第14話 確かなもの

 長い沈黙が夕暮れの部屋に落ちる。

 

 なにも、言えなかった。


「先月、帰り道で通り魔に殺されたって。あなたの方が詳しいはずでしょ? 紀美丹君」


 そう、彼女は僕と買い物に行った日に

帰り道で別れた後、通り魔に殺された。

 そして、その犯人はいまだに捕まっていない。


「・・・・・・ねぇ、大丈夫? 紀美丹君。あなた、尾張さんとはとても仲が良かったから、ショックなのはわかるけど・・・・・・でもーーーーーーーーーー」

 

 椎堂さんは、少し躊躇しながらそれでも言葉は止めない。


 ーーーーーーーーーー死んだ人はもう、戻っては来ないのよ?


 椎堂さんの言葉が僕を揺さぶる。


「たしかに、彼女は殺されました。・・・・・・でも! いるんです! そこに!」


「・・・・・・どこに?」


 椎堂さんの目には本当に尾張さんの姿は写っていないようだった。


「いるんですよ! ここに! 見てください! ちゃんと、存在してる! 尾張さんはーーーーーーーーーー」


 ーーーーーーーーーーいるんです。


 そう続ける僕を見つめる、椎堂さんの表情は、次第に険しくなっていく。


「紀美丹君。あなた、ちゃんとカウンセリングは受けてる? あの事件の後、学校側でも対応してくれてるはずだけど」


 その言葉に、僕は唇を引き結ぶ。


 僕がおかしいのだろうか。いや、たしかに、実際におかしいのだろう。死んだ人が見えるだなんて。


 最初に彼女を見たときは、恐怖した。  

 彼女が僕との思い出を覚えていなかったことは悲しかった。

 だけど、彼女と話すのはそれでも楽しかった。

 

 それらすべて、ただの妄想だったとでもいうのだろうか。


 僕は、確かなものを求めて手を伸ばす。その手は、俯く少女の背中に触れる。


「ひゃっ!」


 可愛らしい悲鳴が聞こえた。

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