第11話 襲撃ー対魔人戦3 切り札
side:ダリウス
「ぐぅぅっ」
ダリウスは腹に衝撃を受けて思わずその場にうずくまりそうになるが、無理矢理バックステップでその場から後ろに大きく離れた。
ダリウスが顔をあげると、元居た場所にはアナハイムが立っていた。
おそらくあそこでうずくまっていたら次の攻撃で殺られていただろう。
全く、何度死にそうになったか分からないけど、親父達の鬼のしごきのお陰だな。
ちゃんと成果に表れるのは嬉しいが、苦い思い出なので乾いた笑いしか出てこない。
始まりは悪くなかった。
俺はアナハイムに一直線に斬りかかった。
一方、アナハイムは動くことなく、剣で俺のメイスを受けた。
つばぜり合いになった瞬間に、力比べだと勝てないと理解した。
だから、直ぐ様剣を弾いたあと、スピードで勝負することにした。
一撃攻撃して即離脱。身体強化で速くなった足を活かしての高速移動で相手を撹乱しつつ死角からメイスで攻撃。
だが、アナハイムはこちらの攻撃を読んでいたかの様に全て剣で防いでいった。
十合ほど斬り結び、その全てを余裕で受け止められたため、俺は距離をとった。
「粗削りだが悪くない。」
魔人から褒められた。うれしく無いねー。
「ふっ」
身体強化した足に力を入れ、先ほどまでより2割ほどスピードを上げて移動。
アナハイムの背後に回っても反応がない。俺の速さについてこれないようだ。
もらった。
俺はほくそ笑みながらメイスを振り下ろす。
だが、そこにアナハイムはいなかった。
その直後、腹に痛みと衝撃が走った。
どうやらアナハイムが俺の腹を蹴ったらしい。偶々当たったって訳じゃなさそうだな。
なら、俺が騙されたわけか。
「ふむ、これくらいなら大丈夫そうだな。直ぐに死んでくれるなよ。」
アナハイムからは余裕が感じられる。
くそったれ。舐められてる。
「<小回復>」
右手を腹にかざして治癒魔法を発動。少しは痛みが和らいできた。
今、ダリウスが使える治癒魔法は一番簡単な魔法、小回復だけだ。
「はっ」
ダリウスは転げるように右に避けると、風が吹いて頬に裂傷が出来た。
「ほう、今のを避けるか。」
アナハイムは感心した様子でダリウスを見ている。
一方のダリウスは冷や汗をかきながら愚痴をこぼしていた。
「<風刃>かよ。なんつー凶悪な魔法を撃ってきやがる。」
アナハイムが放った魔法は<風刃>。
その名の通り、風の刃を飛ばす魔法だ。
不可視の刃は見切るのが難しいためまさに初見殺しの魔法と言える。
だが、この魔法は非常に扱いが難しい。
まず距離に応じて威力が減退していくという致命的な弱点をはらんでいる。
相応の威力を発揮するためには魔力消費を増やすしかない。
他の魔法がMP10消費するとしたら、同じだけの効果をえるためにはMP30も40も必要になってくるというわけだ。
この魔法の問題点は魔力消費が大きいだけではない。
魔法で不可視の刃を再現しているのだ。鋭利な刃な形を維持しながら飛ばすには緻密な魔力制御が必要になってくる。
だから、そんな高難度の魔法を実践で組み込んでくるとは思わなかった。
確かに近接で使えば魔力量もそこまで消費しないし魔法制御も短時間キープできれば構わないというならそこそこメリットがあるか。
「げっ。またかよ。」
再び<風刃>がダリウスを襲うが今度も躱した。
「良く避ける。不可視の攻撃をどうやって回避しているのか興味があるな。
ダリウスよ。回避能力が高いのは分かったから今度は攻撃力を示してみよ。」
アナハイムが煽ってくる。
「んにゃろう。お望み通りにしてやらぁ。<火弾>」
お返しとばかりに火で出来た弾を5つ生成。アナハイム向けて一斉発射した。
それと同時にダリウスは駆け出していた。
アナハイムは迫りくる火弾を躱しさず、すべて剣で撃ち落としていく。
もちろん、目の端で走り込んでくるダリウスの動きの把握も忘れない。
アナハイムは最後の火弾を剣で切った直後、左腕あたりが何かに引っ張られた。
一瞬の動揺、そしてアナハイムは思わず左腕の方に視線を向けてしまった。
ダリウスはアナハイムの視線が逸れたことを察知し、すかさず死角からメイスを思いっきりフルスイングした。
ガキィィィ
ダリウスのメイスとアナハイムの剣がつばぜり合いになった。
「嘘だろ。完全に違うとこ見てたじゃねーか。」
ダリウスは文句を言わずにはいられない。
「ワハハ、不思議なことをしてくれる。中々面白いぞ。
見慣れぬ小細工に少々焦らされたが如何せん、対人戦の経験が不足しておるな。
