第29話
一緒ではなかったのだ。私は昔と変わらず一人ぼっちだった。
ラーメン鉢の中では刻みネギが退屈そうに漂っている。私は箸を握り締めたまま動けないでいた。もう彼の方を見ることはできない。
ごちそうさん!、という弾んだ彼の声が聞こえて戸を開ける音がした。
彼は生きている。明日も明後日もパートナーと共に生きていくのだ。私の明日はどうなるのだろう。握り締めた箸の先が揺れている。
彼から少し遅れて、私も店を出た。ぼんやりしたまま会計を済ませ、軒先に突っ立っている。
さて、と力の入り切らない足を踏ん張りながら考えた。ここを右に行けば自宅。左に行けば大きな川がある。どちらへ行こうかと、普段考えないことを全力で考えてみた。
今日は左に行ってみよう。どちらに曲がっても帰路などないも同然なら好きな方へ行けばいい。
どこへ辿り着こうと今はただ、こんな私を受け止めてくれる大きな何かに包まれたかった。
帰路はなくとも 千秋静 @chiaki-s
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