第5話*魔界に来ちゃったよ

書類とにらめっこをしているソノが眉間にシワを寄せてため息をつく。

何がそんなに不服というのか。彼女は集中しているときは一言も話さない。話しかけたら怒られる。


「魔王様」

「ん!?な、なんだ?」

「何故そのように驚かれるのですか」


さっきまで黙りこくってた奴にいきなり話しかけられたら誰だってビックリするだろ!

話の先を促すと一つ咳払いをして続ける。

動作一つとっても訓練されていることがわかる。


「魔王様、一度人間の街へ行ってみませんか?」

「…い、行けるのか?」

「はい。ですが遊びに行くのではないのですよ」


人間の街へ行くことより人間に会えることが楽しみだ。


魔物がいるんだから冒険者もいるだろ…。

ギルドとかあったりして…?


うわ、すっごい楽しみなんだけど。


「でも俺が行ったら大騒ぎになんないか?」

「角や羽は隠し、魔力も抑えます」

「なるほどね」


今は魔力を放ちまくってるが、人里に降りるのにそれじゃあ魔王ってバレるかもしんねえからな。


「私は獣人なのでこのままでも大丈夫です。今回は魔王様が遠国の低級貴族、私がメイドという設定でいきます」

「わかった。じゃあ服装も整えたほうがいいよな」

「服は用意してありますが………魔王様、何を?」


着替えるのなんて面倒だからな、魔法創造で変装魔法造ったぜ。

ついでにソノもメイド服にしとこう。


「は、い…?」

「着替えるのめんどい」

「ま、魔法ですか!?」


俺、ソノにステータス見せたはずなんだけどなぁ。

いちいち驚かれちゃそれこそ面倒だよ。


「ステータス見せたろ?"魔法創造"ってやつ」

「…偽装ではなかったのですね」

「失礼だなおい」


魔力を引っ込め、部屋から出る。

慌ててソノもついてくるが、振り向くと何もない所で躓いていた。


…こいつ、大丈夫かよ。


「ソノ…?」

「なっ、なんですか…って、笑わないでくださいよ!」

「わ、笑ってねえよ……ブフッ」

「あぁっ、酷い!」


いざ、人間の街へ!


「と言いたいところですが、手続きが必要ですので魔界窓口へ行きましょう」

「手続き…?窓口…?」


というか、魔界…!?

すっげー楽しそう!てか厨ニっぽい!


ソノが言うには、街に入るには身分を証明するもの――冒険者カード、身分証など――が必要で、怪しい際には確認を取られるらしい。

万が一のことを考え、魔物が偽装して街に行けるようにするシステムが魔界にあるらしい。


「それって犯罪じゃね」

「魔界では正規の方法です。というかこれしか行く手段がないので…本来、街で生まれた人間ならその時点で身分証を作るのです」

「街には獣人もいるんだよな?そいつらは…」


行った途端、ソノからとてつもない圧を感じた。

俺のすきる"威圧"はレベルがMAXだから恐ろしいとは感じないが、彼女は相当怒っていた。


迂闊にはしてはいけない質問だったのかもしれないが、知っておかないといけないことだとも思った。

「…街にいる獣人は、皆奴隷として買われている者達です」


何…!?

街にもいると聞いたから獣人も住んでいるのが当たり前なのかと思っていたが、それも違ったようだ。


「良くて召使いです。酷いときは……ッ」

「いや、すまん。言いたくないこと言わせたな」

「…いえ。私も、取り乱してしまい、申し訳ございません」


ソノが謝ることはないのだ。 


獣人が奴隷として街にいるということは、圧倒的な差別…。そのせいで人間を恨み、襲う者も少なくないだろう。


今や俺も魔物たちのトップ。

見過ごせない問題だ。


「その件に関しても必ず改善しよう」

「何故…ですか、貴方様には関係のないことでしょう」


目を丸くして問うソノに、俺は続けて声を掛ける。


「関係ありありだよ。俺は魔王だからな!」

「いや、意味わかんないですよ…」


そう言いながらも笑うソノ。

その目には少しだけ涙が溜まっていた。


――

魔界につくと、魔力を抑えていたためか、いろいろな魔物に絡まれた。

まあ新人イビリみたいなもんだな、俺もよくやられたよ。


「申し訳ございません、魔王様…!」

「いや、いい。俺としてもいろんな魔物に接することができて一石二鳥だしな!」

「…二鳥の要素ないですけどね」


そのせいかソノはかなり疲れていた。

俺は大丈夫なのにソノが一回ごとに「この方は魔王様ですよ!」って説明するんだよ…。

あれは面白かったな。笑ったら怒られるけど。


「というか新人に絡むように教育した覚えはないのですが…」


おっとこれは再教育ですね。彼女の顔が物語ってますよ。


言うなれば実の子供が万引して悲しむでもなくキレる寸前のお母さんだよ。


「ここが魔界窓口です。すいません、マヤさん」


大きな建物に入り、受付のようなところでソノが中の人に話しかける。

マヤと呼ばれたやつは顔は見えないが綺麗で透き通った声が聞こえる。どうやら女性みたいだ。


「あら、ソノ様ですか。どうなさいました?……そちらの方は…魔王様ですね」

「お、わかるのか?」

「私の"目"は特別なんです」


顔見えてねえけどな。

そういうスキルでも持ってんのか…?


「……あれっ」

「魔王様どうかしました?」

「いや…」


鑑定使ったんだけど見えねえな…。


「魔王様、私に鑑定は使えませんわ」

「…よくわかったな」

「見えてますから。私鑑定妨害しているので…いくら魔王様でも見れませんわ」


…この女、なかなかやりそうだな。

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元社畜魔王様は異世界で平和に暮らせない コッペパンになりたい揚げパン @Nisiki-Nakazawa

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