第3話

 人の記憶というものはほとんどが不快な内容で占められていると思う。痛い苦しい悲しい虚しい寂しいなどの感情を伴った記憶ほど鮮やかで、刺青のように心の中に彫り込まれている。


 逆に良い内容の記憶は不快な記憶に追いやられて忘れがちになったり、無意識に想い出補正をして無理矢理美しいものとして作り変えながら必死に自分の中に残そうとする。そのせいか、実際に体験した綺麗で優しい想い出は時間が経つとより美しい記憶へと変わる。


 だが、そのような本能的な誤魔化しを認めたくないと思えるほど、尊い記憶というものは確かに存在している。


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