第六話 エンジョイ! 終末サバイバル!

 その銃声は恐怖を忘れさせ、火薬の熱は秘めた残虐性を狂喜させた。


 コージが放った初弾は、狙い澄ましたかのように肉塊ゾンビの頭部を撃ち抜いた。

 撃ち抜かれた《ゾンビ》は、白い脳漿の混じった肉と血を飛び散らせ、もんどり打ってコンクリートの上に転がる。那智さんとオミナさんの銃撃の隅で、汚い赤花が一輪咲く。

 コージは勢いのまま、旧式アサルトライフルのトリガーを引きまくった。

 面白いように、弾丸が肉塊ゾンビに吸い込まれていく。すぐに三十発の弾倉マガジンは空になったが、那智さんの軽機関銃ライトマシンガンが弾幕を張って敵を足止めしてくれるおかげで、弾倉交換マガジンチェンジも余裕を持って行えた。

 廃墟の街を背に、銃弾と肉塊ゾンビが交錯する。

 全てを破壊する勢いで、三人は撃ち続けた。弾幕は雨となり、腐り落ちる人体を切り裂き、そして夥しい血の雨が、降り続く灰とともに舞い散った。


 やがて、血の雨が降り終わると同時に、肉塊ゾンビの波は収まった。


 病院の屋上、コンテナの周りには、無数の肉塊ゾンビが文字通り肉の塊となって散らばっている。

 放心状態のスーさんと、疲労で座り込むオミナさんをよそに、那智さんが未だ息のある肉塊ゾンビに止めを刺していく。レッグホルスターから抜いた9mm拳銃が、冷酷な表情で肉塊ゾンビたちを処刑する。


 ふと、コージは足下に倒れている肉塊ゾンビに目をやった。

 ボロボロの入院着を赤く染め、仰向けに倒れているそれは、どこかで見覚えのある顔をしていた。

 覗き込み、コージは思い出した──それはクラスで学級委員長を務めていた同級生だった。


 学級委員長の武内はいけ好かない奴だった。勉強もでき、サッカー部でもエースだったが、少なくとも人格面は最悪だった。自分より下と見た人間を馬鹿にしては、自分が偉いと錯覚してる俗物だった──だから、哀れな肉塊ゾンビとなって死んでも、何も思わなかった。


 次に見つけたのは、女子バレー部の大石だった。こいつはやたら正論ばかり振りかざすわりに、裏ではグチグチ他人を貶める馬鹿女だった──だから、臓物を撒き散らすその様はとても清々しかった。


 同じように、血溜まりには入院着のクラスメイトがたくさん転がっていた。その中から、コージはやや大柄な屍体を見つけると、それを蹴り上げ、そして歓喜した。


 学校内でも有名な問題児の山下が、薄汚い面をして泡を吹いていた。こいつは本当にただのチンピラで、事あるごとにコージに突っかかってくる、疫病神のような糞だった──だから、こんな惨めな姿になってくれて、本当に嬉しかった。


 山下の屍体は、まだかすかに動いていた。脳天に数発銃弾を撃ち込むと、それはすぐに動かなくなった。

 血と硝煙の臭いは心地よく、コージは思わず笑っていた。


「凄い射撃の腕だな。助かったよ」

 屍体の群れを踏み越えやってきた那智さんは、コージを褒めてくれた。

「ほら、君の分の荷物だ」

 那智さんがナップザックを投げて寄越す。ずっと厳しかった表情は、今は驚くほど柔和である。

「そういえば、どこか行く当てはあるのか?」

「いえ、まだ何が何だかよくわかってなくて……」

「なら、しばらく私たちと同行しないか? 君みたいに戦える人間は多くはない。力を貸してくれると助かるんだ」

 その言葉に、コージは笑顔で「お願いします」と回答した。

「改めて、私は那智友恵だ。よろしくなコージ君」

 差し出されたその手は、赤く、力強く、そして温かかった。


 つい先ほど、ここが異世界で、よくある転生物だったら、どれだけよかっただろうかと考えていたが、別に異世界転生じゃなくてもよかった。

 クソみたいな中学校生活が終わってくれただけでも、嬉しかった。クソみたいなクラスメイトが死んでくれて、嬉しかった。夢も希望もない日本社会と、退屈な日常が終わってくれて、嬉しかった。何よりも、初めて人から求められたことが、嬉しかった。


 コージは改めて三人の女性たちを見た。

 よく見れば、三人とも魅力的だった。

 那智さんは背が高くて、モデル体型だった。迷彩服姿も全く野暮ったくなく、強さと美しさを兼ね備えていた。

 アジダス社のジャージのオミナさんは、那智さんとは対照的に野暮ったいが、人見知りしつつも気さくな感じで親しみ易かった。

 台湾人のスーさんは、言葉は通じなくとも親切だし、身長155cmのコージよりも小柄で、小動物のような可愛さがあった。


 コージは三人の女性たちを見て、またほくそ笑んだ──これからこの三人と、廃墟と化した街でサバイバルしていくのだとしたら、終末世界って最高じゃないか。

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