第18話
夕飯時になったからか、気付けばさっきよりも店の中が賑わっている。
箸にラーメンの麺を挟んだままぼうっとしていた。思い出したくないことを急に思い出してしまうのは月のものが近付いてナーバスになる時期に陥っているからか、それともあの人の顔が見られる日だからか。
嫌なことほど頭から消えることはないし、頻繁に蘇る。今もそうだった。思い出したくもない時代のことが嫌になるほど鮮明に再生された。自分の頭の中のことなのに自分で制御できないなんておかしなものだ。
箸を置いて目尻に滲んだ涙を指で拭おうとしたその時、店の戸が開いた。私は手早く涙を拭うと、顔をほんの少し動かして横目で彼を捕らえる。彼はいつもの仕事用の鞄と百貨店の紙袋を持って店に入ってきた。今日は店に来る時間が少し遅いから、ここへ来る前に買い物でもしていたのだろう。
「ラーメンと餃子、あと生も!」
ざわついている店内でも彼の声ははっきり聴きとれた。いや聞き逃すまいと、彼のいる席から離れたカウンターで私は必死に耳に神経を集中させていたのだ。無表情で心だけを躍らせている私のラーメン鉢にはまだ少し麺と具が残っている。彼が店を出るまで食べきらずにいなければならない。あの人が食事を終えて、そこで私の食事も終わる。それが私だけの毎週水曜日の決まり事だった。
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