国の古い言葉で ' 生贄に捧げた者 ' という意味である。もう滅びてしまった他国の書物によれば姿形の描写は異なるが、' Dark Young - 黒い仔山羊 ' と呼ばれる場合もあり、同一の存在と考えられている。
そうしたドゴリコ王国に伝わる書物のうちの一つは、現代の我々の世界では、H・R・アズラットが著したとされる『ネクロ・ノーム・IV』という書籍として読むことができる。
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