第2話 ブラックダイヤ
その児童養護施設は、刑務所みたいな場所だった。
「218番、表へ出ろ」
「待って、今着替えているから」
鉄格子をはめられたその部屋は、まだ12歳の少女にわずか1枚の布切れすら着ることを許さなかった。
長い銀色の髪に、透きとおる肌、弾力のある膨らみをあらわにさせながら、真っ黒な瞳で保護員を見つめ、少女は囚人服と呼ばれるその服に身を包んだ。
「点呼始め!」
「210、211、212、213・・・」
児童たちは番号をつけられ、番号で呼ばれる。
まるで囚人のような扱いだ。
こんなところが児童養護施設だなんて、聞いて呆れる。
「218番、今日は面談だ。」
「はい、今日はどんなお父様ですか?」
「そんなこと知ってどうする?さっさと着替えろ」
この看守、もとい保護員は1日に何度も着替えさせては私を舐め回すように見る。私だけが特別ではない。他の保護員も自分好みの少女を見つけては着替えを楽しんでいる。クソが。
「チェンチェン様、218番にございます」
面談室で待っていたチェンチェンと呼ばれたその男は、見るからに中国の大富豪と言った身なりだ。デブで薄汚い、クソが。
「218番。君の名前を教えてくれるかい?」
「私の名前はニーヤです。218番だから、ニーヤ」
「かわいい名前だね。自分でつけたのかい?」
「そうです。名前がある方がお父様に親しまれるかと思って、自分で考えました。」
「賢い子だねぇ、私は賢い子が大好きだ、今日は君にプレゼントを持ってきたんだ」
水色のレースがついた、綺麗なドレス。どのお父様も同じように、プレゼントは決まってドレス。その場で着替えさせて、品定めをするのにふさわしい商品ね。
「ありがとうございます、お父様」
「いやいや、まだお父様じゃないよ、ささ、早く着替えてくれるか」
こいつも同じだな。
弱者とわかって自分のおもちゃにする。
そんな奴の存在を、私は否定する。
ニーヤはチェンチェンに近づき、黒い瞳を大きく見開いて囁いた。
「お父様は、最高のクズですね」
その瞬間、ニーヤの瞳の奥に吸い込まれるかのように、チェンチェンは意識を失った。
「チェンチェン様!チェンチェン様!だめだ、救急車を呼べ!」
これで4人目か。どうやら間違いないな。私の瞳には何か不思議な力が宿っているらしい。4年間もここに閉じ込められ、大人たちのおもちゃにされた代償か。
だが、もう誰にも触らせない。
漆黒に輝いたニーヤの瞳はゆっくりと、光を失っていった。
そして、看守たちもニーヤの異変に気付き始めていた。
「四人目だぞ・・・」
児相屋アキラ ありす @happypapasan
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