第20話

 教室の電気は付いていて、中から生徒の声が聞こえた。


 なるべく音を立てないように静かに教室の前後にある戸の後ろ側からそっと入ると、想像以上に生徒が残っていた。教室の中にいた生徒たちが入ってきた私に気付くと、さっきまでざわざわしていた教室が一瞬にして静まり返った。


 生徒たちの顔を見てみると、クラスメイトの他に違うクラスの生徒たちもいて、その集団の中には千春もいた。いくつかの机を合わせて広くしたところで大きな紙を広げて作業をしている。文化祭が近いからその準備でもしていたのだろうか。私は数秒その場で立ち尽くしながら目だけで状況を判断した。


 「何しに来たんだよ、鬼瓦」


 私を見て千春が低い声で威嚇をする。その声を聞いて私は体が硬直して動けなくなってしまった。


 「見てんじゃねーよ、キモいんだよ!こっち来んな!!」


 予想外の展開に呼吸が荒くなる。

 

 教室には誰もいないと思っていたのに。


 酷いことなんて言われないと思っていたのに。


 私のことなんて忘れていると思ったのに。


 ここに来れば何かが変わると思っていたのに。



 全部間違いだった。全部全部、間違いだった。



 もう、これ以上どうすれば・・・どうすればいいの・・・。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る