第19話

 彼と出会ったのは打ちひしがれたあの日だった。最初で最後、彼を正面から見ることができたのはたったの一度きりだ。


 あの時、体と思考が繋がらないまま、ふらふらと職員室から教室へと向かった私は頭がショックと不安でまともに動かなかった。


 夕暮れ時の人気のない廊下はひんやりとしていて、まっすぐに続くタイルの道は情も温か味もない無機質そのものだった。私も人間など辞めてタイルや壁の一部になってしまいたいと思った。その方がきっと穏やかに過ごせる。死にたいという感情とは違う、この世から消えてしまいたいという消失願望が真っ白になった頭を支配しそうな勢いで私を煽った。


 私以外に壁に吸い込まれたいと思う人間などいるのだろうか。きっと多くはないだろう。自問自答をする度に孤独感は増す。おかしな思考を止めたいのに、こんな時ほど頭の回転は悪い意味で良くなる。教室に行くのが嫌でゆっくり廊下を進む道すがら、壁と一体化した自分が壁の中で心地よく同級生を見下ろしている画が鮮やかに浮かんだ。

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