第11話 話がある

 翌日の始業前。少し早めに学校に着いた僕は、隣のクラスの椎堂しどうさんを訪ねた。


 その辺を歩いていた、話しかけやすそうな男子に、椎堂さんを呼んでもらう。


 机に座り、教科書を読んでいた彼女は、僕を一瞥する。


「なにかよう?」


 腕を組んでそう質問する明るい髪色の少女は、迷惑そうな表情をしてはいたものの、とりあえず話を聞いてはくれた。


「ちょっと、話したいことがあるので、放課後に旧文芸部の教室に来てくれませんか?」


「話したいことって? ・・・・・・ここじゃダメなの?」


 渋る椎堂さんに、告げる。


「尾張さんの事なんです」


 それを聞いた椎堂さんは、一瞬動揺を見せたものの、それを抑えるように唇を噛むと、


「わかったわ」


 とだけ言って、自らの席に戻っていった。


 いつもより長く感じた授業が、ようやく終わり、荷物をひったくるように持つと、早足で旧文芸部室へ向かう。


 既に部室で待っていた尾張さんは、緊張しているのか、いつもより落ち着きがない。


「ねぇ」


「はい?」


 そんな緊張を解そうとしてか、どうでもいい質問を僕に振ってくる。


「理想の告白台詞ってどんなの?」


「なんですかいきなり」


 質問の内容に困惑しながら聞き返す。


「あなたも将来するでしょう。告白」


「しないかもしれませんよ」


 なにやら、恥ずかしい台詞を言わされる流れになりそうなので、どうにか軌道修正を図ろうとする。


「一生童貞なのね」


 僕のガラスのハートにナイフを突き立ててくる尾張さん。


「僕が童貞かどうかはともかく、理想の告白台詞なんて、考えたこともないですよ」


 精神的ダメージをくらった僕のテンションが急降下する。


「つまらない男ね」


「今の発言は傷つきましたよ」


 突き立てられた言葉のナイフが捻られ、僕の心が砕け散った。


 やれやれといったポーズで見下ろす尾張さん。


「わかりました。じゃあ今から考えるのでさっきの発言訂正してください」


「面白かったならいいわよ」


 少し考えて、尾張さんの瞳を見つめる。


「僕は、生まれた時からキミニコイをしていました」


「それは嘘ね」


 否定が早い。


「嘘じゃないです」


 嘘ではなく脚色である。


「告白台詞が駄洒落ってどうなのかしら」


「駄洒落とか言わないでください。ウィットに富んだジョークじゃないですか」


 カッコよくない日本語でも、英語で言い直すとなんかカッコよく聞こえるから不思議だ。


「まあ、ちょっとだけ面白かったから、さっきの台詞は訂正するわ」


 尾張さんは肩にかかった髪を払い、


「あなた、ちょっとだけつまらない男ね」


 とのたまう。


「なんで、ちょっとしかランクが上がらないんですか」


「ちょっとだったからよ」


 全く納得がいかない。


「じゃあ、尾張さんの告白台詞はどんなのなんですか?」


「いい女は告白しないのよ」


 フフンっと鼻を鳴らす尾張さん。


「尾張さんはいい女ではないと思います」


「傷付いたわ」


 一瞬で悲しげな表情になる。


「ごめんなさい。嘘です。とても魅力的だと思います」


 意趣返しのつもりで言ったが、そんな表情をされてはすぐに引かざるを得ない。


「あら、そう。照れるわね」


 尾張さんは、すぐにしらっとしたいつもの表情で、


「褒めてくれたお礼に、特別に私の告白台詞教えてあげるわ」


 と言った。


「マジですか? 尾張さんのことだから、終わりと絡めたりしそうですよね。

今日で世界は終わり。恋に落ちた貴方と迎えるならそれでも構わない。みたいな、どこぞの映画のキャッチコピーみたいなのだったりして」


 ワクワクしながら待っていると、尾張さんはニッコリと笑い、僕の耳元に口を近づけて、


「好きです」


 と言った。


 全身が一瞬で赤くなるのを感じた。何も言えないでいる僕に、


「シンプルイズベストよ」


 と、勝ち誇ったように言うのだった。


「ほっぺゆでダコみたいね」


 そう言い、ほっぺを突いてくる尾張さん。


「やめてください。僕のライフはもうゼロです」


 ニヤニヤしながら手を引っ込める。


「なにしてるの?」


 ノックの音はきこえなかった。


 いつのまにか、ドアの前に立っていた椎堂さんは、顔を真っ赤にしている僕を若干引きながら見ていた。


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