第24話

 それから私が学校へ行くことはなかった。街中で同級生と会うことを恐れたため、家から出ることすらしなくなった。


 中学生にして人生が詰んでしまったわけだが、私は驚くほど悲観しなかった。人生や学生という立場からドロップアウトして、傷付くことから解放されたことはとてもうれしかった。人生を犠牲にして手に入れた自由は重く、誰にも幸せを与えるものではなかったが、引きこもって一人で生きる暗闇の中は外の明るい世界よりも案外居心地が良かった。


 久々に学校へ行ったあの日、先に帰った母が予想よりもずっと早く帰ってきた私を見て驚いた。両頬を赤く腫れさせて、涙で顔をドロドロにした私が帰って来るなり玄関先で激しく嘔吐したからだ。


 私は教室で起こったことをすべて話して、最後に死にたいと伝えた。それは心の底から絞り出して訴えた命の声だった。この声を聞いて学校との話し合いや転校ではもうどうにもならない状況なのだということを知ってほしかった。


 私の言葉を聞いた母は絶句していた。母は私に何か言っていたように思うが、思い出せない。あの時の記憶は母の存在すら曖昧になっている。私は一人になりたかった。傷つけてくる者がいない、平和な私だけの世界に飛び込んでがっちり鍵をかけてしまいたかった。

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