第4話 心

ドアを開けて部屋を出ると、さっきまでの据えた空気とは違う自由な匂いのする空気だった。

肺一杯目一杯吸い込んだ空気を吐き出すのが勿体無かった。吐き出せば元に戻ってしまうんじゃないかと怖かったからだ。


心が叫びたがったがグッと堪えて歩き出す。一歩また一歩と歩くだけで心が踊る。

何をしよう。

何を食べよう。

どこへ行こう。

全て自分の心が決めるのだ。

そんな経験は1度も無いけど、本で読んだことがある。

自分で決めて歩んでもいい世界があるだなんて当時の私には信じられなかったが今ならわかる。

それがきっとなのだ。16歳にしてそれを手に入れたんだと思うと、やっぱりもう心が叫ばずにはいられなかった。



やった!!

やってやったんだ!!

私は手に入れた!!

最高の方法で手に入れたんだ!!

私は自由だ。

セックスの相手も自分で選べばいい。

お腹がすいたら食べればいい。

息を殺して丸くなって眠る必要も無い。

排泄だって、服だって、髪も化粧もなんだって自分で決められるんだ。


このどうしようもない高揚感は、部屋に置いてきたアレを思い出しても止むことは無かった。


カワイソウナお母さん。

カワイソウナお父さん。

まさか私が自分から動くなんて思わなかったのでしょう。


私の名前も呼んだ事の無いあなたたち。

私も父・母と呼んだ事もないけれど。


どうして私を生んだのかと恨むこともあったけど、喉から声にならない声を出して空虚を見つめて転がるあなた達の顔を見て私は許す努力をしてみます。


オカアサン?

あなたの言いつけ通り、私が毎日研いでいた包丁の切れ味は流石でしょう?

オトウサン?

大好きなオカアサンが使っていた包丁が身体に入ってくるなんて、なんてロマンチックなのかしら!!


フウフアイの強いあなたたちに似合うようにと必死に考えたのよ。

感想を聴く前になんだか喋れなくなっちゃったのは残念だけどきっと絶望と恐怖と怒気の塊だったでしょうね。

私の心が少しでも伝わったのかと思うと、嬉しさが込み上げてスキップしたい気分になったのよ。


あなたたちが私にくれた世界をほんの少しでも見せてあげられて本当によかった。

何も知らずに召されてしまうなんて私がカワイソウだもの。

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