第10話 幕間:金目鯛

 夕日が差し込む放課後の旧文芸部室で、少年と少女がいつものように会話を始める。


「金目鯛が赤いのは天敵から隠れやすくなるかららしいですよ?」


 少年が、なにやらスマホを操作しながら、生きていく上では必要のない雑学を披露する。


「どういうこと?」


 少女は、文庫本のページをめくりながら、何の気なしに相槌を打つ。


「赤色は深海だと光が届かないから黒く見えるらしいです」


 少女は、キリのいいところまで読み終えたのか、文庫本にネコの柄の栞を挟むと、


「それはどうかしら?」


 と、少年の説明に意を唱える。

 

「金目鯛の稚魚はもとから赤かったのかしら?」


「どういうことですか?」


 少年の疑問符を浮かべた顔を見ると、少女は、薄い胸を張り語りだす。


「フラミンゴっていう鳥は知ってる?」


「それくらい知ってますよ。ピンクの片足立ちで立ってる鳥ですよね」


 少年の相槌に少女は頷きながら続ける。


「彼らがピンクなのって、なんでだと思う?」


「なんでって、生まれつきピンクになるように遺伝で決まってるからじゃないんですか?」


 少年の言葉に首を横に振ることで答える少女。


「いいえ。フラミンゴは餌である蟹の色素を取り込むことでピンクに染まっていくのよ」


「えぇ・・・・・・嘘でしょ?」


 少年は、スマホを操作しフラミンゴについて調べだす。

 少女はそれを見つつ、続ける。


「海老で鯛を釣るっていう諺があるけれど、鯛は、海老を食べるらしいわね」


「はぁ」


 少年はフラミンゴについて知った事実に愕然としながら、少女の話を聞き流す。


「そして、海老の殻には赤い色素が含まれている」


 少女は推理を披露する探偵よろしく、説明を続ける。


「つまり?」


「鯛は海老を食べるから赤いのよ! だから、正確には海老が赤いのが天敵から隠れやすくなるためであり、それを食べる鯛がその効果を引き継いでいるって言うべきね」


 少女は一息でそう言うと、フフンとその小さな鼻を鳴らす。


「なるほどなー」


 それに対する少年の反応は、いささか芳しくないようで、反応が棒読みになっていた。


「なんだか、馬鹿にされている気がするわ」


 少女は、不満そうな顔で少年の横顔を見る。


「そんなことないよー」


 そんな、白々しい台詞を吐きながら、少年の顔は、先程からスマホから上がっていない。


 夕陽が、そんな二人に影を落としていた。

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