第12話 襲撃ーもう1つの戦い1


「ん、やぁレイン。驚いた?すごいでしょ。」

エドワードはレインにニコニコと笑みを浮かべながら返した。


「いや、驚くどころじゃないわよ。それよりもあんた、なんでそんなに落ち着いてられるのよ?シスターマリア大怪我してるじゃない。大丈夫なの?」


レインは大慌てでシスターマリアに駆け寄った。

直ぐにシスターマリアの状態チェックし、生きていることを確認できたレインはホッと胸をなで下ろした。


「確認してると分かってると思うけど、治癒魔法を掛けてるから一命は取り留めてるよ。ただ、血が流れ過ぎてるからこれ以上の治療は僕にはできなかったんだ。

 だからダリウスに連絡してこっちに飛ばしてもらったんだ。こっちにはレインがいるだろうと思ってたからね。

 それで疲れているところ悪いけど、シスターマリアの治療してもらえないかな?」


「ええ、もちろんよ。」

レインはエドワードからシスターマリアを受け取り後方に下がっていく。


ガンッ

鈍い金属の擦れ合う音が響いた。

いつの間にか接近してきたアナハイムの剣をエドワードがメイスで受け止めていた。


「ほう、いい反応だ。

 今のをちゃんと防げるなら楽しめそうだ。」

アナハイムは実に楽しそうだ。


「手荒な歓迎をしてくれるじゃないか。

 不意打ちを仕掛けてくるのが魔人の流儀なのか?

 ああ、いや。レインとの会話が終わるまで待つだけの礼儀はあるのか。」

一方、手荒な洗礼を受けたエドワードは不機嫌そうにアナハイムを睨みつける。


「何を言う。ここは戦場のど真ん中。

 戦場に現れた瞬間から戦いは始まっている。

 召喚されたからと言って、それも分からぬような愚か者は即排除されても文句は言えまい。」


アナハイムの言い分はなかなかに辛口だが一理ある。

僕がこっちに転移してきたのは僕らの都合。

敵対者にとっては相手の都合等お構いなしだ。むしろ転移してきたばかりで状況が掴めていない今の状況を積極的に利用するのが正しい姿と言える。


まぁ、理解できるからと言って納得できるかとどうかは別問題だけど。


「はっ、素直に正々堂々と戦う自信が無いから、不意打ちをしましたと言ってくれた方がまだ可愛げがあるよ。」


エドワードはアナハイムを挑発する。

だが、アナハイムは意に介さない。


「ダリウスよ。面白い者を召喚してくれた。褒めて遣わす。」

アナハイムは強者が現れたことに喜びを感じていた。

こういうところがバトルジャンキーと呼ばれる所以である。


「おうよ、こいつが俺の切り札にして最強の男、エドワードだ。

 こいつは強いぜ。」


勝手にハードルをあげてくるダリウスの言葉にエドワードは頭を抱えた。


「ちょっと待った、魔人よ。状況を整理する時間をくれ。」

「ふむ、よかろう。」

アナハイムの許可を得てエドワードはダリウスに向き直る。


「ねえ、ダリウス。これどういう状況?」

ダリウスは丁寧に今までの経緯を説明。


説明を聞き終えたエドワードは盛大にため息をついた。


「つまり君と魔人アナハイムの闘いに僕は君の助っ人として呼ばれたって事?」


「その通り。いやー、あいつめっちゃ強くてさ。身体強化してもメイスの攻撃が全然通らないでやんの」


「いやいや、なんでメイス?武器なんてろくに訓練してないでしょ。魔法主体の攻撃は?」


「ちょっと思うことがあってあんま使わないようにしてる。

 だから俺の代わりに頑張ってくれ。

 それで、そっちはどういう状況だよ?

