第八話 終末むそう
また戦闘が始まった。
コージは国防軍のアサルトライフルを撃ちながら、三人に続き走った。
崩壊した街並みが流れていく。焼けた街路樹、火花散る電線、動かない車、転がる死体。それが延々と続く風景のどこからか、走る
「どこに向かうんですか!?」
「隠れ家に行く前に、まずはこいつらをまく!」
那智さんが叫びながら、
伝説のゲーム、洛陽2033でも見慣れた終末の景色は、しかし見るのと実際に体験するのとでは、勝手が違った。
瓦礫の山と化した街は、まるで迷路だった。大通りも路地裏も、道路は所々寸断されており、思わぬ所で行手を遮る。ゲームのようにマップが表示されるわけもなく、道路標識もどこを指し示しているのか、全く当てにならない。そもそもどこに向かっているのかもわからないのだが、今はとにかく、三人に追従するしかなかった。
時折、金属バットを持つスーさんが、コージの手を引いてくれた。銃声と唸り声が鳴り響く逃避行の中で、逸れずに済んだのは、彼女のおかげだった。
しかし、断続的な疲労と緊張からか、コージの足はもつれていた。撃ち損じも目に見えて増え、服はうっすらと返り血に染まっている。
他の三人も同様で、先頭を走る那智さんのクリアリングも疎かになり、出会い頭の戦闘が多発していた。オミナさんの銃弾は相変わらず当たってなさそうに見えるし、スーさんはほとんど息が切れている。
しかし、そこは行き止まりだった。
一瞬の絶望感ののち、背後に迫る圧から逃げるように、崩落した看板の背後に隠れる。路地の入口はすでに
ここで迎え撃つしかない──銃火に恐怖をかき消し、それぞれの弾幕が、路地裏に夥しい屍体の山を築いていく。
その間に、コージはスーさんと、ビル通用口のドアを開けようと試みる。だがドアノブを捻っても、ドアは開かない。鍵はかかってないように見えるが、押しても引いてもピクリともしない。
痺れを切らした那智さんが、ドアを蹴破ろうとする。しかし、それでもドアは開かない。
その一瞬だった。弱まった弾幕の隙を突いて、肉の波が怒涛の如く押し寄せてきた。
コージは咄嗟に銃を構え、目の前を覆う肉の波に弾を放った──肉の波は、血を撒き散らし爆ぜた。
耳を劈くような爆発音が路地裏にこだまし、爆風が血飛沫を巻き上げる。
血と肉片、臓物が、頭上から降ってくる。那智さんの迷彩服は真っ赤な迷彩と化し、オミナさんはミミズのような内臓のカツラを被り、スーさんの体には歯やら眼球やらが無数に付着する。コージの顔も血塗れで、血糊が口の中にまで染み込んできている。
その間も、降り注ぐ銃声と爆音が、肉の群れを鏖殺する。ゴリ押し同然の圧倒的な火力の前に、肉の波はあっという間に消え去った。
白昼夢のような、無双の殺戮が終わる。
そして、血霧と硝煙の中から、筋骨隆々の中年男性が現れる。本来は車載で運用する
「皆さん、怪我はありませんか?」
筋骨隆々の中年男性の声色は、その外見とは裏腹に穏やかだった。
「わざわざ隣町から来たのか……? とにかく助かったよ……、ありがとう」
那智さんは筋肉男の手を取りながら、礼を言う。
「ところで、今回殺した
そう言って、笑顔で屍体の山を物色する筋肉男の意図が、そのときのコージにはよくわからなかった。
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