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授業を終え、アルバイト先へ。


今日は有陽ちゃんが先に入っている。


出会いはこの春。同い年で偶然同じ所の面接を受け、入学する大学も同じ。学部は違うので、会っておしゃべりが出来るとすればここになる。


「お昼、もう少し喋りたかったよぉ」


「そうだね、人の波に流されちゃった感じ……」


スクープトレイをきれいにしながら有陽が答える。


めっきり涼しくなって、店内にあの夏場のような賑やかさは無い。


「wrap-up party、長引いたよ。有陽ちゃん、早めに出て正解だった」


そしてその後さらに裕泰くんと小さなお疲れ会をしてから帰ったことも伝えた。


「相変わらず仲良いねー」

「遅くなって、おうちの人大丈夫だった?」


「裕泰くんから連絡が入れば、うちは何でもOKなのよ。ちゃんと送り届けてもらえるし」


      



裕泰くんとの付き合いは、わたしが高1の時からだから、かれこれ3年になる。


親同士仲が良く、それは互いの母親が同級生であったのがきっかけなのだけれど、今となっては父親のほうが裕泰くんのことをやけに気に入っていて、時にまるで自分の息子のように肩入れしてしまっている節がある。信頼しきっているので、 ‘’門限22時‘’ に厳しいパパが、裕泰くんから連絡があれば、極端な話、帰宅が朝方になろうとも何も言わない。






裕泰くんが中学生になる頃、御一家は都内に引っ越して来られた。当時小学生だったわたしからすると2才年上というのは、かなり大人な感覚だった。初めて会ったのは、新築の御祝いの席になる。



「お招きいただき、ありがとうございます」


完成の無事を慶するような言葉と共に両親が丁寧に挨拶をしている。「こんにちは」とだけわたしも小さく続けた。


「加世子ちゃん、大きくなって」


おばさまとは母に同行して、ランチをしたりカフェに行ったりと何度か会ったことがあるので面識はあるのだけれど、おじさまとは1年くらい前、おばさまを車で迎えにいらした際に一瞬運転席から顔を出されたのを見た程度で、それ以前にお会いした時の記憶がない。



リビングに通されると10名程の人が視野に入ってきた。既に何かを飲みながら談笑している。ウッドデッキに面した大きな窓は開け放たれ、温かな陽射しが降り注ぐ。ソファーに腰かけたりカウンターにもたれ掛かったりしながら、比較的大きな声で大人たちが話込んでいる様子だった。


両親はウェルカムドリンクというものを手に取り、奥へと進んで行く。わたしはうつむき加減で後に続く。


リビングの隅には小高くなった畳部屋があり、そこも何やら賑やかだった。へりに腰掛けつつ半身になり、父が話かけている。


「裕泰くん、何やってるの?」


正座をしていたその ‘’裕泰くん‘’ は、こちらの方をじっと見て、母の顔も確認するやいなや、「おじさん!こんにちは!」とキラキラした目で元気に返事をし、手品を披露していることを伝えてきた。ついでにわたしの方にもチラッと目を向けた後、ニコッと微笑むと、すぐさま手品の続きを始めた。



そうこうしている間に、沢山の華やかな料理が並べられ、私も隅っこの方で美味しくいただきながら、母達が家中を案内されている間、時々初対面の大人たちに話しかけられたりして時間を過ごし、その日は裕泰くんと一言も会話を交わすことなく、おひらきとなった。


こういう席では、ママは一滴もお酒を飲まず、帰りの運転を担う。パパは、顔に出ないのでわからないけれど結構な量を飲んだのではないかと思う。


「加世子どう?疲れた?」


「ううん、楽しかったよ。素敵なおうちだったね」


「途中でバイオリンの話題になって、もし持って行ってたら弾かされてるところだった。無くてよかったわ」


ママの横でそれを聞いているパパは、窓の外に目を向けながら静かに笑っている。






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