あれだけ殺気を出されては敵に今から攻撃しますと教えてるようなもんだぞ。」
ダリウスは舌打ちして再びアナハイムから距離をとった。
「御高説どうも。はぁ、分かっちゃいたけど、やっぱ今の俺じゃ太刀打ちできねーな。」
ダリウスはガリガリと頭を掻いた。
「おや?彼我の戦力差を知って諦めたかね?」
「ハッ、馬鹿言うなって。この程度で諦めるならこんなことしちゃいないんだよ。
俺は負けず嫌いでね。なんの勝算もないまま挑んだりしない性質だ。」
「我ら魔人相手に勝算ありだと。素晴らしい、それこそ賞賛に値する。」
「いや隊長、それは面白くない」
「うーん、実にナンセンス。良くないですねー。」
うーん、外野からの評価が厳しい。
急に親父ギャグぶっ込んでくるアナハイムが悪いから仕方ないけど。
「コホンッ、我ら魔人にとって好ましい思考だ。何かとっておきがあるのだな?出してみよ。」
おお、強い。鋼メンタル。
その時、ダリウスの左腕につけている腕輪が震えた。
思わずニヤリと笑ってしまった。
(ナイスタイミングだ。)
俺はほくそ笑む。
「ああ、丁度準備は整ったからな。
俺の切り札を見せてやるよ。
もちろん受けてくれるよな?」
その宣言に、アナハイムは少し思案した後に首肯した。
「その挑発、敢えて受けよう。」
ドォォンッ
西の方角で激しい音とともに一条の閃光が発生した。
それを見てダリウスは笑みを深めた。
突然のことに魔人達も含めて皆一応に驚いている。ただ一人、ダリウスを除いては。
「これは雷?だが偶然発生したものじゃないな。貴様がやったのか?」
アナハイムの問いにダリウスは首を横に振り否定する。
「俺じゃない。が、知っている。
これが俺の切り札だ。さぁ来い。〈
ダリウスが両手を地面に叩きつけると地面に幾何学模様の魔法陣が現れ発光しだした。
「は?あれが〈
そんな馬鹿な。
いやそれよりも、それは戦いの前に定めたルール違反ですよ。どういうつもりですか?」
マッドサイエンティストが抗議の声を上げる。
だが、アナハイムは冷静だった。
「なるほど、戦いの前に決めごとをしていたのはこの時のためであったか。何かあるとは思っていたが抜け目ないな。」
「なんだ、気づいてたのか。その通りだよ。」
「やられましたね。小癪な真似をするじゃないですか。」
マッドサイエンティストも気づいた様だ。
「はぁ、我が子ながら捻くれ者に育ってしまったもんだ。いや、この場合は敵を騙したと喜ぶべきか。なんとも複雑な気分じゃ。」
親父なんとも言えない複雑な表情を浮かべていた。
だがまだ気づいていない者もいる。
「えっ、えっ?どういうことですか、村長?」
混乱するレインに親父は語る。
「ダリウスは戦いの前にこう言った。
『この戦いは俺ダリウスと魔人アナハイムとの対決だ。今この場にいる誰も助太刀してはならない。』とな。
これは1対1で手出し無用だと言っているようで実はそうじゃない。この場にいない者、例えば召喚獣を戦列に加える事は否定していない。」
「なんかズルい。」
「はは、そうズルいんじゃ。だが戦術だと言われれば何も言えん。」
そうこうしているうちに魔法陣の光は眩しくて目を開けられないほどに強く発光していった。
眩い光が消えるとそこには人が立っていた。
「ほぅ。」
面白そうに微笑むアナハイム
「んなっ。馬鹿な。本当に召喚されて来たのか?一体どういう術理で…。」
マッドサイエンティストはブツブツと何やら呟いている。
「あらぁ?ボーイミーツガールかしら?」
三者三様の反応を見せる魔人達。
一方、イーレ村の人々もまた現れた人物達を見て驚いていた。
「エド、それにシスターマリア。」
レインは驚いて声をあげた。
魔法陣から現れたのはエドワードとシスターマリアだったのだ。
「えっ?」
一方、さっきまで余裕を見せていたダリウスもまた驚いていた。
今回ダリウスが発動した魔法はエドワードを呼び寄せる転移魔法の一種。
召喚魔法をもとにエドワードと共に改良した2人だけのオリジナル魔法。
てっきり現れるのはエドワードだけだと思っていたら隣にシスターマリアがいるではないか。
しかも何があったのかシスターマリアは右肩に怪我をしており血を流している。
息はしているようだが気を失っており顔色も良くない。
ナニコレ?
意味わかんないんですけど…。
事態は想定外の方向に転がっている。
今やゲームの過去回想シナリオから大きく脱線するほどに…。
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