第13話 幕間:初デート前半

 気怠げな放課後。夕暮れに照らされる旧文芸部室。少女がボソッと零した。


「明日、付き合ってくれない?」


「喜んで!」


 一も二もなく飛びつくように返事をする僕に、


「なにか、勘違いしてない? ちょっと買いたいものがあるから、付き合ってほしいだけよ?」


 さらりと身をかわすように窘める少女。


「喜んで・・・・・・」


 まあ、知ってたけどね。


 翌日、学校とは違う彼女の私服に想像を膨らませつつ、期待に胸を躍らせる。  

 駅前の時計塔の下で待っていると、彼女が、待ち合わせ時間ちょうどに来た。


「あら、存外、時間に正確なのね」


 そんな、何気ない言葉が気にならない程度には、僕はその現実に衝撃を受けていた。


「・・・・・・尾張さんもね」


 やっとの事で搾り出した台詞は、つまらないおうむ返しで、しかし、それもいたしかたないと思う。

 彼女は、何故か上下ともいつも通りの学校指定の制服であった。


「あの・・・・・・」


「なにかしら? なにか文句でも?」


 少女は、肩にかかる長い髪を手で払う。その仕草は自然と周囲の人々の視線を集める。


「いや、制服・・・・・・」


 落胆を隠しきれない僕に対して、


「世界で一番美しい顔と肉体を持つものにとって、最もその美を輝かせる服装は何だと思う?」


「少なくとも、尾張さんが今着てるものではない事は確かだと思います」


 返答を聞いてか、聞かずか、わからぬうちにすぐさま帰ってきた答は、


「全裸よ」


「それは、服装じゃない」


 つい言葉遣いが荒くなってしまった。


「最も、美しいものを隠してしまう服なんてものは、結局邪魔なだけなのよ」


 やれやれと肩をすくめる少女。


「だからって、その服装はどうなんですか?」


 ジト目で少女の顔を見つめる。


「服なんて、どれも同じよ。だったら、着心地が良いものを選ぶのが当たり前じゃない」


「いや、まあ、そうかもしれませんけど、もう少し、お洒落に気をつけても良いんじゃ?」 


 呆れながら呟く僕に、


「それは、ここで、全裸になれという事かしら? とんだ変態ね」


 肩をかき抱き、数メートル離れる少女。


「言ってないですよね⁉︎」


 周囲の視線が先ほどとはまた違った意味合いを持ち始めている気がする。


「そんなことより、行くわよ」


 そういうと彼女は、制服のまま、すたすたと先をいってしまうのだった。


 まあ、良いけどね。別に、期待なんかしてなかったし。


「それで、今日はなにを買いに来たんですか?」


 二人連れだって歩きつつ、質問する。


 その質問には答えず、少女は語り出す。


「知ってる? 来月、百年に一度っていわれてる流星群がくるのよ?」


 流星群?


「ハレー彗星しかり、流星と世界の終わりは切っても切り離せないわよね」


 少女は、一人うんうんと頷く。


「はあ、それでなにを買いに来たんですか?」


 二度目の質問にこちらを振り向きながら、


「テントよ」


 と答える。


「テント? 望遠鏡とかではなくて?」


「望遠鏡で流星群みてどうするのよ。どうせなら、流星群に近い場所で終わりを迎えたいじゃない?」


 呆れたようにこちらを見るも、すぐさま、見えない星を眺めるように空を見上げる。

 どうやら、流星群がきたら、世界が終わるということになっているらしい。


「まあ、世界は終わらないですけど、流星群は見てみたいですね」


 少女は、前半を聞き流して、


「だから、山に行くのよ」


 笑顔で振り返る。

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