第26話

 変わってしまったのは私の人生だけではない。私が引き籠る生活を始めてから、何の関係もない両親の人生にまで悪影響を与えてしまった。まるで私の不運の大波が両親まで飲み込んでしまったかのように日に日に家族みんなが朗らかさを無くしていった。その証拠に私を見る両親の目は悲しげで、家の中は時間や季節は関係なく、日が差し込んでいてもどこか薄暗く生気が感じられなくなっていた。


 深海魚の方がずっとアクティブに海中で命を燃やして生きているのだと思うと、暗い中で生きていることすら申し訳ない気分になってくる。


 長い時間、部屋に籠りながら罪悪感と安心感の狭間で正気を保てていたのは、あの男子生徒のおかげだった。手を差し伸べてくれた彼のことが頭からずっと離れなかった。それは恋などとは違う、素晴らしい映画を観た後のような恍惚感だったり、絶対に手に入らない宝石を分厚いケースの外側から眺めて嘆息するような感覚に似ていた。


 一瞬で終わった出会いだったが、私が完全なる人間不信にならないで済む記憶を一つ授けてくれた大事な出会いでもあったのだ。

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