第9話 見たんですか?

 尾張さんの相談内容を聞き終えると、事前の約束通りスマホは返却された。


「ところで、尾張さん。これだけは聞いておかなければいけないことがあります」


 尾張さんの相談に取りかかる前に、僕にはどうしても確認しておかなければならないことがあった。


「何かしら。紀美丹君?」


 尾張さんは、僕の危機迫った表情もどこ吹く風のようで、スマホを弄っている。


「スマホの中身、見たんですか?」


 思春期の一部の男子高校生にとってスマホの中身を見られることはある意味で死刑宣告を意味していた。

 さらに、それが同級生の女子であるなら尚更だった。


「どっちだと思う?」


 そう言う尾張さんをしかめっ面で睨んでいると、根負けしたのか、


「カマをかけただけよ」


 と、釈明し始めた。


「それにしても、なんで、連続ログイン記録更新することとか、スマホのパスワードのこととか分かったんですか?」


 どうやら、死刑を免れたことにホッと胸を撫で下ろしながら、見られていないからこそ浮かび上がる疑問について質問する。


「簡単な推測よ。あなたみたいなゲーム廃人の割に、基本的なところで危機意識が足りてない単純思考な人間の考えそうな事は大体わかるわ」


「ゲーム廃人じゃないです。あと、誰が単純思考ですか!」


 別にいいじゃないですか。誕生日。パスワード覚えるのめんどうなんですよ。


「というか、そこまで他人の思考をトレース出来るなら、相手の感情だってわかるんじゃないですか?」


 僕の素直な疑問に、尾張さんは微妙な表情で、


「リーマン予想が解けるパソコンでも、人の感情は理解できないのよ」


 と、本当に嫌そうに言うのだった。


「尾張さんってやっぱり、アンドロイドなんじゃないですか?」


「そう言われると思ったから、言うの嫌だったのよ」


「なんかすいません」


 その後、不機嫌になった尾張さんにちょくちょく嫌味を言われつつ、椎堂さんへの対応について、話を進めた。

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