第17話

 ふらふらとした足取りで校舎に入ると、黴臭さと昇降口の近くにある保健室から漏れ出す消毒液の匂いが混ざりあった空気を吸って鳥肌が立った。


 この匂いを嗅いでどれだけ苦しい日々を生きていたことか。いつも下駄箱に入れられたゴミを取り除きながら出入りしていたこの昇降口は、一日の始まりと終わりに涙を搾り取られる場所だった。久しぶりに自分の下駄箱を見てみると下駄箱を塞ぐように紙が貼られている。その紙にはこう書かれていた。


 『悪霊退散』


 帰りは裏門から帰ろうと決めて、適当な場所で靴を脱ぎ、校舎の中に入って職員室へと向かった。そっと職員室の戸を開けて担任教師の元へ行き、来た旨を告げると、書類を探しながらそっけなく教室で待っているようにと言われた。


 この突き放すような教師の言い方に、やはり私は全てに期待しすぎていたのだということを実感した。明るい女子生徒たちには絶対にしない話し方や、さっき下駄箱で見た張り紙を見て、不登校になる前から今日まで、私がいた環境は何も変わっていないのだということを知った。大人が変わらないのに、未熟な子供たちが変わるわけがない。一瞬のことだったが、変わったのは私だけだった。


 ここではこれから何一つ私を取り巻く環境は変わらない。つまり私には家以外に生きられる居場所がなくなったということが確かになった。


 こんな状況で、学校から指示されたアンケートに答える必要などあるのかと思った。私の気持ちなど知りもしない教師から早く出て行けと言わんばかりに乱暴に渡されたアンケート用紙を受け取った私は、職員室から出たあと途方に暮れた。

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