第27話

 夢中でラーメンを食べている彼の方を見ながら次の水曜日も、その次の水曜日もまた会えるだろうかと考える。


 彼が何者だったか。私はそれを学校から送られてきた卒業アルバムを見て知った。大崎駿太郎というのが彼の名前だった。クラスが違ったから、仮に私が学校に通い続けていたとしても出会えたかどうかわからない。そんな人と悲しい出来事がきっかけで出会えたことはやはり奇跡だと思った。卒業アルバムに名前だけしか載る事のなかった私といじめに立ち向かおうとしてくれた勇敢な彼との間には果てしない距離があったが、私は記憶の中で彼と共に生きていた。


 そして今は小さな店の中で同じ空気を吸っている。


 彼とここで再開したのは偶然だった。二十歳を過ぎたころから週に一度、書店や喫茶店に行ける程度には外出することができるようになっていた。数年前のある日、両親が外出して一人で夕飯を食べないといけない日があった。自分で用意するのは面倒だから近所のこの店で夕飯を取ることにしたのだ。その日に、今と同じように私はカウンター、彼はテーブルという位置で再会した。再会したという見方は私側からの勝手なもので、私など彼の視界には入っていないだろうし、入っていたとしても良くいる常連としか思われていなかっただろう。まさかあの日あの時の情けない化け物がそこにいるなんて思いもしないどころか、そんなことがあったことすら忘れている可能性の方が高い。

 

 忘れられていても別に良かった。いや、あんなに格好の悪い場面など忘れてくれている方が幸せなのかもしれないと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る