第5話 畏怖

ここまでの話を聞いて、大川敬吾は受け止め切れずにいた。

この子にとっての普通と自分が経験してきた普通があまりにも違うからだ。

価値観の違いとかそんな事じゃない。

もっと根本的な人としてのラインが違うのだ。

目の前にいる彼女は童顔で年よりも幼く見えるはずなのに、話すその姿は20歳の女性とは思えないほど落ち着き達観してみえた。


まるで何事も無かったように、さも当たり前に話すその姿はもはや畏怖さえおぼえる。



なぜなのか。

彼女の世界を誰も見向きもしなかったと言うことか?

いや・・・そんな筈はない。と、言い切れない。

そうだ。いくら綺麗事を並べても現実として無関心と言う名の防衛本能は顕著で暴力的でそして悲しいまでに排他的だ。

彼女はそれを16歳の時に、いやもっと前に気がついた。

だから実行した。

手に入れるために。

彼女の考えは歪んでいるのだろうかソレさえも話をしているうちにわからなくなる。

思わず直接的な言葉が口をついて出そうになる自分に驚く。

・・・まさか引き込まれているのか?

そんなはずは無いと首を横に振る仕草さえ、この女性の目を気にしてしまう自分に気が付いた。

直感が言っている。

この女は危ない、と。


人間と言うものは経験の無い事が怖い。

自分とあまりにも違う事があると嫌悪感示す。

御多分に洩れず俺もそう言う類いの人間だ。

だからもう話を聞くのも対峙するのも嫌だと言うのが正直な感想だが、そうも言っていられない。

メモを取りながら先を促した。

何を思い、何をもって生きてきたのか。



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