第10話


 人が怖かった。動物しかいないような国へ行きたいと、夢みたいなことを本気で思うようになる程私の心は追い詰められていた。部屋から出てこない娘を心配した母は養護教諭に相談をしたらしい。そして家庭内で収められないのなら外に助けを求めることも必要であると、心療内科の受診を勧められたのだった。


 それをきっかけに通院を始めたが、私が置かれている環境に大きな変化が起こることもなく、自室に籠る生活が続いた。部屋の中で私は効いているのかいないのか、効いたところで自分の人生がどう変わるのか、服用する理由がわからない薬を処方されるがままに飲みながら床に座って虚空を見つめていた。


 学校に行くことができず、部屋に引き籠るようになってしまっても家族は私を強引に部屋から引きずり出そうとはしなかった。遠巻きに様子を伺いながら、いつか娘が立ち直る日が来るのではないかと待っていたのだと思う。しかし私は、そんな親の期待に添えることができないまま、生ける屍のように流れて行く時間を見送るような日々を過ごしていた。

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