 シスターマリアが負傷してるしよ。」


「あー、色々あってね。」

エドワードは苦笑いする。


「でも概ね解決したから。

 やっぱりダリウスの睨んだ通り居たよ。第三者の襲撃者。

 相手は悪魔だったから、帰還かえってもらった。」


「ええーっ。悪魔ってあの悪魔よね。ちょっとどういうことよ、ダリウス。

 うちのエドをそんな危ないところに行かせるなんて。」


シスターマリアを治療中のレインはギロリとダリウスを睨んだ。


「待て待て、誤解だ。確かに魔人達こっちとは別に襲撃者がいる可能性を言い出したのは俺だが、どんな奴が居るかなんて知らんかったわ。

 後、避難チームにエドワードを行かせたのは、そっちにお前レインを含めた孤児院の面々がいるからだ。むしろお前レインがこっちに来たことがイレギュラーだったわ。」

ダリウスは呆れた表情を浮かべたままレインに反論した。


「それで?」

ダリウスはエドワードに視線を移した。


「えっ?」

急にこっちに振られたエドワードはキョトンとしていた。


「何があったか詳細を教えろって。シスターマリアの怪我のこともあるし」


「ああ、そういうことね。

 僕が避難チームに合流してからの事なんだけどさ…。」

そういってエドワードは語り始める。


 ***


時はエドワードがダリウスと別れて避難チームに合流した時まで遡る。


「大丈夫ですから慌てずに移動してください。」

僕、エドワードは今避難チームで避難する人たちの護衛をしている。


「ウィルさん、全員準備出来ました。」

「おう、じゃあ行くぞ。」


魔人達がいる東門と反対の西門から避難チームを率いて僕達は避難を開始した。

チームリーダーはウィル。村の特産品や手紙を街に届けたり、街から必要物資を購入したりと行商のような仕事をしている。上位に入るほど逃げ足の速さには定評がある中年のおっさん。

ウィルのスキル<収納>を持っており、一度に大量のモノを運搬できるため行商として重宝されている。


村から街へと出かけることが多いウィルさんは村の周囲の地形を熟知している。


「これから向かうのは魔獣の出現が極端に少ない道だ。

 かりに魔獣が出た場合でも安心しろ。エドワードが護衛の任についている。

 こいつが対処してくれるだろう。」

ウィルさんはそう言うと笑いながら僕の背中をパンと叩いた。


「ああ、ウィル。良かった。」

そう声を掛けてきたのはシスターマリア。


「シスターマリア。孤児院の皆はちゃんとついてきてますか?」

僕の質問にシスターマリアは少し間を取って答えた。


「…ええ、レイン以外は皆いますよ。」

「えっ?」

思わず声が漏れた。


「レインは撃退チームにいます。きっとあなたなら魔人と戦うだろうからって。

 私もあなたはてっきり撃退チームにいるものとばかり…。」


「僕も最初は撃退チームで魔人を倒すことばかり考えてたんだ。

 だけど、今回の襲撃は奴らだけじゃない可能性が出てきたんだ。」


「えっ?それってどういう―――「来たようです。」」


戸惑うシスターマリアの言葉を遮って僕は振り向いた。


振り向いた先には魔法陣が展開していた。

僕はこの魔法陣を知っている。


これは召喚魔法。任意の場所から魔獣などを呼び出す魔法。

この魔法は魔力量によって召喚対象が変わる。多くの魔力を注ぐ事でより強力な存在を召喚できる。


ゲーム「レインボーワールド」では何を隠そう主人公アッシュ自身が召喚魔法によって呼び出された存在なのだ。

なお、アッシュを召喚した時の召喚魔法は特殊なものだった。

なにせ、召喚時に過去の記憶は封印されこちらの世界の記憶を植え付けるという洗脳を施しての召喚だ。そしてアッシュ本人は洗脳されているという自覚が無い。


この設定はアッシュの勇者ルートの中で明らかにされるのだが、あまり本編では影響しない謎設定だと疑問に思ったものだ。


さて、話を戻す。

魔法陣から眩い光が放たれ、召喚されたモノがあらわになった。


浅黒い肌、頭にはくるりと巻いた2本のツノ。執事服に身を包んだ初老の男性は執事にしか見えない。

その男は赤い瞳で周辺を確認した。


「なるほど、私は呼び出されたようですな。契約内容は…、一人を除いてこの場にいる人間の殲滅ですか。全く、人間というのは愚かしいことですな。」

やれやれとため息をついたその男は悪魔だった。


「レインボーワールド」本編にも悪魔の存在はいた。

本編に登場した悪魔ベルゼは獰猛で狡賢く野蛮な男だった。女、子どもの悲鳴や絶望の表情を眺めることに愉悦を感じていたクズ野郎。

だが、目の前の悪魔はソレとは違う。理性的で落ち着きのある紳士然とした男。


「さて、皆さまお初にお目にかかります。私パルバフェットと申します。

 短い間ですが以後お見知りおきを。

 そして申し訳ございませんがお命頂戴いたします。」


パルバフェットがそう言った直後、空気が重たくなった。

それはパルバフェットから放たれる濃密な殺気を含んだ圧。


ウィルさんを始め、護衛の誰もがその圧に呑まれている。

僕が動かなければ文字通り皆が死んでしまう。


「おおお」

僕は腹に力を入れて声を張り上げた。

すると、先ほどまで感じていた圧が和らいだ気がした。


「身体強化ぁ」

魔力を操作して全身に巡らせる。この3年で魔人襲撃イベントに備えてきた。

もっとも披露する相手が悪魔という魔人よりも格上の存在になっってしまったが。


僕には前世の知識がある。それにこの3年間鍛えて強くなってる実感もある。

大丈夫、悪魔の急所は分かっている。

うまくやれれば勝機はある。

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