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20150621(日)22(月)
日曜日だし、下井くんのお仕事は休みなので、待っていても来ない連絡をこちらから入れようと、夜、スマホを手に取ると、メールの着信音が鳴った。設定をそのままにしてあるので裕泰くんからのものだとすぐにわかる。
『明日会えない?』
どう返そうかと迷う内容だったけれど、もう一度会って話をしないといけないとは思っていたので、明日のアルバイト終わりに会う約束をした。
翌日のアルバイトは閉店まで有陽ちゃんと同じの心強いシフトだった。この後、裕泰くんと会って話をすると、会話の中で伝えた。
「下井くんとはまだ連絡取ってないの?」
未だ向こうから何の音沙汰の無い事と、わたしからも何も行動を起こしていないと答える。
仕事終わりには車で迎えに来てくれた裕泰くんがお店の前で待っていて、有陽ちゃんとは軽く挨拶を交わすだけで、わたし達は自転車のロックを外す有陽ちゃんよりも先にその場を離れる。
「あの……金曜日はありがとう。無理言ってごめんね」
「間に合って良かったよ」
会話はそれだけで、どこにもお店には入らず、わたしの家の方まで行った緑道沿いに車を寄せて止まり、そこで話をする。
「……どうすれば良い? どうしたら別れずにいようって思ってくれる?」
サイドブレーキを引いて間もなく、普段よりもか細い声が聞こえてきた。言った後、こちらに向けた表情には切実さが強く滲み出ている感じがした。
「裕泰くん……」
嫌いになったわけじゃない……
だから、本当に、
裕泰くんのこんな顔を見るのが辛い……
「裕泰くんの事を考えたり一緒にいる時に、 “楽しい” っていう以外の気持ちが段々大きくなってきて……」
「……きっと今だけだよ、そんな風に考えるのは。その内、わたしの事なんて忘れるくらい素敵な人に出会うんじゃないかな……って……裕泰くんなら……」
「それにこれから、より一層勉強とか忙しくなるでしょ? タイミング的には……悪くない気がするんだけど……」
「……………………」
「もう気持ちは無いって事? ……俺には」
長い沈黙の後、シートにもたれてうつむき加減のまま、独り言のように問いかける。
わたしが身体ごと裕泰くんの方に向けても、裕泰くんはこちらを見てくれない。ベストな回答をすぐには導き出せずにいたわたしには、それが丁度良かったのかも知れない。
中途半端が一番いけない……
前からこれだけはずっと頭にあって、曖昧な返事はお互いにとって毒なだけだと、前向きで傷つけない答え方を思案する。……一方で、誰かにお別れを切り出す時に、相手を傷つけずに済まそうなんていうのは、虫が良すぎるのかなとも思えたりする。切り出す側も受け入れる側も、普通の恋愛であれば傷心や心労と無縁なのは有り得ないのではないかと、経験が無いながらも思考を巡らせる。
「裕泰くんとの事は…………、想い出にしたいと思ってる」
途中でぎゅっと目をつむり、裕泰くんの方は向かずに返事をした。
「今までありがとう」
最後にこれだけはしっかりと、横顔ではあったけれど、顔を見て伝え、車から降りて歩き出した。
歩く道々、涙がどっと溢れ出す。
今までありがとう…… ‘裕泰くんと過ご
せた時間は本当に楽しかった
最後の言葉にはわたしなりの続きがあった。それを口に出すと、わたしの避けたい曖昧な部分が出てしまう気がして、裕泰くんにとって、そしてわたしにとっても省かないといけない一文だと信じ、ぐっと飲み込み、我慢をして心の中に納めた。
「加世子」
もうすぐ家に着こうかという頃に角を曲がってすぐ、背後からサモサ中のパパに声を掛けられる。
「どこかに寄ってたのか?」
あからさまに駅とは逆の方から歩いて来ていたので、自然な流れで、変な疑いを抱いているような感じでもなく、ごく普通に聞いてこられた。
「あ、そうなの。あっちのスーパーでしか扱ってないお菓子を買おうと思って」
「夜道はあまり遠回りするなよ」
暗がりなので、目が赤くなっているに違いないわたしの様子には気付いていない事に一安心して、すぐそこの家まで一緒に歩き、庭に入るとサモサを引き受けて、落ち着くまでしばし過ごす。
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